君は空を 貴方は月を おまけ
ロッカー室で着替えていると、遠慮がちに声をかけられた。
「あ、あのさ……」
虎徹もバーナビーもアントニオも、なぜか、目を合わしてくれない。
「それ……背中とか……」
そう言われ、気づく。背中と腕には、ひっかき傷が付いている。服を着てしまえば、隠れるが。
ユーリが残したものだ。キスマークの代わりだと思えば、とても愛しい。
「喧嘩した訳じゃないよ」
やっぱりと言い、何か納得したような三人。
私服に着替え、三人と挨拶を交わし、早々とロッカー室を出た。
残された三人は、笑顔と手を振るのをやめた。
「ファイヤーエンブレムがいなくてよかったな、ホント」
彼がいれば、騒ぎ立てるに違いない。
「そうですね」
「スカイハイ、無駄にテンションが高いと思ったが」
トレーニング室に現れた彼は、それは本当に晴れやかな顔をしていた。挨拶の声も、一段と大きくなっていた。
しかし、トレーニング中に、手が止まり、呆けて、我に返り、頭を振り、トレーニングの続きをするという奇妙な行動の繰り返し。
そうしていた理由が分かった。言葉にはしないが。
「先に失礼しますよ」
もう、着替え終わっていたバーナビーがロッカーを閉める。
「ん?お前、仕事ねーじゃん」
虎徹が不思議そうに見つめる。
「今からデートです」
極普通に言われた言葉に、二人が固まる。
「では」
ロッカー室から出るバーナビーを目だけ見送った。閉まる扉の隙間から、バーナビーの呼ぶ可愛らしいホァンの声が。
「え?あいつら、そういう関係なの?」
「いや……兄妹みたいなもんだと思うが」
市長の息子を預かった時を境に、仲が良いが、それは二人の年齢からしても、兄として妹として接しているものだと思っているが。二人とも一人っ子だということで。
「ちょっと、タイガー。あんた、ブルーローズが待ってるわよぉ」
ネイサンが部屋に入ってくるなり、そう言うと、虎徹は何か思い出したように、服を着替え始める。
「やばい!怒ってたか!?」
「それはもう、カンカンに」
「なんだ、お前もデートか?」
アントニオが茶化せば、それは否定された。
「楓が休日来るから、行ったら喜びそうな場所、教えてもらうんだよ」
提案した場所を全て却下され、それなら、教えてくれと頼んだらしい。
「じゃあな!お先!」
それは、れっきとしたデートだと、教える前に出ていってしまった。
「アタシがお相手してあげましょうか?」
尻を触ってくるネイサンの手を振り払いつつ、アントニオは、全力で拒否をし、部屋から出ていった。
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