邂逅 5

小さな明かりを見つめながら、ジョナサンはディオを待っていた。
ぐるぐると昼にしたことが頭を回っていた。
自分でもなぜ、あんなことをしたか分からないが、しなければいけない衝動にかられたのだ。
どういう顔で彼に会えばいいか、分からない。
思い出しているだけでも、顔は熱いのに。
枕に顔を埋める。
「何をしている?」
聞こえた声に顔を上げると、窓に腰かけるディオがいた。
一層、顔が熱くなった。

部屋に入ったが、ジョナサンは気づく様子がなかったため、ディオは彼を観察していた。
ランプを見つめながら、彼はころころと表情を変えて、頭を抱えたり、かいたりと、忙しそうで。面白いとただ見ていた。
枕に顔を埋めたあたりで、そろそろ気づけと、声をかければ、ようやくこちらを見て、顔を真っ赤にさせ。
「ずっと何をしているのだ、ジョジョ」
「い、いつからいたんですか?」
「少し前にな。貴様は忙しないな」
見られていたのだと、気づいたらしく、また枕に顔を埋めた。
立ち上がり、彼へと近寄る。
足音か気配で分かったのだろう、ジョナサンは顔を上げる。
その頬に手を添え、額に口付けた。
「なっ……!」
静かにしろと、唇に人差し指を押しあてる。
開けていた口を閉じたが、額に手をあて、うつむく。耳まで真っ赤だ。何を恥ずかしがるのだ。ジョナサンが自分にしたことだろうに。
ベッドに腰かける。
部屋を眺める。あの時と変わらない部屋だ。本棚にまだ隙間があるが、置いてある本の量は膨大だ。
「読書をよくするのか?」
「は、はい、色々なことがのってますから……」
うつむいたまま答える彼の顎をに手を添え、こちらを見るよう顔を仰がせた。
「人と話す時は相手の目を見ろと、言われなかったか?」
目に楽しそうに笑う自分の顔が写っているのが見えた。

返事は、か細くしか出なかった。
間近にある顔に動揺してしまって。鼻が触れるか触れないか。それぐらいしか間はあいていなかった。
手が顔から離れていき、顔を背けた。
胸に手をあてると鼓動が早い。酷く暑い気もする。
自分を落ち着かせようとしていると、頭に手がまわり、音を立ててこめかみに口づけされた。
笑い声が聞こえる。
ますます、顔が見れない。

ジョナサンをからかって遊んでいたが、顔を真っ赤にして怒ってきたので、やめることにした。
あの時の二の舞など、ごめんだ。
その後は、色々な話をしていたが、ジョナサンは限界がきたのか、自分の脚を枕代わりに寝ている。
触れているところから伝わる熱さ。
このまま枕になっていてもいいが、陽が出てくる前に帰らなくては。
別れの挨拶の代わりに、頭を撫でていると、ランプの光が消え、暗闇に包まれる。
「……?」
手にあたるはずのジョナサンの頭はなく、あの熱さもない。
暗闇でも見えるはずだが、部屋が見えない。
背中に何かがあたる。
「こうやって、話せたらよかったのにね」
その声を聞いた時に、様々なものが胸をかきまぜた。
懐かしく、愛しく、憎く、恐ろしくもある、その存在。
「ディオ」
のしかかる重さに、振り向くことはできなかった。見てしまえば、彼は消える。そんな確信があった。
彼がいるのは、夢だからだろう。もしかしたら、彼の魂がこの体には残っているのかもしれない。
「ぼくとは話したくないかい?小さなぼくとは話してくれたのに」
何を話せというのだろう。元気だったかと問えばいいのだろうか。死んだ人間に。体を奪った者に。
口を開けば、違う何かも溢れていきそうだ。
「ジョジョ……」
名前を呼ぶだけで、精一杯だった。
「君と友情を築けていれば、君は変わったかな?」
あの時は、表面上だけだった。彼も自分も。
「さあ、な……」
一緒に歩むなど、あの時は考えもしなかったが。
ジョースター卿は、若い自分より先に死んだはずだ。
養子だが、彼の息子だった。莫大な遺産は、分けても充分な金額が入ってくる。
それで、よかったのではないかと今では。
「今でもこうだから、無理かもしれないね」
笑い声と共に、背中の重みがなくなる。
振り向けば、窓があったところに腰かけるジョナサンがいた。幼い彼ではなく、成長した姿で。自分が体を奪った時の彼が。
「ねえ、ディオ」
笑うジョナサン。
「ぼくの体で歩む人生は楽しいかい?」
ゆっくり彼が後ろへと落ちていく。
身をひるがえし、彼のもとへとかける。
また、失うのか。
奪えば、全てを手に入れられると思っていたが、自分が手に入れたのは、望むものとは違うもので。
伸ばした手が彼の体に触れることはなく、すり抜けていく。
そのまま、ジョナサンをすり抜け、自分が落ちていった。
見上げた彼は、哀れむような表情で何かを言っていたが、それは聞こえずに、闇に溺れていった。

起き上がり、周りを見れば、自分のベッドだった。
長い夢から、ようやく目を覚ましたらしい。
「ジョジョ……」
彼の痣に触れる。
「貴様が、みせたのか……?」
問いには、この体は何も答えてはくれない。
少しだけ、夢の中の熱さが恋しいと思った。
もう、この体に温もりはないのだ。


4へ





後書き
色気でジョナサンを誘惑するディオ様を書きたかっただけ
男とは思えない色気があると知って
よし、誘惑してしまえと
小説では良心をのぞかせたディオ様
ジョナサンが羨ましくてしょうがない感じでしたね
一緒に歩めば、よかったのに


2013/05/18


BacK