伝えなければ伝わらない 7
ジョナサンは、覚醒し、体を動かそうとしたが、鈍い痛みにそれを中断した。
「ディオ……」
そばにいるはずの彼の名前を呼ぶ。
「なんだ?」
聞こえてきた声に目を開き、声がした方を見ると、彼はバスローブ着て隣に座っていた。
部屋の中は明かりが灯されて、明るい。日は沈んだらしい。
「起き上がらせてほしい。あちこちが痛いんだ」
「手がかかるやつだ」
彼はそう言いながらも、自分を起き上がらせてくれた。
体、いや、下半身が主に痛い。あれだけ、やっていれば当然かと思っていたが、違和感を覚える。
体に不快感がない。最中は気にならないが、体液にまみれているなら、終わった後ではその状態が気持ちいいはずがない。
「君が、綺麗にしてくれたのかい?」
体を確認しつつ聞けば、彼は頷く。
「ああ、ホテルだしな。そのままにしておくわけにもいかないからな」
「ありがとう」
どういう理由があれ、彼が綺麗にしてくれたのだ。お礼を言う。
「自分のものを大切にするのは当たり前だろう?」
その言葉に、頬が熱くなっていく。
「う……ん……」
急に恥ずかしくなり、彼を見れなくなって、うつむいてしまう。
「どうした?ジョジョ」
彼がこちらを覗き込んできたため、布団をかぶり、また寝転んだ。
「寝る……!」
目を強く閉じる。心臓の音がうるさい。
「おい、そろそろディナーの時間だぞ」
「い、いらない……!君、一人でいけばいいよ!」
「そうか。おやすみ、ジョジョ」
布の上から、ポンポンと軽く叩かれ、彼がベッドから降りていくのが分かった。
「バスローブくらい着ろよ」
何か自分の上に投げられた。彼の言葉から、バスローブだろう。
着る気にもなれない。裸だというのに暑い。このままでもいいと動かなかった。
まだ睡眠が足りなかったのか、微睡み始め、すぐに眠りに落ちた。
ディオがディナーから戻ると、ジョナサンは起きており、バスローブを着ているところだった。
「おかえり」
湿っている髪にシャワーを浴びていたのだと分かった。
「ただいま。ほら、土産だ」
ジョナサンがディナーに来ないので、スタッフに頼み、手軽に食べれるものをと注文したのだ。
紙袋に包まれたそれを差し出すと、彼は首を傾げ、受け取るが目があうとそらされてしまった。
「これ、なに?」
「サンドイッチだそうだ」
彼は礼を言うと、机の前にある椅子に座り、包みを開けた。
野菜や卵、チーズを挟んだサンドイッチ。
部屋に置いていた水差しとグラスを机に置いてやり、上着を脱ぎ、向かいにある椅子に座る。
サンドイッチを食べようとしている彼を見ていると、ソワソワし始めた。
「そ、そんなに見ないでよ」
彼は顔を赤くし、うつむいてしまった。ディナーに行く前にも、こんな感じになっていたと思い出す。
「なぜ?」
「恥ずかしいし……」
何を今更と笑う。何度も裸になって、恥ずかしい姿を晒していたのに。見られているだけで恥ずかしいとは。
「お前は、おれのことを見ていたのになァ?」
あの日から、ジョナサンには、ずっと見られていた。穴が空くのではないかと思うほど。
しどろもどろになっている彼は久しぶりで、見ているだけで楽しい。
グラスに水を注いで、サンドイッチの横に置く。
「おれのことは気にしなくていい。腹が減ってるだろう?」
彼は顔を上げたが、目は合わせずに、サンドイッチを食べ始めた。ゆっくりと食べていたが、段々とがっついていく。
あっという間に、サンドイッチはなくなった。
満腹になったらしい彼は、水を喉を鳴らしながら飲んでいる。
「ふう……」
グラスを置いた彼を見ていると、また見ないでほしいと、顔を赤くしていた。
「慣れればいい」
立ち上がり、彼に近づき、頭を両手で掴み、顔をこちらに向けさせると彼の目が泳ぐ。
「おれを見ろ」
蒼い目がこちらを見た。この目は自分だけ見ていればいいと思う。目移りするなら、目を抉ってでも。
「ディオ……?」
彼も段々、慣れてきたのか、頬の赤みが薄くなったように思う。目もこちらをまっすぐ見ている。
「慣れたな」
頬にキスをし、手を離し、彼から離れ、ベッドに向かう。
彼は寝ていたが自分は寝ていない。腹を満たしているため、少し眠気も覚えていた。
上半身だけ脱ぎ、ベッドに横になる。
「寝るのかい?」
そうだと手を振り、布団をかぶり、目を閉じようとしたが、彼が歩いてくるのが見え、視線で追いかける。
彼はベッドに上がってくると、自分に寄り添うように横になる。
「なんだ、寝るのか?」
今さっきまで寝ていたのに。まだ眠れるのかと。
「……そばにいたいじゃあないか」
そう言って、身を寄せてくる。
彼は寂しがり屋だったなと腕を回し、頭を抱き寄せて、目を閉じる。
そばに感じる体温が、とても心地いい。ずっと感じていたいと思う。
「おやすみ、ディオ」
「おやすみ、ジョジョ」
その挨拶を最後に、ぬくもりを感じながら、睡魔に身を任せた。
翌朝。
ディオとジョナサンはホテルから出て、前で待っている馬車に乗り込もうとしていた。
「ほら」
先に乗り込んだディオが手を差し出すと、ジョナサンは笑顔でその手を掴み、馬車に乗り込んだ。
二人を乗せた馬車はゆっくりと進み始めた。
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