嘘を吐き毒を呷る
瓶の蓋を開けると、少し甘い匂い。
「ガイ」
椅子に座りながら、作業に黙々と取り組む後ろ姿に近づく。
「なんだ?」
机の上に散らばる道具を整理しているガイは、振り返らないまま返事をする。
「こちらを向いてください」
小瓶の液体を口に含む。
「ん?」
振り向いたガイに唇を重ね、口から口へと液体を移す。ガイが液体を飲み込んだのを確認し、唇を離す。
「愛してますよ」
いきなり液体を飲まされたからなのか、珍しい言葉を吐いたなのか、どちらも要因なのだろうが、ガイは固まっている。
「……酔ってるのか?何、飲ませた?」
「毒ですよ」
小瓶を見せながら、満面の笑みで言うと、顔を青くしながら立ち上がった。
「う、嘘だろ?」
「さあ?」
曖昧な返事をし、小瓶に残るものを飲み干す。
「これで、私も貴方と同じですよ」
空になった小瓶を机に置く。ガイは項垂れていたが、こちらを見た目は覚悟を決めたような目をしていた。
「即効性じゃないな。後、どれくらいで死ぬんだ?」
「分かりません。先のことなんて」
何だよそれ、と力なく笑ったガイは、抱きしめてくる。
「分からないなら、死ぬときまでこうしてるよ」
「寿命がくるまで、ですか?」
笑いを堪えながら言うと、気づいたようだ。抱擁を解かれる。
「毒じゃないんだな」
「ええ、香り付けした水ですから」
堪えきれず、吹き出すが、ガイは呆れているようだ。
「何でこんなこと」
「今日はエイプリルフールですから」
嘘をついても良い日。普段から嘘をついている自分にはあまり関係はないが。
「もう少しソフトなのにしろよ」
「ありきたりなんて、つまらないじゃないですか」
どういう反応をするか、それが楽しみだというのに。
「ガイの反応は面白かったです。そんなあなたが大好きですよ」
面食らっている。言われ慣れないガイの頬は少し赤い。
「なあ、それもエイプリルフールだから、言ってるのか?」
返事に笑みを返す。普段なら絶対言わない言葉だ。
「愛してます」
全部、嘘。この言葉も嘘なのだ。それなのにガイは喜んでいる。
毒だな、と思う。
耳から入って、中から甘く痺れさせて。
唇から紡ぐ見えない毒。
「俺も愛してるよ、ジェイド」
エイプリルフールでもガイは嘘をつかないらしい。
「大好きだ、死ぬときも一緒だからな」
中に入る毒。慣れているはずなのに、ほんの少しだけ冒される。
「私の方が先ですがね」
「その時は本物の毒を飲んでやるよ」
包まれる温もりと重なる唇。
もしかしたら、ガイの存在が毒なのかもしれない。
そして、自分も。
そして、こんな関係を嫌っていないのも、全て。
毒のせいで麻痺しているからだ。