存在を繋ぎ止める鎖
「ちょっと、ルドガー!」
いきなり、後ろから引っ張られ、振り返れば、ミラが必死な表情をしていた。
「匿って!」
そう言うなり、近くの裏路地へと、姿を隠す。
「あ、ルドガー」
また、後ろから呼ばれ、振り向けば、今度はミュゼがいた。
「ねえ、こっちにミラ、来なかった?」
彼女の先ほどの言葉を思い出す。どうやら、ミュゼから逃げてきたらしい。
小首を傾げたミュゼに、来ていないと首を横に振る。
「……そう。確かにこっちに来たと思ったのだけれど」
辺りを見回す彼女。ミラが見つかる前にと、向こうに行く姿を見たと嘘をつく。
「あら、ありがとう、ルドガー」
微笑みを返すと、そちらに滑るように向かっていく。彼女の姿を見た通行人が、声をあげたが、慣れてしまったのか無視される。
「いった?」
声をかけられ、返事をすれば、ミラが出てきた。
「あ、ありがと……匿ってくれて……」
少し顔を赤らめながらお礼を言う彼女。別にいいと言うと、まあ、そうよねと、普段の表情に戻った。
なぜ、ミュゼに追いかけられていたのかと聞く。
そうすれば、うんざりしたような顔をするミラ。
「姉さん……ミュゼがベタベタしてくるのよ」
自分も何度かミラがミュゼに抱きしめられるのは見た。少し嬉しそうにミラは受け止めていたはずだが。
向こうの世界では、ミュゼはミラに辛くあたっていた。こちらのミュゼは、ミラにはそんなことをしない。前は違ったらしいが。
「ずっとくっついて来るのよ……」
そう言えば、ミュゼはミラにずっと付き添うにようにしている。
「理由聞いたら、あなた寂しそうなんだもの、ですって」
ミュゼの台詞は、物真似が入り、彼女の仕草と声を真似ていた。結構、似ている。さすが、姉妹だ。
似ていると言うと、褒められても嬉しくないと怒っていたが、すぐにそれはなくなり、悲しそうな笑みに変わる。
「……そう、見えるのかしら」
寂しいと言っても、彼女の帰る世界はない。自分が壊してしまったから。
彼女は、自分を殺してしまいたいくらい恨んでいるだろう。殴られただけで済んだのは、そうしても、彼女の世界は戻ってこないことを理解しているからか。
この世界には、彼女の居場所はなく、浮いた存在だ。
そう見えると言えば、彼女は怒るだろうか。
彼女に近づき、頭を撫でると、顔を真っ赤にする。
「な、何よ……いきなり……!子供扱いしないで!」
手が払われる。その言葉にエルを思い出し、笑えば、より一層、彼女は怒りだす。
謝罪しても、ミラは納得しない。
だから、浮いた存在をここに繋ぎ止めるしかない。
ジュードたちは、この世界のミラを知っているようだが、自分とエルは、このミラしか知らない。
「ねえ、聞いてるの!?」
聞いていると、首を縦に振る。
その時、腹が鳴る音が。
「……!」
ミラは顔を真っ赤にしたまま、黙ってしまう。
それだけ、怒っていれば、お腹も空くだろう。自分もつられるようにお腹が空いてきた。
ご飯、食べに行くかと、聞けば、怒らせたのは、ルドガーだから奢れと。
しょうがないかと、それについては、了承し、エルを見つけて、ご飯を食べに行くことにする。
「さっさと行くわよ!ミュゼに見つかったら、ご飯、食べれないわ」
もう一人、増えたら、自分の財布が危ない。借金もあるのだ。途中で来たエルとルルも合流し、食事するお店を探して回った。