ダブルハッピー





今日はハロウィンだ。
ヒーロー達はファンサービスとして、お菓子を配るイベントを開催。
ヒーロー達から手渡しで貰えるとあって、イベントには沢山の人達が集まった。
最後には、ブルーローズのサプライズライブもあり、イベントは大盛況のまま終わった。

「みんな、お疲れさま!」
アニエスは、とても嬉しそうだ。ヒーロー人気は、そのままヒーローTVの視聴率に繋がる。このイベントを計画したのもアニエスだ。また、彼女の評価も上がるのだろう。
そして、このような地道な活動が、ヒーローの評価を上げるのだ。

アニエスが去った後、皆、自由行動をし始めた。
イベントが終わっているが、配るお菓子が余っている者もいた。
「ロックバイソンさん、そのお菓子もらっていい?」
ドラゴンキッドは、お菓子を見つめている。
「好きなだけ持ってけ!」
落ち込んでいるロックバイソンは、お菓子を全てドラゴンキッドに渡す。
地味な彼は、あまり活躍の場が少ないと言える。ランキングも低く、人気もあまり高くない。もう少し活躍できれば、人気もランキングも上がるのだろう。
「ありがとう!」
貰ったドラゴンキッドは満面の笑みで、お礼を言う。イベントの最中に少し食べても大丈夫かなと、漏らしていた。余程、食べたかったのだろう。
「で、あんたのお菓子も余ってるのね」
「悪かったな」
ブルーローズの言葉に、ワイルドタイガーは大量に余ったお菓子を見つめる。
ヒーロー界、初めてのコンビのヒーローと注目を集め、ワイルドタイガーの人気も少なからず上がったが、そのほとんどが相棒のバーナビー・ブルックス・Jr.にとられている。
「お前、いるか?」
あまり甘いものは食べないワイルドタイガーにとっては邪魔なものだ。持ってても仕方ない。
差し出されたお菓子に、ブルーローズは少し迷ったが、受け取ることにした。
「しょうがないわね……!」
そう言いつつも、顔は嬉しそうだ。
「あら、ハンサムがいないわね」
ファイヤーエンブレムは、バーナビーを探し、辺りを見回した。
「あいつは、仕事だよ」
バーナビーは今や売れっ子ヒーローだ。個人の仕事で走り回っている。
イベントが終わったと同時に、次の仕事場に向かっていた。
「ちょっと、大丈夫なの?」
今日は皆で計画したサプライズがある。それはバーナビーがいなければ始まらない。
「大丈夫、大丈夫。夜は暇にしてもらった」
ワイルドタイガーは、ため息をつく。
スーツを脱ぐために、各々、部屋を出ていっていた。
「あんたも早くしなさいよ」
「へいへい」
トレーニングルームに行かないといけない。
皆と話し合いだ。

トレーニングルームには、バーナビー以外のヒーロー達が集まっていた。
「集合はタイガーさんの家でいいんだよね」
「そういや、お前、部屋片付けてんのか?」
ロックバイソンの言葉にワイルドタイガーは、動揺する。
「あ、ああ、なんとか……?」
その反応に皆が呆れた。
「今から、帰って片付けてきなさい!」
ファイヤーエンブレムが背中を押し、部屋から押し出そうとしていると、扉が開いた。
「失礼します。ワイルドタイガーは……」
入ってきたのは、ヒーロー管理官のユーリ・ペトロフだった。
反応するスカイハイをロックバイソンが抑え込む。
「お、俺?」
ワイルドタイガーは自分を指差す。
「期限が迫っている書類がありまして。何度も催促していたのですが、まだですか?」
ユーリはスカイハイの方を気にせず、ワイルドタイガーに話しかける。
「すみません、まだです……」
申し訳なさそうに頭を下げる。
ユーリはその姿を呆れた表情で見つめていた。
「会社に寄って、そのまま家に帰りなさいよ!」
襟首を掴まれ、ワイルドタイガーはファイヤーエンブレムによって部屋から放り出された。

「管理官!」
「あ、こら!」
ロックバイソンの拘束から逃れたスカイハイはユーリに抱きつく。
「人前です。離してください、離れてください」
冷静にユーリは言うが、それは聞き入れられない。
体格差に力の差があるので、抗っても無意味なことは理解しているので、無駄なことはしない。
恋人同士にしては、人前でのスキンシップが激しい。
「あ、管理官もパーティーに来ます?」
「パーティー?」
折紙サイクロンの言葉に、今日は何かの集まりがあったかと、首を傾げる。
「バーナビーの誕生日パーティーするんです」
ブルーローズは笑う。
「今日、なんですね」
「管理官も来るといい!祝う人は多い方がいい」
抱擁からは解放されたが、肩を掴まれ、逃げられない。
「私が行ってもいいのですか?」
ヒーローたちで祝うために計画しているのだろう。そこに、入ってもいいものか。
「いいに決まってるよ!」
ドラゴンキッドはそう言いつつ、お菓子を食べている。
「そうよ。おめでたいことは、沢山の人達で共有した方がいいもの」
「仕事が終わったら、行きます」
今日は、残業するまでの仕事はなかったはずだ。
「じゃあ、私の携帯に連絡してくれればいい。迎えに行くよ」
「迎えは遠慮します」
彼のことだ。普通に空を飛んでくる。
そろそろ、戻らないといけない為、肩を掴む手を払う。
「では、失礼します」
ヒーロー達に頭を下げ、部屋を出る。
「またね、ユーリ!」
仕事中は、名前を呼ぶなと何回言えば、彼は理解してくれるのだろう。

仕事が終わり、バーナビーは帰路についていた。
その途中、携帯が鳴る。
「はい、もしもし」
「お、バニーちゃん」
画面を確認すべきだったと後悔する。
「バニーじゃないです。バーナビーです」
いつものやりとり。その呼び方は嫌いだと言っているのに。
「あのさー、実はバニーちゃんに渡してくれって、ロイズさんから預かり物しててさ、俺の家に来てくんない?」
呼び方に切ろうと思ったが、それは大人げない気がした。
「明日、渡してください」
一緒に仕事をしているのだ。明日になれば、また会うことになるのだから。
「すぐ渡してくれって頼まれちゃってさ〜。マジお願い!」
「……わかりました」
本当は、届けに来てくれと言いたかった。
伝えられた住所は、幸いこの近くだ。
電話を切り、家に向かう。

呼び鈴を鳴らすと、すぐに扉が開いた。
「来たな!まあ、中に入れよ!」
「いや……」
ここで渡してくれればいいと言う前に、腕が引っ張られ、家に入る形となる。
「僕、帰りたいんですけど」
「いいじゃねーか」
入口は閉められ、背中を押される。
妙に笑顔なのが気になる。
扉の前まで来ると、開けろと言われる。その言葉に従う義理はないが、出口は塞がれている為、しょうがなく開けた。
「お誕生日おめでとう!バーナビー!」
クラッカーの音と共に、紙吹雪が舞う。何が起きたのか、驚いて理解ができなかった。
「来ないかとハラハラしちゃった」
ホァンが笑顔でバーナビーの手を引く。
「なんですか……これ」
連れてこられたソファーに促されて座る。
回りの壁を見ると、飾り付けられている。
テーブルには、大量の食事。
「誕生日パーティーだよ、バーナビー君の」
「今日ですよね。おめでとうございます!」
キースは大きなケーキを目の前に置く。
刺さっているろうそくは自分の年齢分。
「みんな、ろうそくに火をつけるわよ〜」
ネイサンは能力を発動させ、小指に炎を灯す。
各々、席に着くと、順々に灯されるろうそく。
全てに灯されると、皆がバースデーソングを歌い出す。
歌が終わると、火を消すように促され、火を消すと拍手が沸き起こる。
「おめでとう!」
「おめでとうございます!」
なんとも言えない気持ちが溢れて、お礼の言葉を言おうにも、言えなかった。
「え、どうした!?」
「なんで、泣くのよ!」
皆が慌て始める。それよりも、自分が泣いていることに驚いた。
「すみません、嬉しくて」
両親がいた頃は、こんなこともしたが、いなくなってからは久しく。
涙を拭って笑うと、落ち着きを取り戻す。
「そうかー、泣いちゃうくらい嬉しかったんだな!」
笑顔で肩を組んでくる虎徹。
「ちょっと、やめてください」
「なんだよー、嬉しいくせに」
「鬱陶しいです」
そのまま認めてしまうのは、少し癪に触る。
でも、やはり嬉しくて、頬がゆるんでしまった。

「はい、バーナビーの分ね」
カリーナから受け取った皿の上には、どう見ても二つ分の大きさのケーキ。その上には、名前入りのチョコでできたプレートが乗っていた。
「あの、多いです」
「主役なんだから、一番大きくって。誰かに分けてあげれば?」
言われても困ると、カリーナは席に戻っていった。ケーキを分けているのは、ネイサンだ。その気遣いは嬉しいが、この量は少々辛い。
「ねー、これ余ってる?」
「管理官の分だから食べちゃ、駄目よ」
その言葉に落ち込むホァンを呼び、ケーキを少し分ける。
「ありがとう!バーナビーさん」
「どういたしまして。あの、管理官が来るんですか?」
「仕事が終わりしだい来るよ!」
満面の笑みでキースが答える。ケーキの横に携帯が置いてあった。そわそわしているのは、そのせいか。
「忙しいみたいだからな」
アントニオがそう言うと、虎徹が慌てる。
「ちゃ、ちゃんと書類は出したぞ!」
管理官がなかなか来ない原因を作ったらしい。
冷たい目で虎徹を見ていると、服が引っ張られる。
「バーナビーさん、はい」
見ると、ホァンが袋を渡してきた。オレンジ色のリボンをしているそれは、プレゼントだということは、一見してわかった。
「ありがとうございます、開けてもいいですか?」
「う、うん……」
顔を真っ赤にしているホァン。
開けると、入っていたのは赤いマフラー。赤い毛糸で作られている。
「あら、手編み?」
後ろからネイサンが覗き込んでいる。
「初めてだったからあまり上手くないけど……あの……」
言葉を切り、ホァンはネイサンの後ろに隠れてしまった。
「何?もう渡してるの?」
「じゃあ、僕も渡します」
次々と渡されるプレゼント。それは、抱えきれない程の。
「皆さん、ありがとうございます」
どういたしましてと、言葉が返ってくる。
「さあ、食べて飲むわよ!」
プレゼントは横に置き、ケーキを食べることにした。
久しぶりに食べたケーキは、とても甘いが、美味しい。
食事の争奪戦が始まり、一層、盛り上がる。

そこにお酒が入り、パーティーが最高潮になるのは、少し後になる。



続きます→2


2011/10/31



BacK