兄と妹 おまけ
イヴェールが双子のもとに帰ると、箱を持って、おかえりなさいませと、出迎えてくれる。
「もう見つけたんだね」
実際は、見つけやすいように、テーブルに置いていたのだが。
目を輝かせている二人。
「賢者にもらったんだ。食べていいよ」
彼に貰ったチョコレート。
歓声をあげた二人は、お茶の用意をしようと、扉へと向かう。
「ヴィオレット」
片方だけを呼び止める。
「何かご用ですか?」
不思議そうにヴィオレットは戻ってくる。オルタンシアは、先に扉の向こうへと行ってしまった。
「ヴィオレット、すまないね。僕の分も食べていいよ。いらないなら、オルタンシアに分けてあげて」
彼女は、自分が対処しなかった為に壊れてしまった。
頭を撫でると、彼女は首を横に振る。
「気にしないでくださいませ」
笑顔を向けてくる。自分は笑うことなんて、できない。言葉に頼るしかない。
「ありがとう、ヴィオレット」
オルタンシアの呼ぶ声が聞こえ、お茶の準備が、できたのだと分かった。
ヴィオレットが早くと言わんばかりに、手を引く。
分かったよと、歩き出す。
扉を開ければ、紅茶のいい匂いがした。
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2012/10/4
BacK
さらにおまけ ↓
「やあ、イヴェール君、こんにちは」
訪ねてきたのは、髭をはやした杖を持った男性。ここに唯一、やって来る人間。
彼は被っていた帽子を持ち上げ、挨拶してくる。
「ああ、賢者、こんにちは」
立ち上がり、挨拶を返す。
「可愛らしいお嬢さんたちはいないのかい?」
辺りを見回しながら、双子を探す。
「ああ、オルタンシアの腕が取れてしまってね。ノエルのところだよ」
そう言いつつ、またソファーへと腰かける。
その言葉に彼は、こちらを見る。とても複雑そうな表情をしていた。
「彼女に会ったのかい?」
「うん。毎日、会ってるよ」
彼は、自分が座っているソファーへと腰かける。
「……君は残酷なことをするね」
こちらを見据えながら、吐き出された言葉から、悲しそうな響きが伝わる。
自分は、イヴェールだが彼女のイヴェールではない。
「君の優しさは、鋭い刃だよ」
しかし、それが彼女に少しの安らぎとなれば。
自分が去った後は、記憶は残らないけれど。
黙って彼を見つめていると、何かを思い出したように、手に持っていた紙袋をテーブルに置いた。
「紅茶とチョコレートだ。なかなか良い品でね……そこで」
「売っているお嬢さんが、可愛かったんだね、賢者」
言いたいことが、先に言われ、彼はとても悲しそうな顔をする。
彼はよく女性に声をかけては、相談にのっているらしい。不審者として、認識されないのは、彼女たちの悩みを全て解決してきたからだろう。
通称、賢者として呼ばれる彼。聡明であり、色々なことに精通している。そして、ミシェルが嫌う人物だ。
袋を開け、袋と箱を出す。
袋から紅茶の葉の匂いがする。
「飲んでいくよね、賢者」
「ああ、ごちそうになろうかね」
袋を手に取り、お茶の準備をする。
いつもは二人がしてくれるのだけれど、今は自分がやるしかない。
「とてもいい香りだ」
優雅に紅茶を飲む賢者。
「そういえば、何か用だったのかい」
チョコレートは、二人が帰ってきたら一緒に食べようと戸棚に直す。
ソファーに戻ると、賢者はティーカップを置く。
「これを届けにね」
ティーカップを軽く弾く。
「しかし、今は一人の君の話し相手になりたい」
「……ありがとう、賢者」
一人というのは、やはり寂しい。人形たちが物語を探しにいくので、一人で過ごすことは多いが、いつまで経っても慣れない。
「私も暇でね」
紅茶を飲みながら、ノエルのところへ訪ねる時間になるまで、彼に付き合ってもらった。
紅茶を飲み、これをノエルに持っていこうと思いながら。