愛情を伝えるすべ
「たーいさ」
ソファーに腰掛け、本を読んでいるジェイドの横にアニスは座る。
「何か用ですか、アニス」
本を読んだまま尋ねるとアニスはぴったりとくっつき、本を覗き込む。気にしないで本をめくった。
「イオン様が買い出しに行ってて暇なんですよう」
「もうすぐ帰ってきますよ」
買い出し組が行ってから時間も経っている。買い出しの量も少なかったはずだ。
「うっ……大佐、難しいもの読んでるんですねー」
彼女は本を覗きこむのをやめる。
「まあ、子供向けではありませんね」
その時、ドアが開き、買い出しに行っていたガイとイオンが入ってきた。
「ただいまです」
「お帰りなさーい、お疲れさまです」
ソファーから飛びおり、アニスはすぐさま、イオンに駆け寄り、荷物を渡してくれと言わんばかりに、手を差し出す。
「いえ、これは……」
彼は自分が持っている小さい紙袋を胸に抱き直した。
「だめですよー。イオン様は疲れてるんですから、この導師守護役に任せてください!」
引き下がらないお付きに導師は少し困ったように笑う。
「じゃあ、アニス、ガイの荷物を少し持ってくれますか? 僕より持っている量は遥かに多いので」
「むぅ、わかりました。ガイ、荷物、少し分けて」
横のガイに声をかけるが、返事がない上にアニスの方を見ない。真っ直ぐこちらを見たまま微動だにしない。手を振ってみるが反応がない。
「ガイ? ガーイー!」
聞こえていないのかと声量を上げ、こちらを見ろとアニスが彼に触れようとした瞬間、我に返り、彼女の方を見る。
「あ、ごめん、ごめん。じゃあ、これをお願いな」
片手で持っていた紙袋を彼女に渡すと少しずつ距離をとっていく。
「どうしたの? ボーッとしちゃって。もしかして大佐に見とれてたとか?」
アニスはからかうように笑う。
「まあ、そんなところかな」
ガイは笑いながら、返答する。
「気色悪い事を言ってないで、さっさと荷物を運んでくださいねー」
いつも通りの笑みを浮かべ、立ち上がり、ガイ達の横を通って部屋に戻っていくことにした。
残された三人はジェイドの物言いに慣れてはいるので、苦笑を浮かべるだけだった。
「……アニス、行こうか」
ずり落ちそうになっていた荷物をガイは持ち直し、歩き出す。
元気な返事が後ろから聞こえた。
ジェイドはベッドに座る。読書で目が疲れ、ベッドに少し横になろうかと考えていると、扉が開き、ガイが入ってきた。
「ご苦労様でした」
労いの言葉を一応かける。
しかし、返答はなく、彼はそのまま横に座る。
「どうしました?」
二人の時に何も喋らない時はガイが不機嫌な証だ。返答は返ってこなかったが、変わりにと言わんばかりに、抱きしめられた。気持ちを汲み取れと言うのだろうか。
「何かしましたか?」
今日は読書していただけなのだが。心当たりがない。
「アニスと仲良さげだったから」
不機嫌なのは要するに――。
「嫉妬、ですか?」
子供じみた理由に笑ってしまう。しかも、子供相手に嫉妬など。
「だって、俺にはジェイドしかいないのにさ」
呟かれたその言葉は弱々しい。
「大丈夫ですよ。アニスはちゃんと好きな人がいますから」
彼女が好きなのは彼女自身が守っている相手だ。玉の輿を虎視眈々と狙っているが、彼への気持ちは純粋なものだろう。
「分からないだろ」
アニスとは歳が離れて過ぎているため、そんな対象には見たことがない。あるとしたら、彼女からの一方通行の金と地位への執着心くらいだろう。
抱きしめられても、ただされるがままになっているのが返答だというのに、なぜ、それに気づかないのか。
自分にも、彼しかいない。
「……ガイ、離してください」
素直に言葉にするのはためらった。ガイがゆっくりと腕を離し、向かい合う。そのまま、唇を重ねた。
「これが答えですが、不満ですか?」
すぐに離し、彼を見た。驚いたままだったが、嬉しそうな泣いてしまいそうな表情をしながら、コクコクと頷く。
「……ジェイド」
彼の顔が近づき、目を閉じる。唇が重なり、ベッドに押し倒された。
彼の返答は情熱的だと思いながら、それを受け止めることにした。