胸に花を抱いて 7

「途中まで送る」
「珍しいな」
ディオは笑った。あの後だ。彼女に変な虫がつくのは、避けなければ。
後ろを見て、シーザーという奴が追いかけてきていないことに安心する。
歩いている彼女がいきなり立ち止まったので、立ち止まると、彼女は銀色の懐中時計を見ていた。
それは、ジョナサンが彼女に送ったものだった。外によくでかけるため、必要だろうと。
最初は、ジョナサンが父から贈られていたものを貸していたのだが、彼女自身の物をと贈ったのだ。
ジョナサンは彼女と歳が一番近いため、仲がいい。家族以上の気持ちを抱いているのかと思ったこともあるが、彼は他に想っている女性がいるので、勘違いだろう。
承太郎も彼女は、大切な姉だと思っている。ディオに一番、執着しているのは彼だ。
家の者以外の男が彼女に触れれば、問答無用で手が出る。一緒に男が並んでいるだけでも、不機嫌になるほどだ。
この貧民街で、彼女を狙っている輩は多く、手を出そうとしている奴は、承太郎と共に全て実力行使で自分たちが守っていることを分からせた。
彼女は気づいているのかは知らないが、ディオの安全は自分たちが確保している。
また、分からせないといけない人物がいるのなら、承太郎と共に害虫駆除はしなければ。
彼女に黙っているのは、理由がある。
簡単に言えば、罪滅ぼしだ。
幼い頃、女性とは知らずに殴ったことがあり、そのことから、彼女とは仲がいいとは言えない。
後ろめたさは、まだ引きずっている。異性には悪戯をすることはあっても、殴らないと決めていたのだ。
あの後、彼女は気にしていないようだったが、自分は避けてしまった。
そこからの確執はまだ、ある。
気にしないようにはしているが、嫌でも気にしてしまう。
屋敷に帰らない理由の一つでもある。
あまりあの屋敷の堅苦しい生活が苦手なのもあるし、やりたいことがあるためだが。
しかし、屋敷に帰らないと、彼女はわざわざ自分を探し、来る。それは、正直に言えば嬉しい。気にかけてくれているのだと、いつも安心する。

「ジョセフ」
名前を呼ばれ、彼女を見る。懐中時計を仕舞い、こちらを見ていた。
あの最初に会った少年のような時とは、別人のようだ。
「なんだ?」
「喧嘩をするなよ。パーティーに傷だらけで出る、ということにならないようにな」
「怪我をしなきゃいいんだろ?」
「まあ、そうだがな」
彼女は笑い、歩き出す。
いきなり前に倒れていく。
「ディオ!」
体に腕を回し、こちらに引き寄せ、倒れるのをふせぐ。
「瓶が……」
足元には転がる瓶があった。これにつまずいたのだろう。
密着する体に意識を持っていかれる。細い体だが、柔らかさがある。あたたかな体温。
「ジョセフ?」
いつまでも離さないからだろう、怪訝そうに名前を呼ばれた。
ディオを解放する。
「ぼーっとしてっからだ」
「うるさい」
不機嫌になった彼女のすぐ隣で歩く。
いつでも助けられるように。

シーザーは不機嫌に男を見る。
「あんまり、あの人にちょっかい出すな」
左頬に傷があるそいつがそう言う。あの人とは、ディオのことだろう。
「あんた、名前なんだっけ?」
彼の名前は知らない。
「名乗ってなかったか?おれはロバート・E・O・スピードワゴンだ」
「スピードワゴン、なんでだよ?あの人はあいつの姉ってだけだろ」
義理の姉。家族だから大切には思うだろうが、自分が口説いても何も問題はないはずだ。
「だからだよ。あいつが一番、大切にしている人だ。弟もな」
殴られたくなければ、手を出すなと。
触れただけで、ジョセフは怒っていた。弟の承太郎は、迫っていたら問答無用で殴り、手当てもさせなかった。
そして、彼女は血が繋がっていない。
「もしかして……」
行き着いた答えを頭に浮かべながら、彼を見ると、分かっているのか頷いた。
「あいつらは言わないけどな。言うと殴ってくるぜ、特にジョセフは」
そのことを彼に言うと、思いっきり殴られたらしい。図星なのだろう。
「忠告したぜ」
スピードワゴンは酒場を出ていく。
自分もあまり長居する訳にはいかないだろうが、店主は無理に動かなくていいと労ってくれた。
休憩していると、店主が声をあげた。
救急箱の中から袋を取り出していた。その中から出てきたのは、金だった。
お礼だということだろう。
店主が呼びかけてきて、袋を投げてきた。まだその中には、金が入っている。
「彼女と知り合いだろ?お釣り、渡しといてくれ」
そう言う店主は、金貨を手にしていた。
ちゃっかりと必要な金は取ったらしい。
なんで自分がと思ったが、これで彼女と会える口実ができる。
スピードワゴンの忠告を聞く、義理はないのだ。
分かったと懐に入れ、休ませてくれたお礼を言い、酒場を出た。


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2013/07/25


BacK