目次

題名からその小説にとびます

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枕代わり

空月+楓・三人で映画

それは一夜のこと

空月・追いかけるキースと逃げるユーリ

僕は悪くない

兎龍・ホァンが無自覚のお色気攻撃

甘い香りに誘われて

虎薔薇・バレンタインにひっかけてチョコ

ラブラブですから

兎龍・バレンタイン 題名のまま

君の気持ちが分からない

月楓・バレンタイン 楓ちゃん片思い

あなたが

空月・月を観賞

こっちの方が早い

月楓・人ごみの中


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枕代わり


ユーリは動けないと体を固くした。
三人で映画を見ていたのだが、両隣の二人が自分に寄りかかってきている。
聞こえる寝息。
この映画はキースが見たいと言って、今、見ているのだが、本人が寝ている。
たぶん、ここのところ事件続きで、寝不足だったのだろう。しかたがない。久しぶりの休日だ。
逆で寝ている楓にとっては映画は、少し難しかったのかもしれない。大人でも話は難しいというのだから。
しかし、目の前にある飲み物を取れない。
我慢して目の前の映画に集中することにする。
伝わってくる温もりをあまり意識しないように。


2013/06/23

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それは一夜のこと


「ユーリ……?」
隣に寝ていたはずの人物がいない。
昨夜の出来事は夢だったかと思ったが、自分は裸で、彼に付けられた痕がくっきりと様々なところに残っていた。
服を着て、リビングに行くと、机の上には一枚の紙。
「ありがとう、さようなら……」
キースはゆっくりと読み上げる。
「……キース」
紙の上に落ちる滴は、字を滲ませる。
彼は最後まで自分の名を呼んでくれなかった。あの声で、名前を呼んでほしかったのに。
こんな言葉を綴るときだけ、名前を書くなんて。
「卑怯じゃないか、ユーリ……」
諦めるはずがない。
ここで終わりじゃない。
ようやく、触れあえたのに。
手放せる訳がない。
逃げるなら、追いかけるまでだ。
自分は空を飛べるのだから。

鏡を見て、付けられている痣を手で覆う。
あの紙切れ一枚で、彼が諦めるはずがないのだ。
しかし、諦めてもらわなければ。
鏡越しに見える幻に、声なき声に攻められる。
「わかっている……私は罪人だ……!」
彼は、ヒーローだ。
相反する者同士一緒にいられる訳がない。
忘れよう。
あの一夜は、別れの為に共にしたのだから。
仕事で会うことも少ない。プライベートで会わなければいい。
彼の電話もメールも拒否した。
携帯が鳴ることもない。
この痕がなくなってしまえば、キースとの繋がりはなくなる。
後は、管理官としてスカイハイに接すればいいのだ。
もう会うこともない。
ルナティックとして、対峙するだけだ。
シャツを着て、痣を隠した。


2013/06/23

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僕は悪くない


ホァンが自分の体に触ってくる。
どうしたのかと聞けば、羨ましいと。
「僕、そんなに逞しくないしさ」
彼女は、力はある方だ。男の自分には及ばないが、同じ年齢の女の子よりは遥かに。
「いいなあ」
そう言って、胸をぺたぺたと触る。
「こんな筋肉が欲しいよ……」
「いや、ホァンさんはそれくらいで充分ですよ」
あまり筋肉をつけては、成長の妨げになってしまうし、自分も触るなら柔らかい方が嬉しい。
いきなり、手を掴まれ彼女の胸へと押しつけられ、固まってしまう。
「ほら、全くないんだ!バーナビーさんのちょっとくらい分けてよ!」
なぜか、彼女は手に胸を押しあて、怒っている。
ホァンは性別を気にしていないところがある。
自分が触れているところが、男が触れてはいけないところだと気づいていない。
手のひらにあたる柔らかなものから、手を引こうとしても、がっちりと両手で押さえつけられ、離せない。
「僕、男の方がいい!」
「僕はそのままの方が嬉しいです」
とりあえず、彼女を宥めつつ、表情が崩れないことに集中した。


2013/06/23

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甘い香りに誘われて


長椅子に座りながら、ワイルドタイガーは、眉間にしわを寄せながら、本を見ている。
それは、今度収録するドラマの台本だ。
アニエスが企画したヒーローのドラマだ。
第一弾として、アポロンメディアの二人が主人公のものを撮るらしい。
集中している彼の横で少し距離を置いて、ブルーローズは座っていた。
そんな彼を彼女はチョコレートを食べつつ、見ていた。
「ん?」
彼はいきなり、こちらを見る。目が合い、とっさにそらしてしまった。
タイガーがこちらに来たのが分かった。
「な、何?」
「いやあ、うまそうだなあって」
匂いに誘われてこちらに来たらしい彼を見ると、ニコニコと笑顔でこちらを見ていた。手には台本が開いたまま。
チョコレートは、会社の人から貰ったもので、まだある。
「あげるわよ」
チョコレートを一つ、つまみ、差し出すが、彼は、口を開けて待っている。
食べさせろということだろうか。
子供みたいだと思いながら、少しドキドキしながら、チョコレートの包み紙を外し、彼の口に持っていく。
彼がチョコレートを食べようと口を閉じると、指先が唇にあたり、すぐに指を引っ込める。
「ありがとさん、ブルーローズ」
「どーいたしまして」
赤い顔が見られないように、顔をそむけた。


2014/02/26

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ラブラブですから


今日はバレンタイン。
バーナビーはホァンからバレンタインプレゼントを貰った。
「ありがとうございます」
「おいしく作れたんだよ!」
ニコニコしながらホァンがそう言ってきたので、彼女は完成品を食べたことになる。味見という量ではないのだろう。
袋を開けると、中にはトリュフチョコレートが入っていた。
「ホァンさん」
「何?」
袋を彼女に差し出す。
「食べさせてください」
「分かった!」
ホァンはチョコレートを取り出し、口の前まで持ってきてくれた。
それを食べ、おいしいと言うと、そうでしょと彼女は嬉しそうだ。
「あんたたち、人がいないとこでしなさい」
後ろにはそれを見ていたヒーローたち。呆れたようにファイヤーエンブレムが言ってきた。
ここは、トレーニング室に隣接する休憩室なので、当然、他のヒーローたちもいる。
「皆さんに見られても問題ないですし」
この関係は、ヒーローたちの中では、知れ渡っていること
「仲良しなのはいいことだよ、そして、いいことだ!」
「まあ、いいじゃねえか。ドラゴンキッド、うまいぜ。ありがとうな」
「美味でござる!」
ホァンに貰ったお菓子を食べている、スカイハイとロックバイソン、折紙サイクロンはこちらのことは気になっていないようだ。
口の中の小さくなったチョコレートを飲み込む。
「忙しくて会えないんです。少しは許してください」
自分の仕事が忙しく、ホァンに会おうと思っても会えないことも多い。
その言葉に、ファイヤーエンブレムも何も言えないようで、好きになさいと休憩室を出ていった。
「ホァンさん、チョコレートが沢山あって、食べきれないんです。僕の家に来てくれませんか?」
ファンから贈られてきたチョコレートや贈り物が家には山のようにあり、困っているのだ。
「本当!?行く、行くよ!」
目を輝かせながら、嬉しいのかホァンは抱きついてきた。
その様がとても可愛いらしく、我慢できずに抱き返した。


2014/02/26

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君の気持ちが分からない


「ゆ、ユーリさん、コレ……!」
ユーリの目の前に差し出されたのは、ラッピングされた袋だった。
「……何ですか?」
なぜ、自分がそのような物を贈られるのか分からず、ただ見つめるだけ。
「あの、今日、バレンタイン……」
顔を赤くした楓は、そう言うとうつむいてしまった。
今日はその日だと嫌でも知っている。町はその装いをしているのだから。
貰っていいものか。賄賂だと言われれば否定はできない。彼はワイルドタイガーの娘だ。
「お世話になってるから……」
こちらを見た彼女は、哀願するような目をしていた。
「ありがとうございます」
子供の気持ちを蹴るほど、自分は冷酷ではない。
それを手に取ると、彼女はみるみる笑顔になっていく。
「やったあ!」
小さく飛び上がり、彼女は喜んでいる。
そんなに自分に渡せたことが嬉しいのだろうか。よく分からない。
そういえばと、ポケットを探る。
「これ、良かったら」
買い物の時にバレンタインだからとオマケについてきたものだった。
「えっ……」
それを見て、楓は驚いていた。
「嫌いでしたか?すみません」
貰ったものの代価には安すぎるかと、それを引っ込めようとすれば、彼女は、手を掴み、それを手に取った。
「いります!ありがとうございます!」
「ど、どういたしまして」
妙な必死さに少し気圧された。

ユーリが渡してきたのはキャンディー。
これは、そういう意味にとらえていいのかと、楓はユーリを見たが、顔はいつもどおりの無表情。
大人の彼がそんな気持ちを持つはずかなく、勘違いしてはいけないと言い聞かせるが、淡い期待をしてしまう自分がいた。


2014/02/26

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あなたが


「月が綺麗だよ」
窓から外を見ているキースが言う。
「……皮肉ですか?」
そう捉えてしまう自分が悪い。現に今、彼は意味が分からないという顔をして、首を傾げている。
彼は純粋に月の感想を言っただけだ。
「ユーリも見て、そして、見るんだ!」
彼が近づいてきて、手を差し出してくる。その手を取り、腰をあげた。
窓辺に立ち、ガラスから通して見る月は、光り輝いていて、彼の言うとおり、綺麗だった。
「綺麗だね」
「ええ」
「……本当に、綺麗だ」
その言葉に笑ってしまう。
彼は、月を仰ぎ見ていないだろう。


2014/03/10

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こっちの方が早い


道の突然の通行止めに、人通りが止まり、密度が増してきていた。
犯人確保のためか、安全確保のためか。
隣にいる楓が、横にいる人の鞄にぶつかり、よろけたため、声をかけ、肩に手を回し、自分の方へ引き寄せた。
大人の自分に密着するなど不快ではあろうが、この人混みでは、彼女がのまれてしまう可能性がある。
「す、すみません……ありがとうございます……ユーリさん」
そう言う彼女はうつむいていて、表情は見えない。
「いえ」
他人とぶつかり、自分も不快になっていく。今、足が踏まれた。
「ここを離れましょうか。鞄、持ってください」
「え、はい」
顔をあげた彼女に自分が持っていた鞄を持たせる。
「失礼」
少し屈み、彼女を抱き上げる。
「えっ……えっ……」
戸惑っている彼女を尻目に、人混みをかきわけ、そこから脱出をした。


2014/03/10

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