義理でも充分

サイタマの家の近くまで届けられたジェノス宛の手紙と共に、可愛らしくラッピングされた袋と箱がダンボールに詰められ、パラシュートで届けられた。
「なんだ、コレ」
それらを部屋に運んだ。
いつもなら、ジェノスにはファンレターぐらいなのだが、今はそれが入った大量のダンボールが部屋を圧迫している。
「バレンタインだから、らしいですよ」
そう言われ、サイタマはカレンダーを見て、納得した。
ヒーローの人気の高い彼に、バレンタインプレゼントを贈ろうとするファンは多いだろう。
「俺の分は?」
そう言えば、ジェノスはダンボールをひっくり返していく。プレゼントと手紙で部屋が埋もれていくのをただ見ていた。
「……ないですね。俺のを食べてください。食べきれないので」
彼はそう言うと、手紙とプレゼントを分けていく。
期待はしていなかった。ファンレターさえあまり届かないのだから。
近くにある箱を手に取り、それを開ければ、有名店のチョコレートだった。それを黙々と食べていく。
彼がこうなのだから、キングにも大量のバレンタインプレゼントが届けられているのだろう。
ゲームをしに行くついでに、どれだけ贈られているのか見に行こうと決めた。

ジェノスの仕分けが終わり、大量にある甘いものの処分を迷っている時に、いきなりの訪問者が現れた。
「どうも」
いきなり部屋に入ってきたのは、フブキだった。
「お前、声をかけるくらいしろよ」
ヒーローたちには、常識というものは、あまり通用しない。
こうして、いきなり押しかけてくることも少なくはない。
「鍵を閉めてない方が悪いのよ」
「あれは、音速のソニックが壊したんだ」
数日前に来たソニックが、ドアを壊したのが原因だ。業者もここまで来れないようで、ジェノスが直したのだが、鍵はどうにもならなかった。
明日くらいには部品が届くようなのだが。
「……これ、あなたたち宛?」
部屋を埋めているダンボールを彼女は見る。
「ジェノス宛」
「先生に何の用だ?フブキ」
フブキ組への勧誘をしに来たのかとジェノスは警戒している。彼女もよく諦めないものだと自分も思っている。
「今日はこれよ」
彼女が見せてきたのは、小さな紙袋。小さなリボンが付いている。
「バレンタインよ」
「……は?」
予想外の言葉に首を傾げた。横にいるジェノスも同じことをしている。
「まあ、ジェノスはS級だし、あなたはついでよ、サイタマ」
フブキは、しょうがないと言うように、こちらに二つ、差し出してきた。
勘違いしないでとつけ加え、彼女は説明を始めた。
他のヒーローたちにもあげていると。ちゃんとホワイトデーにお礼が返ってくるし、少しは関係の潤滑剤になる。
傘下の者たちを使ってばらまいているという。その者たちにもちゃんとあげていると。
ここは治安が悪く、他の者が来れずに直接届けに来たらしい。
「俺はいらん」
ジェノスは、ファンから貰ったもので手がいっぱいだと、それを突っぱねる。
「じゃあ、あなたに二つともあげるわ」
二つとも、こちらに差し出された。
「え、マジでいいのか!?」
異性にバレンタインプレゼントを貰うなど、いつ振りだろうか。
義理だとしても、不純な理由ががあったとしても、素直に嬉しい。
「ありがとうな、フブキ!」
それを受け取り、笑顔で手を握ると、フブキは一瞬、戸惑う顔をしたが、すぐに意味ありげな笑顔を向けてきた。
「じゃあ、フブキ組の」
「それは、ヤダ」
フブキの傘下に入っても、自分に利点は何もない。自分の保身のためにヒーローをしている訳ではないのだ。派閥争いにも興味はない。
「もう期待してないわよ……ホワイトデーに、ちゃんと返すのよ」
手は振り払われ、フブキは家を出ていった。

握られた手が妙に熱く、フブキはその感触を思い出し、一人顔を赤くしながら、道を塞ぎ、何か喋る怪人に礫を浴びさせ、道路から岩を出現させ、挟み潰した。



   →おまけ





後書き
サイフブらしきもの
フブキさんはこういうことをしてそうだなあと
ホワイトデーはがっつりサイフブにするつもりです


2014/02/26


BacK