胸に花を抱いて 13


「ディオ」
「シーザー」
待ち合わせは学校、授業が終わったらデートだが、シーザーは花束を差し出してきた。
笑顔で受け取ったが、内心、腹の足しにもならないものをと愚痴る。これなら、貰わない方がマシだ。花は枯れて、最後にはゴミになるのだから。
しかも、今から授業だというのに。
「いいなあ!先生!」
「きれー!」
色とりどりの花の集まりを見て、少女たちを中心に自分の周りに集う。
シーザーにあげてもいいかと聞くと、彼は快諾してくれたので子供たちに分けていく。
「お礼はシーザーに言うのよ」
「ありがとう!」
「お花、キレイ!」
子供たちにお礼を言われ、彼は嬉しそうだった。
残った花は花瓶にさし、部屋の角に置いた。

授業が終わり、デートだったが、何もプランはないらしく、シーザーはこの町には初めて来たばかりで、よく知らないと言う。
「それでよく、デートをしようと思ったな……」
呆れてしまう。
「君と一緒にいたかったんだよ」
肩に手を回し、抱き寄せてきたので、その手を払い、離れる。
「まあ、いい。最初は身形からだな」
今の彼は自分にふさわしいとは思わない。自分と一緒にいるなら、それなりの格好をしてもらわなければ。
「髪と服をどうにかする。デートはそれからだ」
歩き出せば、慌ててシーザーがついてくる。デートなのだからもう少しくっついてもいいのではないかと言ってきたが、身形を整えてからだと、要求を拒否をした。

そんな二人を見ている人影は、二方向からあった。
建物の影から見て、その巨体が隠れは訳がないが、二人は気づいていないようだ。
ジョナサンは一緒にいる承太郎を宥めていた。シーザーがディオの肩を手を回した瞬間に、飛び出そうとしたのだ。
ディオのことになると、熱くなってしまうのは、いつものことだが、彼女がシーザーとデートをすることを知った彼は見るからに不機嫌だった。それが、余計に拍車をかけているのだろう。
「あいつ、ディオにベタベタ触りやがって!」
「抑えてよ、承太郎!」
自分だって、邪魔しに行きたいが抑えているのだ。
シーザーが彼女に、手を出した時には、止めに行こうと二人を見張っている訳で。
触れる場所も限られるが、肩はまだ許容範囲内だ。彼女も嫌がるようにその手を払った。
「ぼくたちは邪魔したいわけじゃあない!」
兄弟たちに相談した時は、邪魔をすることで話が進んでいたが、それがディオにバレた時には、彼女は怒り、自分たちを嫌うことになる。
それと、その邪魔がシーザーだけではなく、彼女、他人に危害を加えることになれば、リスクは高い。
だから、見張るだけ。危機管理がない彼女を守るために。

そして、反対側にいるジョセフと無理矢理付き合わされていると言ってもいいスピードワゴン。
「あいつ、これが終わったら殴ってやる……!」
その言葉を聞きつつ、スピードワゴンは彼が飛び出さないかと、ハラハラして見ていた。
「やっぱりさ、おれが女装してシーザーを誘惑した方がいいんじゃあねえの」
「やめとけ」
その案を他の兄弟たちに言ったときには、一言で却下されていたではないか。シーザーにもディオにも、一瞬でバレるだろう。
しかも、彼の体格で女装など無理がある。その前に入る、女物の服がないだろうに。
「こっち来るぜ!」
慌てて物陰に隠れる。
「金の心配ならいい」
「そういうことじゃあなくってさ……」
そんな会話が聞こえる。デートと言うわりに、結構、殺伐としている。
二人が過ぎ去ったのを声で確認し、また元に戻り、二人の後をつけた。

「なかなか、いいじゃあないか」
「そうか?落ち着かねえ」
身形を整えたシーザーは好青年と変身した。
上げていた髪を下ろし、着ているものも、真っ白なシャツに黒のジャケット。
一番上のボタンは息苦しいと取められてはいないし、ネクタイもしていないが、それなりに見える。馬子にも衣装とはこのことだろう。
元々、整った顔立ちだったために、通りすぎていく女性たちが彼に視線を向けたり、見とれていたりしていた。
「それなら、わたしの隣を歩いても大丈夫だな」
彼の隣に立つ。
「……今まで、先々、行ってたのは、ふさわしくなかったから?」
頷けば、苦笑いされた。
これでも貴族の娘なのだ。義理だが。それなりには、してもらわなければ。
「シーザー、行きたいところがある」
「どこでも付き合いますよ、お姫様」
また、肩に手を回し、抱き寄せてきた。今度はそれに身を任せ、腕に手を回せば、彼はとても嬉しそうだった。

「抑えるんだ!承太郎ッ!」
飛び出しそうな承太郎を後ろから羽交い締めにする。
ジョナサンはつくづく、承太郎より体格がよかったことに感謝した。
彼より力がなければ、彼は今ごろ、飛び出し、シーザーを殴っている。それは、一発という優しいものではなく、気がすむまで。
ジョセフにはスピードワゴンというブレーキがあるため、大丈夫だろうが、承太郎は一度、こうなると手がつけられなくなる状態に。それは、長年、兄として接してきた経験を発揮して、宥めていく。

「承太郎、怒ってるな」
スピードワゴンは反対側にいる二人を眺めていた。ジョナサンが色々言っているみたいだが、それは耳に入っているのかどうか、あやしいところだ。
「あれだけ、くっついてればな……気持ちは分かるぜ」
ジョセフから、殺気が感じ、苦笑するしかない。本当に姉のことが大好きなのだと思った。もう少しそれを本人に伝えれば、喧嘩をしながら会話をすることもないだろう。
天の邪鬼である彼が、それを素直にすることはないだろうが。
「おれらだけでも、追いかけるぞ」
遠くなった二人の姿を追いかける。
まだ、承太郎とジョナサンは何か言い争っているようだった。

「ありがとうございます!サービスして、増量してますよ」
女性の店員が、笑顔で商品を差し出す。
「ありがとう」
それを笑顔で受け取る彼女。
「来たかったところって、ここか?」
「そうよ」
ディオがシーザーを連れてきたのは、クレープ屋だった。近くには、机と椅子が用意されており、そこでクレープが食べれるようになっていた。
そこの一席に座り、クレープを食べる彼女を見ていた。自分も頼んだクレープを一口食べる。
「おいしいな」
「ああ」
クレープを食べる彼女は、とても嬉しそうで、楽しそうだった。
貴族の娘だから、どこかの高級な店か、敷居が高そうな所に行くと思っていたのだが、予想は外れ、普通のクレープ屋。
「なんで、ここなんだ?」
「知り合いが教えてくれたんだ。おいしいクレープ屋ができたと。行きたいと思っていてな」
本当に彼女は貴族の娘なのだろうかと、思ってしまう。家具の直し方を聞いたり、貧民街に出入りし、そこにいた自分にも普通に接し、あまり言葉遣いもいいとは言い難い。
着ているものは、派手ではないが、良い生地だ。しかし、髪を結わえているリボンも古いもので。
「なあ、そのリボン、捨てないのか?」
彼女は、よくそのリボンをしているが、ボロボロでくたびれている。
「捨てない。大切なものなんだ」
「ふーん、兄弟からの贈り物?」
それなら、面白くないなと、クレープを大きな口で食べていく。
「親友のものだ。もう長い間、会っていないがな……」
そう言った彼女は、憂いを帯びた表情をしていた。
もう七年も会っていないと言う。父が医者で、仕事で外国に行ってしまったらしい。
「七年経ったら、ボロボロにもなるな」
小さくなったクレープを食べ終わると、結わえていたリボンを解いて、それを眺める。
その目は、とても穏やかで過去を思い出しているようだった。
「会いたい?」
「会いたいな」
いつか戻って来ると言っていた。その時まで待つと、そう言いながら、彼女はまたリボンを結わえた。
「さて、次はどこに行こうか」
自分もクレープを食べ終わった。目の前の彼女は、どこに行こうか悩んでいるようで。
「あそこの店と……いや、あの店が……」
「ゆっくり考えて」
悩んでいる姿も綺麗だと、見ていると、後ろに気配を感じた。
「シーザー」
名前を呼ばれ、立ち上がり、即座に、彼女の横まで跳んだ。その衝撃で椅子が音をたてて、倒れた。
つき出されている手に、自分の判断が正しかったことを確信する。あたっていたら、どうなっていることやら。
「さすが、と言っておこう」
聞き覚えのある声に、やはり予想は当たっていた。
「……知り合いか?」
彼女が訝しげに聞いてくる。
「なんで、あんたがいるんだ……!」
それは、紛れもなく、自分の。

この人物のせいで、ディオとシーザーのデートは終わりを告げることになる。


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後書き
一度、切ります
予想以上に長くなりました
びっくりするほど、シーザーがでてますね
いや、もっと三人にディオと絡んでもらう予定だったのですが
シーザーが積極的だから、しょうがないね
それとも、私がツェペリ家大好きだからか
次は、女性陣投入です


2013/08/18


BacK