思わぬ再会
「起きなさいよ」
上から降ってきた声に目を開ける。知っている声だ。
誰かが見下ろしている。逆光で人の形だけが黒く見えていた。しかし、その形と声で、誰かは分かっていた。
起き上がらせてくれと、腕を上げれば、ため息をつかれたが、手を引っ張り、起き上がらせてくれた。
光に照らされた長い金髪。こちらをみる赤い目。
あの時から、変わっていない彼女。
「ミラ」
「なんで、私が……」
何かブツブツと言っている。
「ミラ」
また名前を呼ぶ。
「なに?」
横に座ってほしくて、横を叩く。
しょうがないわねと言うと、ミラは横に座ってくれる。
「来るとは思わなかったわ」
「俺も」
消えた彼女がここにいるということは、ここがどこかは予想がつく。たぶん、自分の兄もいるはずだ。
「……あの子のため?」
「ああ」
未来の自分の娘。会えなかったはずの自分の大切な存在、エル。
「ごめん」
「なんで、あや……」
途中で納得したように、口を閉じた。
あの時、エルを守るためだとしても、ミラの手を離してしまった。
「……許さないわ」
怒った声色に、頬でも叩かれるのだろうかと、彼女の方を向く。
表情は見えなかった。そっぽを向かれていたためだ。
「手」
自分に近い手をヒラヒラさせる。
なんだろうと、彼女の近い手を差し出す。
すると、強く握られた。
「今度は離すと……許さないから」
少し見える彼女の頬は赤い。
返事と共に、握る力を強くする。
「おーい」
また、馴染みの声が聞こえ、見れば、兄が手を振りながら、こちらに向かっていた。
「なかなか来ないから、こっちから……って、邪魔か」
繋がれた手を見て、ユリウスは困ったように笑う。
「兄さん」
「兄弟揃って、か」
自分の意思を託した弟が、こんなにも早くこちらに来るとは、思わなかっただろう。
「まあ、ここでもなんだ。来てくれ」
手を差し伸ばされ、その手を掴み立ち上がる。
「……言っとくけど雰囲気、最悪よ」
立ち上がったミラが呟くように言った言葉に、直前に旅立った者たちを思い出す。
ヒズリー、リドウ。いい雰囲気にはならないだろう。
「こっちだ」
ユリウスの大きな背についていく。
もちろん、ミラとは手を繋いだまま。
振り返れば、嬉しそうな笑顔が見えたが、こちらの視線に気づくと、すぐに消え去り、少し不機嫌そうな顔になる。
素直ではない彼女。手を握る力が、幸せの証だ。