花と酒と

兼続に招待された花見は、三成、幸村、左近に慶次という五人で行われていた。
他の者達はまた、違う場所でやっているらしい。
兼続が頑張って確保した料理も酒も、三成達が持ってきた酒も尽きかけていた。
「三成殿、大丈夫ですか?」
「ん〜?」
揺れる三成の体を支えつつ、幸村は言葉をかけるが、はっきりした返事は返ってこない。
どう見ても酒に呑まれている。
こうなったのは、底無しの慶次が無理矢理三成に飲ませたからだ。三成は必死に断っていたが、慶次が酔っ払っていたこともあり、押しきられた。
「ハッハッハッ、これくらいで酔うなんて弱いねぇ」
慶次にとっては微量なのだろうが、結構な量を飲まされていた。それ以上飲んでいるにも関わらず、慶次には変化がない。
「幸村、三成の酔いを向こうで覚ましてこい。ここにいては、また飲まされるぞ」
兼続の言葉に幸村は頷き、足がおぼつかない三成を連れ、川の方へと向かっていった。
「さて、これでまた一歩、進めばいいんだがな」
「殿、あんな状態で大丈夫ですかね」
「酒の勢いでなんとかなることもあるさね」
あんなに酔いつつ、進展を望めるものか、と左近はため息をつく。
他の二人は、飲み直しだと残り少ない酒を煽り始めた。


川辺まで着くと、幸村は足を止めた。
手を引く三成を見ると、まだ体が揺れている。
傍にあった桜にもたれかかせ、座らせる。
ここなら、風も冷たい。少しくらいは、酔いも覚めるだろう。
触れていた手を離すと、いきなり手首を捕まれた。
「どうしたのですか?」
「どこにも行くな」
はっきりとした口調で告げたので、酔いは覚めてるのではないかと疑い、三成を見てみると、焦点が定まっていない。
「どこにも行きません。隣に座ろうとしただけです」
手を離され、隣に座ると、手を握られる。
迷子にならないよう、親の手を握る子供のようだ。
自分の体重を支えられなくなったのか、よりかかってくる。
重さと温もりを感じ、あの夜のことを思い出し、顔が熱くなる。
「幸村」
三成の方に顔を向けた瞬間。
一気に顔の熱は冷めた。
思考は停止し、理解できていない。


それは触れただけ。
すぐに離れていったというのに。
一度だけの感触が唇に残っている。


理解した途端に、急激に体温が上昇した。鼓動は高鳴り、顔はさぞや真っ赤だろう。
口を手で塞ぎ、声を出さないようにした。そうしなければ、情けない悲鳴が出てきそうだった。


動揺する幸村を見つつ、また、よりかかる。
その反応が嬉しくて、面白い。顔がにやけるのはしょうがない。
拒否や嫌がっている仕草ではないのだから。
欲望に忠実になって良かったと思う。
その為に幸村と二人っきりになったのだから。
伝わる体温は熱く、吹く風は少し冷たい。
見える桜は綺麗だが、幸村を感じる為に、目を閉じる。


自分をなんとか落ち着かせ、手を下ろす。
三成を見ると、肩に寄りかかり目を閉じていた。
眠っているのかもしれない。
「三成殿」
呼んでも反応がない。
眠っているのだろう。
三成の方に寄りかかり、自分も目を閉じた。


「花より昼寝、か?」
「殿、仕事続きでしたから」
「幸村も寝るとはねえ」
三人は、桜の花弁にまみれ寝ている二人に背を向け、顔を見合わせて笑った。


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後書き
気付けば、短かった
去年、書いたものがっ……てどこかで書いたような
花がなくともの続きです
お花見させましたよ!寝ましたけど
この二人はほのぼのでいいと思います


2012/04/26


BacK