贈り物
買い物をしていると、エルがお店の前で立ち止まる。
何を見ているのだろうと、ルドガーが見てみれば、店先に並ぶアクセサリーを見ているようだ。
欲しいのだろうか。年齢は幼いがませている子だ。こんなものに興味を持ってもおかしくはない。
「ルドガー、ミラがこれ見てた」
聞けば、前に一緒に買い物していると、ミラがそれに興味を持ったらしい。
指されたそれは、赤い宝石が付いた腕輪だった。
「これ、あげたら、ミラ……笑顔になるかな……」
自分たちと一緒にいるミラの表情は、どことなく暗い。
当たり前だ。いきなり、自分がいた世界を壊され、不本意ながらも世界を壊した張本人と一緒に行動を共にしている。
しかも、彼女が全て壊したはずの黒匣が普及している世界。
困惑しながらも、彼女は現状を受け入れている。
そうしなければ、ならないからだ。その選択しかなかったから。
分史世界を壊さなければならなくなった自分のように。
「ねえ、ルドガー」
名を呼ばれ、我に返る。
「これ、ミラに買ってあげよう。喜ぶよ、絶対!」
エルは目を輝かせて言う。もう買うことは、彼女の中で決定してしまったようだ。
「無料でラッピングしますよ、お客さん」
新聞を見ていたはずの、店主がにこやかに笑う。エルが大きな声で言ったのだ。聞こえていない方がおかしい。
値札を見れば、買えないこともない金額。
少しでも、彼女が笑顔になってくれるならと、買うことにした。
「やったぁ!」
エルは手をあげて喜んだ。
買った腕輪は丁寧にラッピングされ、渡された。
それをエルに渡す。
「ルドガーから渡せば?」
彼女は不思議そうに首を傾げる。
自分から貰うなら、彼女が拒否する可能性が高いからだ。あまり嬉しくもないだろう。
しかし、エルからなら、子供からのプレゼントを拒否はしないだろう。そこまで、彼女は非情ではないはずだ。
それを幼いエルに言うわけにもいかず、発案者だからと言うと、納得し、そのプレゼントを抱える。
「早く帰ろ!ルドガー」
差し出された手を握り返し、皆がいる場所へと向かうため、ゆっくりと歩き出した。
「ミラ!」
エルがミラを見つけ、そちらにかけていくのを横目で見つつ、荷物を置こうと、部屋に一足先に帰る。
荷物を整理していると、笑顔のエルが部屋に帰ってきた。
結果を聞くと、ミラは喜んでくれたらしい。笑顔も見れたと。
それは、よかったとエルの頭を撫でる。
部屋を出ると、部屋の前で行ったり来たりを繰り返しているミラがいた。
突然、出てきたことに驚いているようだったが、来てと、腕を引っ張られ、外へと連れ出された。その腕には、あの腕輪を付けて。
外に出て、ようやく手が離された。
周りを見て、人がいないことを確認すると、ミラはこちらを見る。
しかし、その目はすぐにそらされ、口が少し動く。
何か言っているようだが、聞こえない。よく聞くためにも、彼女の方へと、顔を近づける。
「ちょ……え、ち、近い……!」
こちらを見た顔が真っ赤になりつつ、言われたので、少し引く。
「あ、あ……ありがとう……腕輪……」
目をあわせずに小さく言われたのは、お礼だった。
気にしなくていいと、首を横に振る。プレゼントしようと言い出したのはエルだ。
自分にはこれくらいしか、できないのだから。
「エルが、あなたが買ったって。借金もあるのに大丈夫なの?」
大丈夫だと笑うと、少し呆れたような顔で、本当かと返ってきた。
「子供に気を遣わせるなんてね……」
悲しい顔をするミラ。そんな顔をしないでほしい。笑ってほしくて、エルは贈り物をしたのだ。勿論、自分も。
笑ってと言う。
笑顔を見たい。そんなことを言う資格はないのだけれど。
ミラは笑う。それが表面上でも良かった。心から笑えなど、残酷だ。
「ありがとう」
「なんで、あなたがお礼を言うのよ」
言いたくなった。ただ、それだけだ。
「そろそろ、帰りましょ。晩御飯の時間だわ」
「ああ」
ミラと並んで、建物へ入っていく。
入れば、エルとルルが走り寄ってくる。自分とミラの手を引っ張り、ご飯だと急かす。
皆が待っているらしい。
謝りながら、皆の元へと急いだ。