出会いと再会と別れ 3
朝、ディオは届かない贈り物に、喜んでいると、使用人たちが何かあったのではないかと心配してきたが、それは自分が書いた手紙のことと、仕舞える場所がないことを説明すると、納得したようだった。
手紙を書かなくていいと、上機嫌で、でかける準備をしていると、部屋に承太郎がやってきた。
何か用事かと聞いてみると、一緒に学校に行くと言う。あいつから自分を守るためだと。
シーザーの件を、彼は引きずっているようだ。
大丈夫だと言うが、彼は一緒に行くと言って譲らない。
準備が終わるまで待つと、ソファーに座る彼に何を言っても無駄だと、準備を再開した。
途中まで馬車で行くために、乗り込めば、なぜか承太郎は隣に座る。
自分が移動しようとすれば、肩を押さえられた。
「どうした?」
「何もねえ」
別に狭くはないので、そのままでいることにしたが、彼の意図が分からずに、首を傾げた。
馬車をおり、学校まで向かう道のりは、なぜか手を握られた。
「珍しいことをしてくるな」
そう言ったが、前を歩く彼は、ああと一言しか言わない。
嫌ではないため、そのままにする。大きな手に握られる自分の手を見て、彼が大きくなったことを実感する。
目の前の大きな背中。
数年前までは、彼の手を繋ぎ、前を歩いていたのは自分だったのに。
少し寂しさを覚えつつ歩いていると、学校に着いた。
「先生、承太郎兄ちゃん!おはよー」
「お兄ちゃんだー!」
子供たちに挨拶を返す。
承太郎も時々、学校に来ているため、子供たちには顔見知りだ。
遊んでいた子供たちが自分たちを取り囲む。
「なんで、先生、お兄さんと手を繋いでるの?」
その言葉に、そのことに気づき、彼の手を離そうとしたが、強く握られて、離すことは叶わなかった。
「仲良いねー、先生!」
「恋人みたい」
強く握っていた手が離され、肩を抱かれ、引き寄せられた。
「恋人だからな」
何を言っているのかと、彼を見れば、ただ笑っていた。
子供たちは、声をあげ、囃し立ててくる。
「承太郎、冗談を言って、皆をからかわないで」
彼の手から逃れて、皆を落ち着かせつつも、学校へと入る。
彼らしくない冗談だと思いつつ、子供たちと一緒に学校に入ってきた彼を見ると、少しだけ寂しげな表情を浮かべていた。
そろそろ、学校が終わる頃だろうと、スピードワゴンは店を出た。
店には暇つぶしに入っただけで、彼女の帰り道にある店に入っただけだ。
来るだろう方向を見ていると、待ち人が来た。もう一人、男と一緒に。
「先生、承太郎」
声をかけ、近づいて気づくが、二人は手を繋いでいた。
承太郎が姉を守る時に、よく抱き寄せたりはしているが、普段はそんなことをしない。
珍しい頼まれ事もあり、何かあったことは間違いない。
「よお、スピードワゴン」
承太郎は上機嫌だった。いつもは表情を崩さない彼だが、口角が上がっている。
大好きな姉と手を繋いでいることが、それはそれは嬉しいのだろう。
「そうしてると、恋人同士みたいだな」
そう言えば、ディオの顔が少し曇り、承太郎が嬉しそうに笑う。
「みたいじゃあないぜ」
「お前、そんな冗談をいつもは言わないだろう。何か腹にでもあたったか?まさか、拾い食いをしていないだろうな?」
彼女は冗談だと思っているようだ。承太郎は家族以上と言える愛情を彼女には、いつもぶつけている。あの執着を見れば、誰でも分かるものだと思う。兄たちや当の本人は気づいていないようだったが。
「してねえぜ」
「熱でもあるのか?」
彼女は手を振り払い、持っている荷物を承太郎に持たさせると、顔や首を触り始める。
「よく、分からんな。少し屈め、承太郎」
言われた通りに承太郎が屈むと、彼女は前髪を上げ、額を押しあてる。
「熱は……ないようだが……」
体温を確かめるためか、目を閉じたままの彼女を、承太郎は凝視していた。その目が、欲に光っているのが分かった。
このまま、キスでもするのではないかと、ハラハラしていた。しかも、突然始まった兄弟のスキンシップに、自分は少し戸惑っている。
それは、二人にとっては普通のことかもしれないが、見ているこちら側としては、気まずいものがある。
何も知らないディオが目を開け、承太郎から離れる。
「今日は本当にどうした?」
首を傾げ、彼女は承太郎を不思議そうに見ていた。
「おっと、忘れるところだったぜ。先生」
雰囲気で流されそうになったが、自分は彼女に用があったのだ。
「なんだ、スピードワゴン」
承太郎から荷物を受け取った彼女は、こちらを見る。
「ほらよ。あんたに贈り物だ。おれからじゃあないぜ」
小綺麗に包装された箱を彼女に渡す。
「じゃあな。おれは渡したぜ」
彼女たちに背を向け、歩き出す。
「おい!誰からなんだ?」
「あんたも承太郎もよく知ってる奴からだよ」
誰から贈られた物かは、言わない約束をしている。名前を出すなと言われただけで、ヒントくらいはいいだろう。ここまで言えば、分かるだろうが。
手を振って、そこから早々に立ち去った。
彼女が持つプレゼントを見ながら、彼らしいと承太郎は思った。
回りくどいことをしてくる。
会えば、喧嘩になってしまうため、スピードワゴンにわざわざ頼んだのだろう。それか、ただ恥ずかしいのか。
「あいつか……今日は特別な日でもなんでもないぞ」
どうやら、ディオは贈ってきた人物の正体が分かったらしい。
スピードワゴンがあそこまで言ったら、気がつかない訳がないが。
「行くぞ、承太郎」
彼女はそれを鞄に入れると、帰る方向を向く。
「いいのか?」
それを贈ってきた人物はここにいるはずだ。
「会った時に聞けばいい」
ほら、と手が差し出させる。それがさも当然というように。
それを握ると歩き出す。
ディオは一番下である自分には甘い。相当、可愛がってもらっていることは自覚している。
兄たちが手を繋ごうとしても、彼女はそれを拒否するだろう。
甘やかされるのは、子供扱いされていることと同等だ。それは気にくわないが、今はそのことを大いに利用しようではないか。
ライバルは多い。
手段は選んでいられない。
小さい手を強く握ると、痛いと言われて少し力を緩める。
「どこにもいかん。子供ではないのだ」
「ずっとそばにいてくれ」
「迷子になんぞ、ならんが……?」
彼女は不思議そうな顔をしただけだった。
少し出た本音は、違う意味に取られてしまった。
がらでもないことを言ったと、その後は口をつぐんだ。
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