化物と人間 3
ジョナサンはディオに任せられたことをやり終わると、また書庫へと向かった。
本はまだまたある。吸血鬼について全てを知っているわけではないし、半吸血鬼についても。
血をあげれば、答えてくれるだろうか。
彼女自身についても。
自分の研究ノートを広げ、本に書いていた吸血鬼の特徴を書いていく。
見た目は人間と変わらない。
血を吸うときだけ、牙を出す。
ほとんどが、若く麗しい容姿をしている。
身体能力が超人的。
爪は伸ばすことができ、刃のように鋭く固い。
催眠術が使える。
食べ物は受け付けない。
吸血鬼は吸血鬼が分かる。
本能で血を求める。
血を摂取していれば不老不死である。
血があれば、どんな状態でも生き返る。
血の匂いには敏感である。
太陽を浴びれば、消滅する。
血がなければ死ぬ。
書き出していて、ディオはこれにどこまで、あてはまるのかと考えていた。
太陽の光は苦手なだけだと言っていたし、食べ物も食べると。
半分人間ということで、吸血鬼の力は制御されているのだろうか。
小さなカーテンがかかっている窓から光が差し込み、机に光が当たっている。カーテンを開け、ランタンの光を消す。オイルも残り少ない。
買い物に行くときに一緒に買おう。
違う本も見ようと、立ち上がり、本を探す。吸血鬼関連以外にも様々な本があった。ブラム・ストーカーの本もあった。ここの本を読んだのだろうか。
色々な本を見ている内に、自分は疲れたのか、いつの間にか眠っていた。
「なあ、ジョナサン」
「どうしたんだい、ジョセフ」
目の前にいる弟は、なんだか悲しそうな表情をしている。
「今回は長くなるのか?」
「うん、多分ね」
この屋敷に一人残されるのは、寂しいのだろうと思う。
父が病で死に、母親はジョセフが産まれて間もなくして亡くなってしまい、二人だけの家族だ。
大きくなったとはいえ、兄と離れるのは寂しいのだろうと思う。
「皆もいるし、シーザーもいるじゃあないか」
この屋敷には、使用人がいるし、彼の幼なじみであるシーザーもいる。
「そうだけどよォ……」
頭を優しくなでる。
「大丈夫、帰ってくるよ」
笑うとジョセフもつられるように笑った。
そう自分が研究で屋敷を長くあけることは珍しくない。
今回もある程度したら、あの家に帰るのだ。
帰る場所はあそこしかない。
ディオが目を覚ましたのは、日が沈む前だった。
橙色をした光が見え、もうすぐ沈むだろうと、起き上がった。
寝巻きからドレスに着替え、ジョナサンに与えた部屋に行ったが、彼はいなかった。
その部屋を出ていき、書庫に行くと、彼はいた。
机に肘をつき、それを支えにして寝ている。
太陽の光が彼を照らしていた。眩しさを堪えつつ、カーテンを閉める。
開いたままの本とノート。ノートを見れば、吸血鬼の特徴が書いてあり、半吸血鬼、主に自分のことが少しだけ書かれていた。
本は普通の冒険記だった。気分転換に読んでいたのだろうか。
しかし、ジョナサンは近くに来ても起きる気配がない。自分が気配を知らず知らず消しているのかもしれないが。
前も声をかけなければ、気づかなかったのだ。
クセがある髪を触る。そういえば、自分から人間に触れるのは吸血する時くらいだ。
何もなく、人に触れるのは、幼いあの時、以来だろうか。
髪を触っても彼は起きない。
どれだけ深く眠っているのだと、顔を近づける。
ジョナサンは目を開け、いつの間にか眠っていたのだと、意識を覚醒させた。
「ようやく、お目覚めか」
ディオの顔が間近にあった。
「え……え……うわッ!」
動揺し、顔を引こうと体全体を後ろに傾かせると、椅子の足が浮き、そのまま後ろへ。
奇妙な浮遊感の中、腕が掴まれ、彼女の方へと引っ張られる。
耳には椅子が倒れた大きな音が届いた。
「何をしている?寝ぼけているのか」
気づくと、自分は彼女に抱きとめられていた。細い体がぐらつくこともなく、自分の体重を支えていた。
体に当たる柔らかいものに、慌てる。
「ご、ごめんッ!」
体制をなおし、自分の足でちゃんと立つ。
「別にいい。そろそろ、買い物に行くぞ」
部屋を出ていく彼女についていく。
一度、ディオは部屋に戻り、小さな鞄を手に戻ってきた。
「お金ってどうしているんだい?」
「この屋敷には色々あるからな」
笑って誤魔化される。
あまり詮索する気もないため、それ以上は聞かないことにした。
屋敷を出ると、町へと向かう。日は沈み、もう暗かった。
遅い時間では、店は閉まってしまうため、日が沈んだと同時に行かなければならない。
食料を買い、ディオはさっさと帰ろうとしたけれども、ジョナサンがオイルを買いたいと。
「あそこ、明かりがないから」
まとめて買うことになり、オイルは店主が屋敷まで運んでくれることになった。
店主がオイルを運んでくれたのを迎えたのはジョナサンだった。
屋敷の前に置いてもらうことにした。ディオが屋敷に入れることを許可しなかったからだ。
「兄ちゃん、あの人とどういう関係だい?」
「どういう……?」
どういう関係と聞かれても困る。言葉にするなら何がふさわしいだろうかと考える。
「いや、あの人、ずっと一人だったからよ」
何かあるのだろうと、勘ぐられたらしい。
「ずっと?」
「前は母親がいたみたいだかなぁ。おっと、すまんね。また」
オイル代を支払うと、店主は帰っていく。
その姿が見えなくなってから、置かれた樽を中へと運ぶ。
「帰ったか」
食料を置いて、ディオが戻ってきた。
「うん。もういないよ」
「お前は明かりをつけてこい。後はわたしが運ぶ」
自分が運ぶと言おうとしたが、軽々と樽二つを抱えた彼女によろしくお願いしますとしか、言えなかった。
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