出会いと再会と別れ 1
シーザーとディオは今、デートの真っ只中。
その後をつける三人の兄弟と巻き込まれた一人。
そのデートを邪魔するかのように、二人の前に一人の男が現れた。
椅子が音をたてて倒れ、ディオの横にいるシーザーは文字通り、飛んできたのだ。
突然、現れた男を見ながら、彼の口から出てきた言葉は、意外なものだった。
「じいさん!」
白と黒のシルクハットを被り、白いスーツを着た髭の男をそう呼んだ。
身内なのだろうかと予測をたてる。
「飽きもせずに、女性を口説いておるようだな」
「な、なんで、あんたがここに……!」
「いきなり家を飛び出しおって!心配したぞ」
「探さないでくれって書いたじゃあねえか!」
「ほうってはおけん」
シーザーと男が、言い争っているのをただ眺める。二人を見比べていたが、あまり似てはいないと思う。シーザーは金髪、男は黒髪で。
「家に帰るぞ」
「それは、ごめんだ!」
名前を呼ばれ、次の瞬間には抱きかかえられていた。
「失礼、シニョリーナ!」
いきなり、シーザーは高く飛んだ。それは、普通、人がどれだけ飛んでも飛べない高さであり、ましてや、人を一人抱えては到底、飛べない高さだったが、遥か上にある屋根に降り立ったのだ。
「……!?」
「掴まっていてくれ!逃げる!」
シーザーは屋根の上を走り出した。驚いて固まっていたが、慌てて、落ちないように彼の服を掴んだ。
いつもと違うところから見る町並みに、目を輝かせてしまう。
周りの人々が上を見上げ、ざわついている。
「どうなってんだァ!?」
「なんだよ、あいつ!」
四人は合流し、屋根を走る二人を地上から追いかけていた。
「あの人も屋根に上がったね」
「夢じゃあ、ねえよな」
あまりにも、非現実的なことが目の前で起きている。大道芸でもお目にかかれないものが。
道具も何も使わずに、地上から人が屋根まで跳んだのだ。
「見失わねえようにしねえと!」
「退けよ!」
四人はディオたちを追いかける。
いきなり、ディオが笑いだし、どうしたのかとシーザーは驚く。恐怖からか、突然のことに頭が追いつかないのか。
力を使ったのは、ここに来てからは初めてだ。無闇に使うなと厳しく言われていたため、無意識に抑えていた。今は、緊急事態のために使っている、いや、使わなければ祖父からは逃げ切れない。
「シーザー、お前は凄いな!楽しい、いい気分だ!鼻唄でも歌いたいぞ!」
興奮しているような声に、予想外の言葉。度胸が据わっている。あの三人がひかれる理由が、なんとなく分かった気がした。
「で、お前の爺さん……だったか?追いかけてきているぞ」
後ろから伝わってきているものが、祖父の存在を主張する。振り返って確認する必要もない。
祖父が強行手段を使ってこないのは、ディオを抱えているからだろう。女性を盾のように扱うのは不本意だが、今はデート中。彼女を置いていく訳にはいかない。
「ああ!だろうな!」
「待てい!シーザー!」
屋根が途切れたため、大きく跳んで屋根から屋根へと跳び移るが、このままでは逃げ切れないし、追いつかれてしまう。
下を見れば、人混み。
「ディオ、腕を首に!」
そう言えば、彼女は腕を首に回し、一層密着する。彼女に回す腕の力を入れ、離れないようにしたが、あたる胸や触れる体の柔らかさに内心、喜んでいたため、こんな状況でも自分は結構、冷静なのだと思う。
屋根から落ちるように、体を宙へと投げ出す。
「はああああああッ!」
片方の手から波紋を出し、壁に触れるか触れないかの間を、波紋でぬいつけ、そこを軸にし、滑り落ちていく。荒業だが、落ちていく速度を緩めるだけの行為。
路地裏に着地し、彼女をおろす。そのまま走っては目立ってしまう。
「人混みに紛れた方がいい!」
彼女の手を引っ張り、人が多い大通りへと走り出す。
ツェペリは足を止めた。屋根から見下ろすのは、人混み。目的の人物は、紛れてしまったようだ。
「逃げられんぞ、シーザー」
こちらは一人ではない。
応援は呼んでいる。
そこの通りは店が連なり、露店もあるため、人が多く集まる所だった。
人をかき分けるようにシーザーは、自分の手を引き、そこを走っていた。
「今の光っていたのは、なんだ!?」
「後で説明する!」
余裕がないのだろう。しかし、彼は的確に人の隙間を縫うようにして、走っている。
しかし、いきなりシーザーの首に何かが巻きつき、前のめりになり倒れていく。それは手を繋いでいた自分も。
「!」
「ディオッ!」
倒れたのはシーザーだけだった。
自分は、三人の手と腕に支えられていた。
「なぜ、お前たちがここに……?」
ジョナサンとジョセフと承太郎が自分を支えていた。
「ぐ、偶然だよ」
「たまたまだよなあ」
「その通りだぜ」
三人が町にいることは、珍しい。そんなはずはないと、口を開いたが、シーザーの声に邪魔をされた。
「離しやがれ!!」
三人に言っているのかと思いきや、倒れたシーザーの前に長髪の女性が立っていた。その手から伸びる布が、彼の首に巻きついている。
「見つけましたよ、シーザー」
どうやら、また顔見知りらしい。シーザーは動けないのか、倒れたままだ。
その布とシーザーの全身から、光が弾けた。
「抵抗しても無駄です」
その女性は、冷たい目で彼を見下ろしていた。
「捕まえてくれたか」
「ウィル先生」
いつの間にか、追いかけてきていた男性が彼女の横に。
「観念せい、シーザー!」
「帰らねえぞ、あんな、つまんねえ田舎!」
言い争っているが、ここは道の真ん中で、通行の妨げになっていた。野次馬も何事だと集まってきている。
「あんたら、喧嘩するなら別の場所でやんな。道の真ん中だぜ?」
突然あらわれたスピードワゴンが、呆れたように言う。彼もいるということは、何かあるのだろうが、今はそれどころではない。
「ふむ、それもそうじゃな。君は、どこかいい場所を知っておるかね」
ジョナサンが主張するように、手をあげる。
「ぼくの屋敷の庭を提供しましょうか?」
「案内を頼めるかね」
「はい」
男性は、女性に立ち上がらせるように言うと、操り人形のようにシーザーが立ち上がる。
「離せよ!逃げねえって!」
巻きつく布を引っ張っていたが、びくともしない。まるで鉄のように。見た目は、普通の布なのだが。
シーザーはそのままで、三人を屋敷まで案内することになったが、ジョナサンと承太郎とジョセフは自分のそばから離れることはなかった。
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