繋ぎたい手を
息を吐くと、視界が白くなる。こんなに寒いのに、雪は降らないらしい。
空を見上げると、浮かぶ月。綺麗と思いつつも、寒さでそのことも忌々しく思ってきた。体が冷え、熱を発する為に震える。
「お待たせしました」
振り返ると、姿を見た瞬間に笑い出した。
「今にも死にそうな顔をしてますよ」
そう言って、首にかけてあるマフラーを取ると、自分の首にかける。
「風邪をひかれては困ります」
有り難くマフラーを受け取り、優しさを甘受する。
「あなたがいなくなれば、陛下が私の所に頻繁に来るようになりますから」
優しさの理由が分かり、一人、納得する。
「風邪をひいても、私のせいではないですよ?付いていくって言ったのはガイですから」
「分かってる」
ジェイドが仕事の資料を届けに行くのに、勝手に付いて行ったのは自分だ。今日の仕事は終わり、後はジェイドの所に寄るくらいしか用事はなかったのだ。
付いていこうとしたら、時間がかかるので帰れ、と言われたが、ジェイドがいない執務室に行っても暇なだけで。
「さ、帰りましょうか」
歩き出すジェイドを追いかけ、横に並ぶ。
「仕事は?」
「終わりましたよ。だから、帰れと言ったじゃないですか」
その言葉は毎日のように聞いている。それだけで判断なんて出来る訳がない。
風が吹き、体温を奪う。横のジェイドを見ると、薄手のコートだ。動きを制限しない為だろうが、マフラーは自分がしている。雪国出身でも寒いものは寒いはずだ。
「旦那、手」
腕を軽く叩く。
「手がどうしたんですか?」
ジェイドは不思議そうにこちらを見ながらポケットから手を出した。その手を握り、自分のコートのポケットに突っ込む。引っ張られる為、肩と肩がぶつかり、歩みを止める。
「離してください」
「嫌だね」
暴れようとする手を握る力を強くして封じ込める。手は直前までポケットに入れていて、手袋をしているはずなのに、冷たかった。
「……嫌がらせですか?」
抵抗は続いていたが、手を自分の体に押し付ける事で動けなくすると、大人しくなった。
「マフラーのお礼」
「違うお礼が欲しいですね」
至近距離にある頬に接吻する。口にしなかった事を褒めてほしいところだが、代わりに足を踏まれた。
「〜っ!!」
手の拘束が緩み、手を払ってジェイドが先に行ってしまう。
「悪かったって」
追いかけても、話しかけても無視だ。腕を掴み、引き止めると睨まれる。
「ちゃんとお礼するから」
「晩御飯はフルコースで」
「どっちだ?」
作れと言う意味か、店で奢れと言う意味か。
「良いワインが手に入りました」
「作らせていただきます」
どうせ、ジェイドの家に行くつもりだったのだ。そこで、食事を作る事もいつものことだ。
「材料ないよな?」
「分かりきった事を聞かないでください」
家に帰ることが少ないジェイドは、家に食料の買い置きなどはあまりしない。
「買いに行くか」
だから、材料を買いに行くのも、いつものことで。
「ガイ持ちで」
手持ちは、ちゃんとあったはずだ。しかし、不安になり財布を確認する。
「行きますよ」
「はいはい」
素早く中身を確認する。多分、足りるだろう。
店を目指し、歩き出すが、やっぱり手は寂しい。
「手、繋ぎたい」
「自分の手を握っててください」
「ちょっとだけでいいからさ」
「そのちょっとが長いじゃないですか」
繋ぐ繋がないの押し問答は結局、ガイが勝ち、お店までの短い距離を手を繋いで行くのだった。