出会いと再会と別れ 4
ディオは上機嫌で、でかける準備をしていた。
今日は町をエリナに案内するのだ。
七年も経っては、町は様変わりしており、エリナはどこで買い物をすればいいか分からないと言っていた。ならば、自分が案内しようと。
鼻唄を歌いながら、着ていく服を選んでいた。
待ち合わせ場所に行くと、エリナはもう待っていた。
「楽しみで早く着きすぎたって思ったけど、そんなことなかったわ」
まだ待ち合わせの時間にはなっていない。
彼女も自分と同じだったのだと笑う。
「さあ、行こうか、エリナ」
「あ!待って、ディオ」
歩き出そうとすると、エリナが服を掴んできた。
彼女が差し出してきたのは、赤いリボンだった。
「もうボロボロだから……付け替えてもいいかしら?」
「ああ、頼む」
エリナにリボンを付け替えてもらい、古いリボンは思い入れもあるため、捨てずに持っておくことにした。
「色々、変わったわね」
「七年前から変わらんところもあるぞ」
色々な店ができ、潰れていったが、馴染みの店も残っている。
エリナが幼い頃によく買い物したという店も残っており、店主は彼女のことを覚えていて、楽しそうに話していた。
「ディオ」
後ろから声をかけられ、振り向けばジョナサンがいた。
「今日はエリナと一緒だったね」
そう言って彼は話し込んでいるエリナを見る。
「なぜ、ここにいる?」
「町の案内。ツェペリさんたち、ここに住むから」
朝からでかけていたのは、それか。彼らと知り合ってからは、毎日のように彼らのもとに行っている。
「おーい、ジョナサーン」
「ジョナサン〜?」
荷物を抱えたシーザーと金髪の少女が彼の名前を呼んでいた。
「シーザー、スージーQ!こっちだよ」
こちらに気づいた二人は、歩いてくる。
「お、ディオじゃあないか。今日も一段と美しいね」
シーザーは相変わらずの言葉と、爽やかな笑顔を向けてくる。
恥ずかしくはないのかと思ってしまう。
隣にいた少女が自分を見つめていた。何か顔についているだろうかと、首を傾げた。
「ん、どうした?スージーQ」
シーザーが彼女の前で手を振ると、気づいたようで、恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「本当に綺麗な人なのね。皆が口々に綺麗とか美しいとか言うから……」
皆の言う通りだわと、彼女はなぜか、照れていた。
自分の容姿が美しいことは知っているが、何を吹き込まれているのやら。
「スージーQ、話はしたけど、ディオナだよ」
「わたし、スージーQです!リサリサ様のところでお手伝いしてます」
スージーQは頭を下げる。
「ああ、よろしく、スージーQ。ディオと呼んでくれ」
「あれ?」
ジョナサンから猫を被らないのかという視線を貰う。
「……一人にしてもな」
シーザーも知っているし、向こうはもう自分の素を知っているのだから、その必要はないだろう。肩の力くらいは抜きたいのだ。
「あら、ジョナサン」
話が終わったのか、エリナがこちらに戻ってきた。
「こちらも美しい。シニョリーナ、あなたのお名前は?」
シーザーは素早い動きで、彼女の手を握っていた。エリナはただ驚くばかりで、なされるがまま。
その手を叩いて放させ、間に入り込む。
「シーザー、彼女は口説くな」
彼女に好意を持っているものが、目の前にいるのだ。七年という長い間、彼は想いを抱えていたはずなのだから。
その人に視線を向ける。好きな女性くらい守れと、目で合図をする。
「シーザー、やめてくれないかい?」
ジョナサンが自分たちの前に立つ。
「なんだよ、ジョナサン。独り占めか」
「そういうわけじゃあないけど。困ってるから」
「名前くらい、いいだろ」
後ろから笑い声が聞こえ、見れば、エリナが笑っていた。
「楽しそうな人ね。紹介してもらえないのかしら」
彼に紹介すれば、口説き始めるに決まっている。現に今、その気、満々だ。
「関わらない方がいいぞ。あの男は」
「でも、ディオの友達なんでしょ?」
友人と言っても間違いではないだろうが、彼女に紹介するなら、スージーQだけでいいだろう。彼女は今、知り合ったばかりだが。
「シニョリーナ、名前だけでも……!」
ジョナサンに止められつつも、どうにかこちらに来ようとしているシーザー。そこに凄まじい執念を感じる。そこまでしたいものか。
「ジョナサン。そちらの二人を紹介してほしいのだけど」
「エリナ」
「わたしだけ仲間はずれなんて嫌よ、ディオ、ジョナサン」
少し怒ったような表情。
そういうつもりはないのだが、彼女はそう感じてしまったらしい。
「そういうつもりじゃあないんだ……エリナ……!」
ジョナサンが焦っている。嫌われてしまったのではないかと焦っているのだろう。
こんな些細なことで、二人の仲を壊すこともない。
「分かった。紹介しよう」
ジョナサンに前から退いてもらい、エリナを二人に紹介する。
「シーザー、スージーQ。わたしの友人であるエリナ・ペンドルトンだ」
「初めまして」
エリナの手をすかさず、シーザーが手に取る。
「初めまして、エリナ!おれはシーザー、よろしく!」
眩しいほどの笑顔を向ける彼と、その勢いにも負けず笑顔を向けるエリナ。ジョナサンもさぞ複雑だろうと見れば、落ち着きがない。
「よろしくね。シーザーさん」
「呼び捨てでかまわないよ」
「ちょっと、シーザー」
横にいるスージーQは、シーザーの頬をつねる。
「もう……わたしの番よ!」
シーザーはようやく手を離し、エリナから離れた。
「初めまして、スージーQです!」
「ウフフ、よろしくね」
紹介も済み、エリナの案内を再開しようとすれば、ジョナサンたちも目的は同じなため、一緒に回ることになった。
「楽しかったね」
「ああ」
町の案内が終わり、三人と別れて、ジョナサンとディオは共に帰路へと着いていた。
「シーザーがエリナに手を出すなら、お前が守ってやれよ」
ディオに言われた言葉にジョナサンは笑う。
「もうないと思うけど、分かったよ」
何度か手を出そうとして、ディオとスージーQに怒られていた。最後の方は、口説くこともなかった。
「はあ……」
なぜか、ため息をつかれる。
「お前がそうだから、エリナが……」
エリナがどうしたのだろう。ディオが彼女のことで悩んでいるなら、協力したいが。
「エリナがどうかしたのかい?」
「……何もない」
なぜか、呆れたような声で言われ、視線をもらう。
「何かあったのかい?」
「何もないと言っているだろう」
何度も聞くと、機嫌を損ねてしまうだろう。引き下がることにする。根掘り葉掘り聞かれては嫌なこともあるだろうから。
話題を変えつつ、屋敷への道を歩いていく。
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