約束しよう

マリクの魔の手からソフィを救った直後、前を歩いていた彼女は立ち止まり、振り返った。
「リチャード」
少し怯えたような目で見つめてくる。
「なんだい? ソフィ」
「あのね、触っていい?」
ラムダといる時、心配しているソフィに対して、酷いことをしたことを覚えている。ラムダがソフィを拒否をしたからだ。
手を払った時に見せた表情は、今でも鮮明に覚えている。
「ああ、当たり前じゃないか」
笑って承諾する。こちらから触れたことはあったが、ソフィからはなかったように思える。
ソフィは勢いよく抱きついてきた。
手に触れてくると思っていたのだが、抱きつかれるとは。驚いて、動けなかった。
「リチャードが大きくなってから、ちゃんと触れたの初めて!」
嬉しいのか興奮気味だ。
こちらを見上げる目は輝いている。
「そうだね、僕も大きくなった」
ソフィに初めて会った時は、背は殆ど同じだった。
今や見下ろすまで、成長している。
頭を撫でると、嬉しそうに笑う。
彼女だけが、変わっていない。見た目も中身も。あの頃のままだ。
しかし、それは、同じ場所から動けないことを意味をしている。
今は走って追いついても、いつかは追い付つなくなる。その時は、手を伸ばしても届かない所にいるのだから。
「どうしたの? どこか痛いの?」
怪我でもしているのではないかと、体を触り始める。
「大丈夫だよ」
手を握りしめ、笑う。
「ソフィのことを考えていただけ」
「わたしのこと?」
「ソフィがいなくなったら寂しいな、て」
彼女はまた、抱きついてきた。今度は力強く。
「わたしはずっと、ずっと一緒にいるよ! 今度はリチャードのそばにいるから!」
震える声で、吐き出された言葉。胸に顔を埋めて表情は見えない。
「ソフィ」
名を呼ぶと、顔を上げる。今にも泣き出しそうな表情をしていた。
腕の力が弱まったと同時に抱き上げる。
「ありがとう、約束だよ」
「うん、約束!」
笑顔を見て安心する。
そばにいる時は、笑っていてほしい。抱えていく思い出には、笑顔が溢れているようにと。
「ソフィ、約束の儀式をしよう!」
「指切り?」
そう言って、小指を目の前に持ってくる。
それは違うと、首を横に振る。
「僕たちだけの、だよ」
笑みを浮かべ、彼女の頬に唇を押し付ける。
唇を頬から離すと、ソフィは不思議そうにしていた。
「ソフィも」
そう言い、頬を彼女に向ければ、自分と同じ行為をした。触れる唇が、少しくすぐったい。
唇が離れ、顔を見合わす。
「これで、約束だよ」
「うん!」
「へ・い・か?」
怒り混じりの声が聞こえ、振り返れば、そこには、顔をひきつらせているシェリアが。
「何しているんですか!」
「何って……」
「わたしたちだけの約束をしていたの」
ソフィが嬉しそうに笑う。
「ソフィに変なことを教えていませんよね!?」
迫ってくるシェリアに気圧される。これは、ほとぼりが冷めるまで逃げた方がいいかもしれない。
「教えてないよ、シェリアさん」
そう言って、ソフィーを抱えながら、走り出す。
シェリアの声が背を殴りつけてきたが、アスベルの呼ぶ声がした。
追いかけては来ないだろうが、ソフィーが楽しそうに笑うので、そのまま走った。
小さい頃を思い出しながら。





後書き
この二人が仲良くしているところを見て、よかったなー!! と
とあるチャット後のお話ですが、それはマリク教官がソフィーに教えなくてもいいことを教えようとして
リチャードがソフィーを連れて行ったチャットのはず(うろ覚え)


2019/03/22


BacK