君は冷たい
仕事の書類を帰宅途中に本部に取りに戻り、帰ろうとした途端、窓を叩く雨。
ついていない。日頃の行いは良いはずなのに。
置き傘はない為、軍にある物でも借りようと、部屋を出ようとした瞬間、扉がいきなり開いた。
「お、ジェイド。探し物は見つかったか?」
「……ええ」
心配して迎えに来たのだろうか。あまり時間は経ってないが。
「雨が降ってきたからな。書類、濡れると困るもんだろ?」
考えが顔に出ていたのか、それとも読まれたのか。どちらでもいいが、ガイが持っている傘を指す。
「はい。ですが、なぜ、傘が一本だけなんですか?」
二人なら、普通、二本持ってくるはず。一本だと雨を防ぐ範囲にも限界がある。
「相合い傘しようと思ってさ」
とても幸せそうな笑顔で言われ、苦笑いしかできなかった。これは、ただの嫌がらせか。恋人同士でも、男二人で相合い傘とは暑苦しい。
「書類は見つかったんだろ。ほら、早く帰ろうぜ」
手を握られ、部屋から連れだされる。
「離してください」
手をふりほどくと、ガイは少し笑い歩いていく。
「恥ずかしがらなくていいのにさ」
振り向かずに言われた言葉に呆れてしまう。
「不愉快です」
見せつけるようにやられるのは、気に障る。しかも、ここは自分の職場。部下達もこんな姿の上司を見たくはないだろう。
「ガイ、書類を持って傘をさして帰るか、私に傘を渡して濡れて帰るのと、どちらが良いですか?」
その問いには、
「じゃあ、書類を持っているジェイドを連れて帰るよ」
にっこりと笑い、答えられた。もう、苦笑しか出てこない。手首を掴まれ、本部から出た。
降っている雨。やむ様子もない。今すぐやんでくれないだろうかと見上げていた。
傘が開く音。視線を下げれば、開いた傘。
まだ掴まれたままの手首を引っ張られ、傘の中に入る。
書類が濡れないように、胸に抱えた。
「さあ、帰ろう」
肩に回る手は、叩き落とす。
「はい、帰りましょう」
濡れる訳にはいかない。自分も書類も。
ガイから傘を奪って、濡れて帰ってもらってもいいが、行くのは自分の家。
ずぶ濡れで家に入られても、困る。
ガイが歩き出しので、自分も歩き出す。
「ガイ、冷たいのですが」
傘は男二人ではやはり狭く、出ている腕が濡れていく。
「……すまない」
ガイを見れば、目をそらされた。
家に帰ったら、仕事の前にシャワーか。
「一緒に風呂、入るか」
考えを見透かされた言葉に、笑顔を向ける。
「お断りです」
ガイにはタオルでも投げつけていればいい。たが、風邪をひかれても困る。あのピオニーの相手をするのが、彼の今の仕事だ。それがなくなれば、彼が自分の邪魔をしに来るのは明白だ。
「早く、帰りましょう」
これ以上、濡れては自分もガイも冷えてしまう。
「ああ」
足を早めれば、ガイの歩く速度も早くなる。
揺れる傘から水滴が落ち、やはり冷たいと思う。
家に着き、中に入ると、タオルをガイに渡し、書類を机に置き、冷えた体をあたためようと、風呂場に向かう。
一緒に入りたがっていたが、笑って譜術で乾かそうとすれば、大人しく退散した。
この後は、仕事をしなければならない。
一緒に入って、彼が何もしない訳がないのだ。
全ては残された仕事を終えてから。