伝えなければ伝わらない 2

ジョナサンが、次に目を開けたのは朝だった。
横で寝ていたはずのディオもいなかった。
彼がそこで寝ていた形跡だけがあり、そこを手で撫でる。彼の体温が少しくらい残っているものかと期待したが、何も感じなかった。
昨夜のことは現実なのだと、それとそのままになっていた体と痛みが物語っていた。
あの言葉も全てが本物だ。
とても嬉しく、体が満たされていると感じる。一人でした後は虚しさしかなかったのだが。
そして、本当にいいのだろかうかという罪悪感があった。
彼は家族、兄弟、同姓――。
これは欲を満たすだけの関係。
そこに愛情などないのだろう。
それがあっても、許されることはないのだけれど。

体を綺麗にし、食堂に向かうと、先にディオは朝食を食べ始めていた。
「おはよう、ジョジョ。遅かったじゃあないか。なんだ、寝坊か?」
「おはよう。違うよ」
笑顔を向けてくる彼。意地の悪い。遅れてきた理由を知っているだろうに。
もう、彼と視線を合わせても鼓動が早くなることはなかった。
意識をし過ぎていたのだろう。
彼と繋がったことと、まだ続く彼との繋がり。そのことが、心に余裕を持たさせているのだと思う。
椅子に座ると、食事が運ばれてくる。
久しぶりに、食事がとても美味しいと思った。

朝食を食べ終わった後、部屋に手紙を置いてあると言われ、それを戻った時に見た。
「リィス・グリーネ……?」
差出人の名前が書いてはあったが、知らない人物だ。
封を切り、手紙を読む。
その内容は、パーティーでハンカチを貸してくれたお礼と、直接、返したいというものだった。
読んでいて、思い出す。
差出人はあのパーティー会場で、お酒を溢した女性だろう。
いつでもいいので、自分の屋敷まで来てほしいと書かれている。
住所を見ると、そんなに遠くはなく、馬車に乗れば、すぐの場所だった。
突然、訪ねるのも失礼だろうと、返事を書くことにした。机に座ると扉がノックされ、開いた。
「返しにきたよ」
ディオが本を見せながら、入ってきた。
媚薬を彼に飲まされた時に貸した本。
彼は本棚に向かっていく。それを途中まで、目で追っていたが、便箋を出そうと引き出しを探る。
「ジョジョ、本をまた借りてもいいかな?」
「うん」
返事をしつつ、目的のものを見つけ、引き出しから取り出すと、机の上に置いた。
いきなり、肩に手を置かれ、振り向く。
「何?ディ……」
彼の顔が間近にあり、驚いて目を見開いていると、唇と唇が軽く触れた。
「これ、借りるよ」
ディオは笑い、顔を離すと、手に持っている本を見せ、背を向け、部屋を出ていく。
扉が閉められ、自分はまた机に向かったが、ペンを握る気にはなれない。
唇に指先で触れ、鼓動が早くなっていく。
普通に触れられたのなら、自分は反応はしなかっただろうが。
昨夜、キスも何度もしたというのに。いや、何度もしたから、体が覚えているのか。
熱が自分を侵していくのが分かる。
しかし、昨日の今日だ。今日くらいは我慢しなければ。
頭を振って、欲をかき消してから、ペンを握った。

ジョナサンが、耐えきれずにディオに助けを求め、部屋に来たのは、あの夜から二日、経ってからだった。
「二日しか経ってないぞ」
ディオは早いと思いながら、あれは効果があったのだと、内心、ほくそ笑んだ。
目を合わせても彼は、そらすことはなくなった。たぶん、普通に触れても、軽く受け流されるのだろうと。
つまらないと思う自分がいた。
だから、あの時にキスをしてみた。何も反応がないと思っていたが、咄嗟のことに反応が遅れただけなのだろう。
「二日も我慢……したんだ……」
顔を赤くしながら、ジョナサンは言う。彼にとっては、長い時間だったのかもしれない。
彼に近づき、指で唇をゆっくりなぞると、彼は体を跳ねさせた。
「ちゃんと、言ってくれないと、分からないな」
笑顔を浮かべ、唇をなぞる指を頬に移動させる。頬の赤みが増したように思う。
彼は戸惑いながらも、こちらを見る。言わなくてはいけないのかと目は言う。
「今夜は、友人と出かけようかな。ジョジョ、君は――」
別に自分は困らないのだと、頬から手を離していけば、その手に手が添えられ、また頬に戻される。
「ディオ、ぼ、ぼくを、抱いて……ほしい……」
懇願するようなその表情は、まるで自分が快楽を与えていた時のようなもので。
その顔がとても――とてもいいと思う。
「分かった。夜は自分の部屋で待ってろ」
頬と手に挟まれている手を引き抜き、彼の後頭部に手を回し、こちらに引き寄せ、唇を重ねた。
「一人で勝手に始めるなよ?」
唇を離し、笑えば、彼は首を横に振る。
「し、しないよ……!」
どうだかと内心、呟き、頭から手を離す。
「じゃあ、また夜に」
こくりと彼は頷き、部屋を出ていった。
時計を見たが、陽が沈むまでは、まだまだ時間があり、そこまで何をして時間を潰そうか考えていた。

バスローブに身を包んだジョナサンは、ベッドに座り、今か今かと扉を見て、時折、時計も見ていた。
そろそろ、使用人たちも眠る筈だ。
眠気は全くない。
これから、始まることに胸が高鳴り、うるさいくらいだ。
眠ってしまったのだろうかと、立ち上がり、扉に向かっていると、扉がノックされ、飛びついた。
「ディオ!」
ようやく来た。扉を開くと、彼が立っていた。
「うるさい。ばれたらどうするんだ」
彼は自分を部屋に押し戻し、自分も部屋に入ると、扉を閉めた。
「ご、ごめん」
この関係は内密にしなければ、ならない。それは、自分が一番、分かっている。
しかし、この関係が他の者に、漏れてしまったら、どうなってしまうのだろうか。壊れてなくなってしまうのだろうか。体を重ねた事実はなくならないのに。
「なんだ、しないのか?」
思考を中断し、見れば、彼はもうベッドに上がっていた。
意思表示のために、自分もベッドに向かい、上がる。
「一人でしてないだろうな?」
彼の視線が、下の方を見ている。
「してないよ」
待っている間に、何度かしようかと思ったが、忠告を思い出しては我慢していた。
しかも、自分でするより、彼に与えられる快楽の方が、気持ちいいことを体は理解している。
「見る?」
彼が疑心に満ちた目をしていたため、バスローブをめくりあげようと、裾を持つ。
「いい。もう関係なくなる」
彼の顔が迫り、手が肩に置かれ、そこが熱くなっていく。
「だろ?」
彼は笑う。とても綺麗で見とれてしまう。
その間に唇が重なり、舌が入ってきて目を閉じた。
彼が言ったとおり、すぐに関係なくなってしまった。

ディオは目を覚まし、あたたかいと思った。
暗闇に目が慣れてくれば、すぐ近くに黒い髪が見える。
自分に寄り添うように、ジョナサンが寝ていた。
情交の後にそのまま、眠ってしまったのだと、彼から離れ、起き上がる。
裸のままで、何もかもがそのままだ。横で寝ているジョナサンもそのままだろう。
自分の肌に何か触れ、驚いてそちらを見ると、手が。
「起きたのか」
彼はじっとこちらを見ていたが、ゆっくりと口を開いた。
「……いかないでよ」
まるで、子供のように彼は言うが、それは聞けない。
この関係を続けるためには、他の者に知られてはいけないのだ。
「それは、聞けないな」
肌に触れている手を持ち、手のひらに口づけてから離す。
「寝ろ。まだ朝じゃあない」
小さな子供を寝かしつけるように、頭を撫でてやる。そうしていると彼はうとうとし始め、目を閉じていった。
ジョナサンが寝たことを確認し、ベッドから抜け、脱ぎ散らかした服を回収し、着ていった。
静かに眠る彼を眺めていたが、眠気が来て、早くベッドに横になろうと部屋に戻っていった。


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2014/10/01


BacK