出会いと再会と別れ 6


ジョナサンは教室で友人と話していると、窓側にいた生徒たちが騒がしくなったのを気づき、友人たちと一緒に窓の外を見た。
門の前にいた蒸気自動車が止まっていた。そこに乗るのはスピードワゴン。
その車から降りたのは、ディオだった。
建物に向かって歩いてくるのが見え、教室を飛び出した。
「ジョナサン!」
自分を呼ぶ声が、聞こえてくる。
「ど、どうしたんだい!?」
一階に降りたところで、彼女を見つけ、走り寄れば、酷く慌てた様子。何かあったのだ。彼女が学校に来るなど、これまでなかったのだから。
「義父さんが、ち、血を吐いて、危ない状態で……!」
告げられたことに、目の前が真っ白になる感覚を覚えつつ、早く来いと手を引っ張られ、意識を何とか取り戻す。
「早く乗れ!」
スピードワゴンが叫ぶ。
彼女に引っ張られながら、待っていた車に乗り込めば、走り出す。
「承太郎が知らせてくれた……今、ジョセフを呼びにいっている」
「だ、大丈夫なんだよね?」
「わたしはまだ見ていないから、分からん……」
彼女も父が倒れたことに、ショックを受けているのだと分かった。
病に伏せた時から、いつかその時が来るとは思っていたが、いざ直面すると、不安が押し寄せてきた。
当主になるべく、色々なことを叩き込まれていたが、まだまだ不十分だ。
「大丈夫、だよ。父さんは」
自分に言い聞かせるように言葉を吐いた。
嫌な言葉ばかりが頭を巡っていたからだ。

スピードワゴンに屋敷まで送ってもらい、礼も言わずに家に入った。
階段をかけ上がり、養父がいる部屋に入れば、ベッドに臥せているジョージと傍らには承太郎とジョセフ、医者がいた。
「ど、どうなんだい!?父さんは……!」
ジョナサンが声をあげれば、医者が静かにとたしなめる。
今、とても危険な状態だと医者は言う。
今日が峠で、彼の体力次第だと。
ジョージを見れば、青い顔をして、呼吸をしているかも分からないくらいだ。
死んでいるのではないかと、思いたくもないが、思ってしまう。
「親父……」
ジョセフが今にも泣きそうな顔で、手を握る。
「おれ、親父に、まだ……」
「父さん……」
「……親父」
「お義父様……」
皆が、不安に押し潰されそうな顔をしていた。

四人はずっと父の部屋にいた。
会話はなく、ただジョージの様子を見ていた。部屋の雰囲気は皆の顔のように暗い。
「……親父!」
ジョセフの驚いた声に、全員がベッドに近づく。
「み、んな……」
ジョージが目を開けていた。
意識が戻ったのだと、安心する。
「父さん!」
「どうした……ジョセフ……?何か、悪いことを……」
「してねえ!して……ねえよ……」
首を横に振り、ジョセフは握っていた手をもっと強く握る。
「承太郎も……いじめられたか……?」
その言葉に承太郎も、首を横に振った。
「ディオも……そんな顔を……女性は、笑顔が、一番だよ……」
「はい……」
ディオは頷き、口角を上げたが、不自然な笑顔を浮かべる。
「ジョナサン……お前が皆を、不安にして……どうする……長男のお前が、先頭に立って……皆を引っ張って……」
逆に回り、ジョナサンはジョージの手を握り、何度も頷く。
「分かったよ……父さん……だから……!」
「お前たちは……四人で……」
声が小さくなり、目がだんだんと閉じていく。
「苦労を……かけて……すまな……」
言葉が途切れ、目が閉じられた。握っていた手から、力が抜けていくのを、認めたくないように、二人は手を強く握った。
「親父っ……親父、なあ……!」
「父さん!父さんッ!」
必死に声をかける。声は聞こえているはずだと。そちらに行ってはいけないと。
「おと、うさん……」
「親父……」
ディオと承太郎は、粛々とその事実を受け止めていた。
医者が一通り確認すると、とどめをさすかのように、静かな声で亡くなったことを告げた。

「うっ……うわああ……っ……!」
堪えきれなかったのか、ジョナサンは膝から崩れ落ち、涙を流し始めた。
ジョセフは、扉を開け、飛び出してしまった。
その扉の前には、使用人たちがいて、中を見て分かったのか、泣き崩れる者や、泣き始める者もいた。
承太郎は、うつむいて、ゆっくりと部屋を出ていく。
ディオも悲しかったが、自分たちがジョースター家を背負っていかなければならないと思っていた。
当主になるであろう、泣き崩れるこの男を支えなければいけなくなるのだろう。
「ジョナサン」
ここにいては、邪魔になるだけだと自分の部屋に戻ろうと促す。
「気持ちは分かるが」
父と一緒にいたいだろう。それは、自分も同じだが、聞き分けのできない子供ではないのだから。
泣きじゃぐる彼を何とか立たせ、部屋を出ていく。
ジョナサンの部屋に入るが、彼はまだ泣いていた。泣いて吐き出せるなら、そうすればいい。
一番、ショックを受けているのは、実子の彼だろうから。
ソファーに座らせ、離れようとすると。
「いかないで……」
腕が腰に回ってくる。
小さな子供のように、つづってくるその姿を見て、無下にはできずに、気が済むまで付き合うことにした。
丸くなっている背中や体に押しつけられた頭を、ポンポンと軽く叩き、撫でる。
これは、準備だ。
彼が前を向き、立つまでの。

ようやく落ち着いたのか、ジョナサンは、泣くのをやめ、腕を離していく。
「ありがとう……」
「少し、すっきりしたか?」
そう問えば、うつむいたまま頷かれる。
「他の者を見てくる。一人で大丈夫だな?」
「……うん」
「いい子だ」
頭を撫で、部屋を出ていく。

彼女の後ろ姿を見ながら、手を伸ばしたい衝動にかられる。
ずっとそばにいて、自分だけ慰めてほしい。
しかし、自分は兄だから。我慢しなくては。
他の弟たちも同じ気持ちだろうから。
まだ独り占めにするには早い。
膝の上で握り拳を作る。


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2014/02/06


BacK