日常風景

町の見回りをしていたヘンドリクセンとドレファスは、少し遠くに見た竜巻に歩みを止めた。
人が巻き込まれていたように見えた。
町の中で竜巻が急に起こることはない。それは、誰かが発生させたことを意味していた。
そんなことをできるのは、知りうる中でただ一人しかいないのだが。
「ハウザー……!」
犯人であろう聖騎士見習いの名前を口にすると、ドレファスは大股でそちらに向かっていく。
これは大きい雷が落ちそうだと青い空を見上げて、ヘンドリクセンは彼を追いかけた。

酒場の前は嵐が過ぎ去った後のように物が散乱していた。
「やりすぎだ、ハウザー!」
道の真ん中に仁王立ちしている少年に近づいていくのは、同じ歳くらいの紅茶色の髪の少年。
「ど、どうしよう……」
オロオロしている黒髪の少年の前に男が落ちてきて、彼は叫び声をあげた。
「だって、そいつ、これを持ち出してきたんだぜ? 分が悪いだろうが」
落ちているナイフを拾い、ハウザーはギルサンダーに反論する。
「そうだけど、魔力はもう少し抑えて使うべきだ。周りが滅茶苦茶じゃないか」
彼が手で指し示す。散乱している椅子や看板、花をつけていたはずの鉢は割れて粉々になっている。一緒に巻き上げた洗濯物も地に落ちている。
他の人たちが竜巻に巻き込まれなかったり、怪我がないのは不幸中の幸いだが。
「そ、それはしかたねえだろ!」
「ハウザー!!」
後ろから名前を呼ばれ、ハウザーは体を跳ねさせた。逃げなければと彼は駆け出そうとしたが、襟首を掴まれた。
「父さん……!」
グリアモールは怯えた顔でその人物を見上げていた。
ドレファスはハウザーの頭へと鉄拳を降らせた。
「いってえ!」
「お前は、また……! グリアモール、ギルサンダー、俺の前に並べ!!」
二人はおずおずとドレファスの前へと並び、その横に襟首を離されたハウザーも並んだ。

ヘンドリクセンが到着したときには、ドレファスの前に並んだ三人は、拳骨を頭に食らって、うつむきながら、説教されていた。
「怪我がなかったからいいものを……! 大事故に繋がっていたかもしれないんだぞ!」
「だって、あいつ、ナイフを」
「言い訳無用!!」
ハウザーの頭に鉄拳が降り、彼は涙目でドレファスを見上げている。
「まあ、そこくらいでいいんじゃないか。ドレファス。罰は……そうだな、ここの片付けと落ちている洗濯物を返却で」
三人の前に出るとドレファスは口を閉じた。すぐに三人が背後に隠れたのが気配で分かった。
「お店の人を助けようとしたんだろう?」
彼らを見ると、三人は頷いた。
なぜ、ハウザーが魔力を使うことになったかを周りの人たちから聞いていた。
酒代を踏み倒そうとし、店先で暴れている客を三人が押さえ込もうとし、刃物をちらつかせたため、ハウザーが魔力を使ったのだ。
「俺も片付けるのを手伝うし、一緒に謝るからさ」
「いつもそうやってお前が甘やかすから……」
ドレファスは言葉を切り、いきなり走りだした。
「ハウザー!」
いつの間にか、逃げようとしていたハウザーは捕まえられ、何回目か分からない拳骨を食らっていた。

店の店長にも迷惑な客を追い払ってくれたと感謝され、三人はそれ以上は怒られなかったが、周りの人たちへの謝罪と後片づけと落ちている洗濯物の持ち主を探すことになった。
三人を連れ、ドレファスとヘンドリクセンは頭を下げて回ったが、今回が初めてではないので、周りの人たちは聖騎士見習いの尻拭いは大変だと同情されていた。
店に戻ると、倒れていた男はおらず、兵に連れていかれたという。店に難癖をつけ、飲食代を踏み倒していた常習犯だったと。
悪人をやっつけたことにハウザーは得意気にしていたが、そんなことで後始末がちゃらになることはなく、店から借りた箒を持たされていた。グリアモールも箒を持たされ、店の前を掃除することになった。
ドレファスが壊れた物の弁償を近隣住人たちと話している間、ヘンドリクセンとギルサンダーで落ちている洗濯物を届けることにした。
「すみません……」
「気にしなくていいさ」
申し訳なさそうにするギルサンダー。もう尻拭いは慣れてしまったし、手伝うと言ったのは自分だ。
彼の頭をなで、一緒に抱えた洗濯物を届けにいった。

洗濯物を届けるのはすぐに終わった。洗濯物の持ち主が取りに来たり、これはどこの家のものだとか教えてもらったからだ。
迷惑をかけたことをヘンドリクセンとギルサンダーは謝りつつ、洗濯物を全て返した。
店の前に戻ると、掃除は終わったらしく、散乱していたものが片付けられていた。
「お、お前も終わったか、ギルサンダー」
「疲れた……」
店から出てきたハウザーとグリアモールはこちらに歩いてくる。
それに続いて、少々、疲れたような顔をしたドレファスが出てきた。
彼はハウザーと呼ぶ。呼ばれた彼は、なんですかと顔をひきつらせていた。
「お前に今から魔力のコントロール方法を教え込む」
「それ、昨日の訓練で飽きるほど……」
彼の言葉は無視され、ドレファスに腕を掴まれ、半ば引きずる形で連れていかれる。
残された二人は顔を見合わせて、自分を見上げてきた。
「見に行くかい?」
そう尋ねれば、二人とも頷いたので、一緒に行くことにした。

「頑張れ、ハウザー!」
「父さんから直接、教わるんだから、真剣にな!」
「お前ら、うるさいぞ!」
「集中しろ!」
「ほどほどにしてやれ、ドレファス」
野次などが飛び交う中、ドレファスとハウザーの魔力コントロール訓練は続くのであった。





後書き
大好きな組み合わせです
わんぱく三人組のエピソードってもっとないんでしょうか!!
ザラトラス聖騎士長に怒られている三人も見たい
そのときもヘンドリクセンが庇ってくれるんでしょうね


2015/08/18


BacK