茨の檻
1
部屋に入り、眠るイヴを下ろし、寝かせる。
記憶が完全になくなることはない。どこかで眠っているだけだ。きっかけがあれば、思い出してしまう。
この部屋に閉じ込めてしまおう。そして、開けられないようにして。
頭を撫でる。
「忘れなさい、イヴ」
ここであったこと、自分のこと以外を。
部屋に次々と、絵が飾られていく。
イヴの記憶たちだ。
黄色の薔薇、ライター、首なし像、マネキン、キャンディー、そして、青薔薇。
青薔薇の絵画は、他の物より、一際、大きい。
これは、自分じゃない。もう一人の方だ。
もう、作品になり、いないはずだ。
イヴの方を見る。可愛らしい寝顔。
「!」
手に握られているのは、赤薔薇。
「な、んで」
散らしたはずなのに。ここから出れないように。
「もしかして……」
自分とは違う意思が働いているのか。自分を排除するために。
赤薔薇をイヴの手から、ゆっくりと抜き、ガラスケースで囲う。出現したテーブルの上に、そっと置いた。
「……」
近づいてくる気配。拳を握りしめる。
まだ、いる。嫌でも感じるもう一人の存在。二人もいらないのだ。一人でいい。彼女を守るのも、一緒にいるのも。
青薔薇を探さなければ。先に手に入れなければ。
イヴを抱え、部屋を出る。
扉を閉めれば、茨が扉を覆った。
「……ん」
声が聞こえ、イヴを見ると、ゆっくりと目を開けた。
「おはよう」
「おはよう、ギャリー」
笑顔で言えば、笑顔が返ってくる。その笑顔も、なにもかも、自分にだけ、向けてくれればいい。
「おろして、歩けるから」
イヴの言う通りにする。おろしてやれば、手を繋がれる。
しかし、近くに感じる気配。
「イヴ、ここで少し待ってて。なにがいるか、分からないし」
イヴの表情が曇る。
「置いていかないわ、大丈夫。おいでって言うまで、ここにいるのよ?」
頷けば、名残惜しそうに手を離される。
頭を撫で、気配に向かっていく。
やはり、いた。
「アンタの居場所はそこでしょ?」
もう一人の自分が、茨に足を取られていた。
茨が出ている絵画。タイトルは、忘れられた肖像。
そう、イヴに忘れられたこっちは、ここにいるはずだった。
こちらを見ると、目を見開く彼。
「だ、誰よ……アンタ……」
同じ声は、震えていた。
「アタシ?ギャリーよ」
胸に手を当て、笑う。
「なに、言ってるのよ!アタシがギャリーよ!」
名前は覚えているのか。
記憶はなくなっているはずなのに。
「アンタがギャリーっていう証は?確証はあるの?」
そう言えば、口をつぐんだ。そう、何もない。
忘れられた、消えるはずの存在だから。
「アタシにはあるわ……おいで!大丈夫よ!」
呼びかければ、走ってくる足音。見えてくるのは、愛しいイヴ。自分をギャリーと呼んでくれる存在。
「ギャリー!」
寂しかったのか、抱きついてくる。
見上げる顔は、安心したのか、笑顔だ。
「ギャリーはアタシよ」
イヴは、あちらを認識しない。イヴにとってのギャリーは自分だから。
見れば、悔しそうな表情。
背を向け、イヴと手を繋ぎ、歩いていく。
後ろから、なにか聞こえるが、気にしない。
どうせ、もうすぐその声も聞こえなくなる。
絵画に取り込まれ、彼は作品になるのだから。
声が聞こえなくなり、ほくそ笑んだ。
扉をくぐり、廊下を進んでいたが、胸騒ぎがする。
まだ、消えていないのか。
あそこには、彼を助ける存在なんていなかったはずだ。
そこまで考え、自分には邪魔する見えない存在がいることを、思い出す。
誰かが助けたのかもしれない。
青薔薇も見つからない、内心、苛々していた。
「ギャリー」
手を引っ張られ、我に返る。
立ち止まり、イヴを見た。
「なにかしら?」
「私、疲れた」
「あら、気づかなくてごめんね……あそこの部屋で休みましょうか」
近くにあった部屋に入る。
入ると、床に紙切れが落ちていた。
拾い、見てみれば、消えろと緑のクレヨンで書かれていた。紛れもなく、宣戦布告。
子供の字。思い当たるのは、一人。
「なにそれ?」
「ゴミよ」
丸めて、ポケットに入れる。
壁を背に、二人で座る。
横から重さを感じ、見てみると、イヴが寄りかかってきていた。
見上げる目は自分しか、映っていない。
そう、それでいい。
休憩も終え、また、進んでいく。
見つかることがない、出口を探して。
それがイヴの目的。
自分の目的は、青薔薇なのだけれど。
目に付いた部屋に入って、探索してみるが、絵画や本だけで、青薔薇は見つからない。
本や絵画を見ては、イヴが読めない字を教えてあげつつ。
イヴには、笑顔で接していたが、内心、青薔薇が見つからないことに、酷く焦っていた。
彼と別れてから、時間が経っている。
もう、手に入れているのかもしれない。
「ギャリー……あれ」
イヴが指すのは、燃えてボロボロになっている扉。回りの壁は綺麗なままで、それだけ、とても浮いていた。後から、これだけを、はめ込んだみたいに。
近づき、扉に触れれば、崩れていき、中が見える。
少し薄暗い部屋に入れば、壁が燃えたのだろうか、真っ黒になっていた。
真新しいテーブルが置いてあり、ライターが置かれている。
そして、壁には一つだけ、割れた額縁が飾ってあった。燃えた紙が入っている。
「見たことあるような……」
そうイヴが呟き、額縁を見ていた。
ライターを手に取ると、流れ込んでくる、記憶。
ライターの火で照らし出された、不気味な、文字だらけの部屋。
イヴに叩かれ、泣きそうな表情をしながら、彼女が抱きついてきた。
青薔薇と赤薔薇を交換し、笑いながら去っていく金髪の少女と、赤薔薇を差し出せば、申し訳なさそうなイヴ。
体の痛みに堪えながら、彼女と別れたこと。
暗転し、いきなり見えたのは、燃える絵と、燃えていく金髪の少女。
頭が重く、手を当てる。
この部屋に飾ってあるあの額縁は、今、記憶の中で見た。
イヴはまだ、覚えているのか。
完全に封じ込められていないようだ。
この部屋は、あの金髪の少女の記憶か。
名前は、確か。
「メア……リー……?」
イヴが、額縁に近づき、触れようと、手を伸ばす。
「駄目よ、イヴ!」
腕を引っ張れば、イヴは不思議そうに、こちらを見てきた。
「ガラスが割れてるし、怪我しちゃうわよ」
もう一度、額縁を見るイヴ。
「そうだね……」
そう言うと、手を下ろす。
「早く出ましょ。なにもないみたいだし」
ライターをポケットに入れ、イヴの手を引き、部屋を出る。
「え……」
部屋を出れば、入口が塞がれ、ただの壁に。
「あれ、なにか……わす……」
イヴがいきなり、倒れる。
「イヴ!」
体を受け止める。
記憶が無くなる時は、気絶してしまうのだろう。
起きるまで、どこかで休ませようと、イヴを抱え、歩き出した。
「ギャリー!」
名前を呼ぶ声と背中からの衝撃で、目覚めるギャリー。
何か背中で跳び跳ねている。
「な……によ」
背中から飛び降り、目の前にやってきたのは、青い人形。
茨に捕まり、絵に取り込まれそうになった時に、助けてくれたのだ。
なぜ、動いて、喋っているのかは分からないが。
そして、ここで自分をギャリーと呼んでくれる存在だ。
起き上がり、座り込む。
「いきなり倒れて、どうしたのよ!?」
「分からないわよ……いきなり、視界が真っ暗になったんだから」
歩いていたら、いきなり視界が真っ暗になった。
そして、気づけば、人形が背で跳び跳ねていたのだ。
「さっさと行こう」
「はいはい、分かったわよ」
壁を支えにしつつ、立ち上がる。
なにか違和感を覚えつつ。
イヴの起きる気配がない。
部屋に入り、彼女を横にする。
「……チッ」
嫌でも感じる存在に、舌打ち。
近づいてくる。
「すぐ戻ってくるから」
そうイヴに言い、部屋を出た。
2
今度こそ、絵の中に閉じ込める。
そう強く願えば、壁に現れたのは、忘れられた肖像。
主人を待っているのだ。
「よいしょっ……」
出てきたもう一人の自分を、茨で捕まえ、地に伏せさせる。前にはいなかった人形も捕まえて。
「本当に邪魔ね」
彼を見下げれば、睨み付けてくる。
「また、アンタね……!」
「放しなさいよ!」
喋る人形。少女の声をしていた。
「アタシがギャリーよ!アンタは偽物よ!」
そう主張する彼。
「そうよ!ギャリーは一人しかいない!」
たたみかけるように、人形も主張する。
この青い人形は、宣戦布告してきたメアリーだろう。
燃やされて、いなくなったはずだが、自分を排除するために復活したのか。今は、人形という寄り代で。
一度は消えた存在に消えろと言われたとは、笑えてくる。
「アンタをギャリーって呼ぶの、その人形だけでしょ?」
「……充分よ!」
人間でもない、それに呼ばれて満足なのか。今は、それくらいしか、すがるものがないから、しょうがないか。
「そんな、まがいものに、消えた存在に、呼ばれて?笑えるわ!」
そう吐き捨てる。
「うるさい!!」
声を荒げる人形。
正体をばらしてないのか。そして、彼も理解していない表情をしている。
「お客様でも、作品でもないやつが、ここにいちゃダメなのよ!」
正確に言えば、メアリーもなのだが。
「でたらめな世界にして……!」
ここは、元々からおかしかったではないか。
絵が動き、像が動き、非常識なことが起きる。
自分がいることで、でたらめな世界になったのは、確かだろう。
意思が反映されるのは、その為。
忘れられた肖像が現れたのも、茨が操れるのも。
しかし、そんな世界だから、彼女は存在できているのだ。自分を排除して、正常に戻そうと、メアリーを存在させている。
感謝してほしいものだ。
「アンタも……」
言葉を切る。ギャリーの近くに転がる黄色のキャンディーを発見したから。
その視線に、彼は気づく。手を伸ばし、キャンディーを掴もうとするので、茨で押さえつけた。
「わっ……!」
そのまま、絵画の方に、引きずられていく。
キャンディーを拾い、彼に勝ち誇った笑みを向ける。
抵抗しようと、無駄なことをしていた。
記憶が流れ込んでくる。
コートをかぶり、寝ているイヴ。起きた彼女は悪夢を見たらしく、慰めるために、コートのポケットに入っていたキャンディーをあげた。
青い人形の部屋で、鍵を必死に探し。
クレヨンで、できた太陽の光を浴びながら、マカロンを一緒に食べに行く約束をして。
項垂れる自分の手から、ライターを持っていく。
最後のは、もしかしてイヴの記憶か。もしかしたら、前、見たのも。
「うっ……」
「ギャリー!」
大人しくなった彼。必死に人形が呼びかけているが、反応していない。
彼も、気絶するのか。
「なにしたのよ!」
「なにもしてないわよ」
そう言いつつ、キャンディーをポケットに入れる。
ギャリーを見れば、体の一部を絵画に取り込まれていた。
なんだか、興ざめだ。
イヴの所に戻ろう。
目覚めて一人なら、不安でしかたないだろう。
部屋に戻ると、イヴは起きていた。
「ひっく……ギャ……リー……」
座り込み、泣いている。
「イヴ!」
声をかければ、顔を上げた。
「ギャリー……ギャリー!」
膝を付け、イヴと同じくらいになる。胸に飛び込んできた彼女の抱きつく力は強い。
「一人にして、ごめんね。イヴ」
力強く、抱きしめる。泣く声が大きくなった。
「本当に、ごめんなさい」
泣きやむ様子がない。機嫌を損ねてしまったかもしれない。
イヴは置いていかれることを、一番、嫌がっていた。
「イヴにね、良いものがあるの」
ポケットからキャンディーを取り出す。
「キャンディーよ」
抱きしめるのをやめたイヴは、まだ涙を流しながら、キャンディーを見る。
それは、赤色をしていた。拾った時は、黄色だったのだけれど。
「あげるわ。だから、泣きやんでちょうだい」
ゆっくりと頷き、キャンディーを手に取る。
「ありがとう」
「ううん」
一人にしたのはこちらだ。
イヴは、ハンカチを取り出し、涙を拭う。
そして、笑顔を見せてくれた。
ギャリーは、壁を背にもたれかかり、その前で跳ねている人形。
「もう!しっかりしなさいよ」
人形に怒られる。
「ごめん……ありがと」
また、人形に助けられてしまった。
意識を取り戻した時には、体の半分は、取り込まれていた。
「アレをあいつに盗られて、いきなり……」
「アレって……何?」
そう聞けば、人形はまた、怒る。
「アレって……!アレよ!」
名前が出てきていない。
「なんだっけ……」
人形も跳び跳ねるのをやめ、考え込んでしまった。思い出せないらしい。
盗られたと言っていたが。
「アタシが持ってるのは、コレだけよ」
地に伏せさせられた時に、腹の下で必死に握り、自分の体で隠し、気絶している間も握っていた青薔薇だけ。
歩きながら、イヴはキャンディーを指でつまみ、見つめていた。
そんなことをしていると、こけるわよと注意するが、イヴは大丈夫と言って聞かない。手を繋いでいるから、こけたとしても、大丈夫だと思うけれども。
「ねぇ、これ、レモン味かな」
「いちご味じゃない?赤色だし」
包みは赤。もしかしたら、違うかもしれない。
「食べてみたら、分かるんじゃない?」
「そうだね」
イヴは立ち止まり、手を離し、包みを開ける。中身も赤だ。
口の中に入れると。
「いちごだ……」
少し残念そうに呟く。
「嫌い?」
「ううん」
首を横に振るが。
「でも、ちょっと残念」
いちごの甘い匂いが漂う。
また、手を繋ぎ、歩き出した。
「おいしかった」
イヴは、もうキャンディーを食べ終えたようだ。
「よかったわ」
そう笑ったが、いきなり、背中に衝撃を喰らい、イヴの手を離してしまい、前に倒れた。
床に手を付き、起き上がり、振り向けば、イヴを抱きかかえている、もう一人の自分。
取り込まれなかったのか。
しかも、その手には、青薔薇。
「その子に触れないでッ!」
せっかく手に入れたのに、盗られてしまう。
茨が出現し、逃げようと走り出した、彼の足を取り、転ばせる。
放り出されたイヴは、横たわるだけで、起き上がる気配がない。
「邪魔しないでよ!」
青い人形が、顔めがけて、飛んできた。顔に張り付く。
「アンタなんか消えちゃえ!本当はいないくせに!」
青い人形の部屋を思い出し、少し怯むが、イヴを取り返さなければという思いが勝ち、人形を顔から引き剥がす。
「消えるのは、アンタよ」
ポケットからライターを取り出し、蓋を開ける。
「やめなさい!やめてッ!!」
制止の声は、届くはずはなく。
「いや……!イヤ……!」
暴れる人形に、火を近づければ、叫び声と共に、燃えていく。
目を開け、起き上がると、ギャリーが燃えている人形を持っていた。
その人形は生きているように、動いている。
「あ……あ……」
頭の中に流れてくる、燃える絵とメアリー。
いつの間にか、周りは暗闇。
目の前に燃えているメアリーがいた。
「メアリー……」
「イヴ、ひとりぼっちね」
声が出ない。
「本当は分かってるんでしょ?」
彼女は笑う。
「ギャリーは眠ってなんかいない」
耳を塞ぎたかったが、体が動かない。
「ギャリーは死んだんだよ、イヴ」
そう言い、彼女は灰になった。
そして、目の前には。
「……っ!」
散った青薔薇と項垂れるギャリー。
「いやあああああ!」
イヴの叫び声に二人は驚く。
目を見開いた彼女は、手を宙へと伸ばす。
「ひとりぼっちは、いや!いやなの!!」
その目は、暗い闇と涙を湛えて。
「置いて、いかないで……!……ギャリー!……メア、リー……」
事切れたように、イヴは倒れた。
彼はイヴに必死に呼びかける。
「ちょっと、大丈夫!?ねえ、ねえったら……!」
自分以外の声なんて、届かない。無意味なことを。
彼に近寄り、手に持つ青薔薇を奪った。
「か、返しなさい!」
「嫌よ」
笑みを向け、青薔薇を散らしていく。
「うっ……ぐっ……」
苦しそうな声と、痛みに歪む顔。
「じゃあね」
最後の一枚を、千切る。
動かなくなった彼を、茨が引きずっていく。その先にあるのは、忘れられた肖像。
「ウフフ……アハハハ!」
笑うのを堪えられなかった。
勝った。これで、イヴのギャリーは自分だけ。
花弁がなくなった薔薇を捨て、イヴに近づいた。
「ずっと一緒よ、イヴ」
イヴはギャリーと手を繋いで歩いていた。
先が見えない通路を進んでいた。
「イヴ」
彼は名を呼ぶと、立ち止まる。
見上げる表情は、どことなく悲しく。
「アタシ、もう行かなきゃ」
「どこに、行くの?」
そう聞いても、彼は微笑むだけ。
「一緒にいれなくて、ごめんね」
なぜだろう。こうして一緒にいるのに。
彼を掴もうと、伸ばした手には赤薔薇が。いつの間に、持っていたのだろう。
ギャリーは、それを手から抜き取る。
「せめて、これだけ……」
薔薇を握りしめ、歩き出すギャリー。
背を向け、進んでいく。
振り向いてもらおうと、止まってもらおうと、名前を呼んだ。
しかし、その背は遠ざかるばかり。
追いかけようとすれば、足が動かない。見ると、足に茨が絡みついていた。動かせば、拘束が強くなるだけ。
「私、いい子でいるから……!ねえ……!」
手を伸ばす。
「お願い、一緒にいて……!」
ひとりぼっちは嫌だ。
「ギャリー……」
目を開ける。
「ん?どうしたの、イヴ」
そばに座っていた彼が、笑顔でこちらを見ていた。
近くにいることに、安心し、堪えきれずに涙を流す。
「どうしたの!?」
彼に抱きついた。
「ギャリーが、私を置いていっちゃう夢を見たの……」
頭を撫でられる。
「アタシなら、ここにいるじゃない」
何度も頷いた。
顔を上げると、涙が拭われた。しかし、不安は拭えない。
「一緒にいてね、ギャリー」
「当たり前じゃない!」
笑顔で、力強く抱きしめられた。
「離さないわ、絶対に」
耳元で言われた言葉は、とても愉快そうだった。
抱きしめるのをやめると、イヴは、もう泣きやんでいた。
ゆっくりと、後ろを向く。
飾られている絵画を見つめているようだった。
「あの絵……悲しいね」
「そうかしら」
そこに描かれているのは、自分そっくりな男性。周りには、青薔薇と茨。赤薔薇を胸に抱いて。
題名は、忘れられた薔薇。
もう夢は覚めない。
プロローグ
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Continue......?