茨に囚われて
目の前のギャリーは手を差し出している。
後から行くと言ったのは、彼。
自分を守ってくれたギャリーを信用しないで、どうするのだ。
彼に近づき、差し出された手を握る。
「イヴはやっぱりいい子ね」
彼は笑う。
「さぁ、じゃ、行きましょ……」
繋がれた手が酷く冷たかった。
大きな絵画を後にし、彼にただ付いていく。
見たこともない所まで、来ている。
「あ、イヴ」
いきなり、立ち止まると、ギャリーは振り向く。
「薔薇は大丈夫?」
頷き、手に持つ薔薇を見せる。
彼は屈むと、マジマジと薔薇を見つめる。
「ん……?なんか……。ちょっと貸してくれる?」
なにか、おかしなところを見つけたのだろうか。
はい、と薔薇を渡す。
「イヴはイイコね」
にこりと笑ったギャリーが、いきなり薔薇を握り潰す。
体に痛みが走り、そこにうずくまる。
苦しいながらも、彼を見上げる。彼は笑ったままだ。
いきなりの行動に頭が混乱する。彼は自分を傷つけることなんて、しなかったのに。
「アタシね、イヴが欲しいの」
ギャリーが手を離せば、舞い落ちる赤い花弁。
辛うじて、花弁が一枚残っているだけ。
「イヴがここにいれば、アタシは消えないもの」
言葉の意味が分からず、体の痛みから、涙が出る。
「泣かないで、イヴ。アタシがずっと、ずっと一緒にいてあげるから」
そう言い、最後の花弁をちぎった。
自分の名前を呼び、倒れた少女を、優しく抱きかかえる。
「フフ……」
笑みが溢れた。
薔薇がなくなれば、この世界の住人。ここに囚われれば、時間も記憶も、何も意味がない。
自分は、イヴに作り出された幻。イヴが戻ってしまえば、消えてしまう。
「……これで」
存在が不確かなら、確立してしまえばいい。帰る道をなくし、自分が捕まえて。
声が聞こえ、見れば、ゆっくりと赤い目が開く。
ギャリーと名を呼ばれる。
「おはよう。疲れてたのね。もう少し寝てていいわよ」
頷けば、また目を閉じていく。
「おやすみ」
彼女のギャリーは自分だけだ。
「アタシのイヴ」
名前を呼ばれ、ギャリーは目を開けた。
「……?」
顔を上げ、座りながら、寝ていたのかと、ゆっくりと立ち上がる。
名前を確かに呼ばれたはずなのに、辺りを見回せど、誰もいない。
「アタシ……」
記憶が、ない。何をしていたのか。なぜ、こんな所にいるのか。
名前は覚えている。
ギャリー。あの声が呼んだ、名前。
「誰かしら……」
あてもなく歩き出した。
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ギャリー視点へ