胸に花を抱いて 4
「お義父さん」
「ディオ」
部屋に入れば、義父は棚の前にいた。
「横にならないと……」
「分かっているよ」
ベッドに戻るのに手を貸す。
ジョースター卿が病におかされていると判明したのは、数ヵ月前。
子供四人を育てるために、彼はずっと仕事しており、その合間に子供たちとも交流していた。
無理をしていたのだと思う。
仕事先で倒れ、入院していると便りが来たときは、屋敷がざわめいた。
今は、屋敷で静養中だが、病は少しずつ体を蝕んでいると聞いた。今は医者と薬のお陰で、普通に生活をするのは支障がないが。
病のせいか、一気に老け込んでしまった。
彼がこうなってからは、ジョナサンは次期当主としての教育を叩き込まれている。
ジョセフは前より屋敷に帰ってこなくなった。
承太郎は前より、無茶をしなくなっている。
自分は慈善活動をやめようかと考えたが、義父は続けなさいと。
自分のことは心配するなと言って。
「ジョセフは相変わらずのようだな。安心した」
ベッドに座る、彼は笑う。
ジョセフを彼に会わせたのは、心配していたからだ。
毎日ではなくても、顔を見せるようにと言っているのに、彼はなかなか会いにこない。病に蝕まれる父親をあまり見たくないのかもしれないが、心労は増やしたくはない。
「元気なのは、いいことだ」
「元気過ぎるのも考えものだと思います」
「苦労をかけてすまないね」
「いえ、わたしはそう思っていませんから。お養父さんは、治すことだけに集中してください」
そう言い、手を握る。
大きな手だ。まだこの手を自分たちは必要としているのに。
義父が休むので、部屋を出て自分の部屋へと帰る。
出迎えるのは、朝に届いた贈り物。
こんな物いらない。
何をもらっても嬉しくない。
彼らはこんなもので自分の愛を買えると思っているのだ。
中には会ったことなどなく、噂だけで自分に贈り物を送ってくる者もいる。
呆れてしまう。一人の人間にどんな幻想を抱いているのだろうか。
机に向かい、ペンを取る。便箋に書いていく、内容を考えていくが、溢れる贈り物を見て、やはり迷惑だと思う。
いらないと書いてしまおう。もう仕舞える場所もないのだ。
それで、繋がりが切れるならそれまでだろう。
黙々と書いていたが、書く枚数が枚数だ。手伝ってもらおうと、ジョナサンの部屋に行く。
扉をノックすれば、返事が。
部屋に入れば、ジョナサンはなんだいと声をかけてくる。
お礼の手紙を書くのを手伝ってくれと言うと、快く引き受けてくれた。
自分の部屋に戻り、自分は便箋に書き、彼は封筒に入れていく。
それもすぐに終わり、自分の筆跡を真似て彼は自分が書いた文面を書いていく。
「書くんだ。いらないって」
「必要ないものが多すぎる」
「まあ、ね」
部屋に置いてある物を見て、彼は苦笑する。
ジョナサンに手伝ってもらい、手紙もできあがった。
「終わったね」
後は執事に預ければ、送ってくれるだろう。
手が痛く、手を握ったり開いたりしていると、マッサージしようかと聞いてくる。
手を差し出せば、彼は驚いていた。冗談だったのだろうが、ペンをずっと握っていたため手が痛い。
しろと手を差し出していると、ジョナサンは手に触れると、マッサージをしていく。
「ディオの手、綺麗だよね」
その言葉に、シーザーを思い出し、顔をしかめた。
「何か……あったのかい?」
自分の反応に彼は、心配してきた。
「今日、倒れていた男を介抱したんだが……」
シーザーの話をし終わるころには、手のマッサージは終わっていたが、彼は手を離さない。
「承太郎は、本当に君が好きだね」
「まだまだ子供だがな」
彼は大きくなり、力も強くなったが、中身が子供だ。ジョセフの影響か、乱暴なところもあるが、理由がなければ手を出さない。
ジョセフと承太郎では、年下の彼の方が中身は大人だろうが、彼の存在は、いつまでも、かわいい弟だ。
「ジョナサン。そろそろ、手を離せ」
いつまで握っているのか。ようやく気づいたのか、手が離された。
「手はもう痛くないかい?」
「ああ」
お疲れと言うと、彼は自分の部屋へと帰っていった。
まだ触られている感覚がまだ手に、残っていた。それをなくすために、手を振った。
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