胸に花を抱いて 11
翌日、朝食に現れた二人にディオは苦笑いしかでなかった。
ジョセフはあの後にでも、出ていったのだろう。
ジョナサンは二日酔いで青い顔をして、朝食には手をつけず、水をずっと飲んでいるし、承太郎はなぜか不機嫌ながらも、黙々と食べていた。
朝食が食べ終わり、届けられている贈り物を確かめる。
意思の表明は功を奏し、今では指で数えられるまで減った。
もう少しすれば、なくなるだろう。お礼の手紙も書かなくていい。
しかし、その意思を無視し、送ってくる者もいる。これは、はっきり迷惑だと伝えるべきだろうか。
今日は忙しい。貧民街に行って、その後は、孤児院だ。
贈り物は、使用人に任せ、荷物を持って、貧民街へと向かった。
学校の前が騒がしく、何かあったのだろうかと、近づいてみると、楽しそうな声が聞こえてきた。
「お兄ちゃん、今度はこっち!」
「まだ、おれらと鬼ごっこだって!」
「ひっぱるな、おれは一人しかいねえんだぞ!」
子供が服や腕をひっぱって、取り合いをしているのは、シーザーだった。
「あ、先生だ!」
「先生、おはようー!」
子供たちはこちらに手を振る。シーザーは、安心したようにこちらを見る。
彼らに近寄り、どういう状況なのか教えてもらう。
「俺はこれを届けに来たんだけど……子供たちが一緒に遊んでくれってうるさくて」
シーザーは、袋を差し出す。それは、酒場の主人に場所の提供と救急箱の礼として渡したものだった。
「多すぎるってさ」
小さくなっている袋を見て、ちゃんとお礼は受け取ったらしいが、余ったものを届けられても、自分にはもう必要ないものだ。
「あげるわ。わたしはいらないもの」
「いや……これは元はあんたの……」
「先生〜!」
扉が開き、中から泣いた少女が出てきた。
こちらに走ってくると、スカートを掴み、泣きじゃぐる。
「どうしたの?」
しゃがみ、同じ目線になる。
「ディーンが……わたしの……いす、壊したぁ……!」
少女、ココは大人しい子で、本をずっと読んでいる。ディーンは彼女を気にかけて外に連れ出そうとしているが、ココはいつも本を読む方がいいと断っていた。
泣くココの手を引き、中へと入ると、ディーンは壊れた椅子の前に立っていた。
「ディーン」
名前を呼ぶと、彼は顔を上げたが、彼も泣いていた。
「なんで、こんなことをしたの?」
子供たちには、物は大切に扱うようにと厳しく教えていたのだが。
「だ、だって……そいつ……おれのこと、無視するんだ……!」
言葉をかけても無駄だったがら、実力行使に出たのだろう。
ココはいつも言葉をかけてくるディーンを煙たく思い、無視をしていたのだろうが。
「無視はよくないわね、ココ」
彼女は首を横に振る。
「だ、だって……嫌って、言っても、ディーンがずっと……ずっと……」
「なんだよ!おれはお前と……遊びたかったんだ……!」
ディーンが声を上げて、もっと泣き出したが、それにつられてかココも同じように泣き出した。
さて、どうさたものかと考えていると、肩に手が置かれた。
「ディオ、ここはおれに任せてくれ」
シーザーの言葉に、怪訝な顔をするしかない。
彼が子供慣れしているとは思えない。自分が来るまで子供たちの相手していたが。
「大丈夫。子供の喧嘩は慣れてるんだ。ココ、ディーン、おれとちょっと角に行こうか」
シーザーは二人の手を引き、部屋の角へと行く。
並んだ二人の前で彼はしゃがみ、話しているようだった。
ありがたい。授業の準備をしなくてはならないのだ。
三人を気にしながら準備をしていた。
二人は見事に仲直りをし、今は並んで笑顔で授業を受けている。
どんな魔法を使ったのか、不思議である。
授業が終わり、壊れている椅子を直しているシーザーに、聞いてみたが、キスをしてくれたらと言ってきたので、聞かないことにした。
「つれないなあ、本当。ほら、完成」
壊れた椅子は見事に元通りになっていた。
「意外だ。何かしていたのか?」
そう聞けば、少し表情が曇る。
「……手先が器用なだけだよ」
何かあるみたいだが、あることを思い出し、思いついたため、聞くのは後回しにした。
「この後、暇か?」
「え、デートしてくれるのかい?」
「してやってもいい」
「おれ、滅茶苦茶、暇です!」
彼を連れて、学校を出たが、ココとディーンの二人は、皆とまじり遊んでいたが、ディーンは遅れ気味のココの手を引いていた。
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