Trick or Love?
「バーナビーさん、誕生日プレゼント、何が欲しい?」
カレンダーを真剣に見つめながら、ホァンが聞いてきた。
自分もカレンダーを見る。もうすぐで自分の誕生日がやってくることに、気づいた。
「なんでも言ってよ!」
こちらを見ると、笑顔。まだ子供の彼女に、何かを買ってもらうのは、気がひける。その気持ちだけで充分なんて言えば、彼女は良しとしない。
実際、彼女から貰うものなら、何でもいいのだ。
少し考え、思いつく。
「では……あなたをください」
「分かった!……え、僕?」
思いっきり頭を振った彼女だが、すぐに首を傾げた。言い方が悪かったと反省する。いや、本音だが。
「誕生日の日、あなたの時間を僕にください」
彼女はまだ首を傾げている。また、失敗。言葉を選び、口に運んだ。
「一日、僕とずっと一緒にいてください」
「おはようございます」
「おはよう、バーナビーさん」
今日は、バーナビーの誕生日。
ホァンは、誕生日プレゼントに、彼に自分の時間をあげる約束をした。つまり、一緒にいることらしい。
前日に、朝に迎えに行くと、連絡があり、外に出れば、バーナビーが待っていた。
「はい、差し上げます」
バーナビーはリボンでラッピングされた袋を渡してきた。
「え、今日はバーナビーさんの誕生日だよ?」
自分はあげる方で、貰う方ではない。ましてや、誕生日でもない。
「ハロウィンですから。あげないと、いたずらされてしまします」
今日はハロウィンでもある。子供がお決まりの言葉を唱え、大人にお菓子を貰うのだ。
「いたずらしないよ。でも、ありがとう!」
ありがたく受け取る。
「僕はいたずら、されてもいいですけど」
言葉の意味が分からずにいると、手を差し出される。
「さあ、行きましょう」
「うん!」
大きな手に手を重ねる。
手を繋いで、ジャスティスタワーへと向かった。
「なんで、そんなにくっついてるの?」
目の前で、仁王立ちしたカリーナが、聞いてくる。
横にいるホァンと手を繋ぎながらも長椅子に座り、休憩をしていた。
ハロウィンイベントも終わり、私服に着替え、休憩室で休憩しているだけ。隣にいる彼女は、朝あげたお菓子を食べている。
イベント中は、彼女とは遠くに配置され、見ているしかなかった。その時の寂しさを埋めるためにこうしているのだ。
「バーナビーさんといることがプレゼントなんだ!」
答えない自分の代わりにホァンが答える。
「あんた、ドラゴンキッドに何、要求したのよ」
怪訝な表情をする彼女。
「何って、彼女自身ですけど」
そう言えば、何を想像したのか、顔を真っ赤にする。
「馬鹿じゃないの!?」
「ただそばにいてほしいと言っただけです。で、何か用ですか?」
こんな口喧嘩をするために、自分を探していた訳ではないだろう。彼女が持っている袋で、用件は分かっていたが。
ため息をついた彼女は、袋を差し出す。
「これ、皆から。相棒とドラゴンキッドは、含まれてないからね」
それを受け取る。代表として来たのだろう。
「わざわざ、ありがとうございます」
「お誕生日、おめでとう。邪魔したわね」
休憩室から出ていこうとしたカリーナは、足を止め、こちらを見ると、ドラゴンキッドと隣の彼女を呼んだ。
「何?」
「バーナビーが変なことしてきたら、連絡するのよ」
そう言い残して、休憩室を出ていった。
人聞きの悪い。まだ子供の彼女にそんな不純な気持ちは、抱いていない。
「変なこと……?バーナビーさん、それって何?」
それを、自分に聞いてしまうのかと、笑ってしまった。
「ホァンさんの嫌がることですよ」
彼女にも、分かりやすいよう簡単に答える。
「それなら大丈夫だね!バーナビーさんは、そんなことしないもん」
そう言いつつ、肩に頭を寄りかからせる。
そう、そんなことはしない。彼女がもう少し成長してきたら、それは保証できなくなるかもしれないが。
「ごちそうさま!」
「じゃあ、行きましょうか」
「うん!」
机の上を綺麗にし、ホァンを連れ、プレゼントを抱え、休憩室を出た。
色々な理由を付け、今日はハロウィンイベント以外に仕事はいれていない。
会社に送られているプレゼントは、明日、取りにいけばいい。
目的のものを買いに、ジャスティスタワーを出たが。
「誰か、捕まえて!」
いきなり、聞こえてきた助けを呼ぶ声に走り出す。
声の方に行けば、刃物を振り回しながら、走る男性がいた。皆、怯えて男から遠ざかる。
小脇に抱えるのは、女性物の鞄。
どうやら、道路に止まっているバイクを目指しているようだ。
「逃がさないよ!」
ホァンが先に飛び出し、男性の前へと立ちふさがる。
「邪魔だっ!ガキ!」
走りながらも、ホァンに刃物を振りかざすひったくり犯に、蹴りを喰らわせた。
道に転がる犯人。鞄も刃物も地に落ちる。刃物を回収し、犯人の目の前に立つ。
「彼女が怪我をしたらどうするんだ」
犯人は、恨めしそうにこちらを見上げる。
そばにいたホァンにプレゼントを預け、取りあえず、抵抗できぬように犯人を取り押さえようと、近づけば、こちらに向かって何か投げてきた。
能力を発動し、それを避けた。
視界から消えていったのはナイフ。
往生際の悪い。犯人を動けなくすれば、何もできなくなり、離せと喚くばかり。
パトカーのサイレンの音が聞こえる。誰かが通報したのだろう。
警察を待っている間、鞄はホァンが女性に渡していた。彼女は肩で息をしながら、お礼を言ってきた。
ヒーローですからと、笑顔で返す。
犯人と刃物を警察に引き渡し、状況を説明し、後は警察に任せることにし、能力が切れる前に、野次馬からホァンを抱えて、文字通り飛んで、脱出した。
邪魔が入ってしまったが、今は、ケーキを買いに行こうとしていたのだ。
ケーキ屋に着き、中に入れば、ホァンは目を輝かせて、色とりどりのケーキを見つめていた。
「バーナビーさんは、何がいい?」
その様子を微笑ましく見守る。
「なんでも。選んでください」
そう答えれば、彼女はこちらを向く。
「バーナビーさんの誕生日ケーキだよ?」
「ホァンさんが選んでくれたら、なんでもいいですよ」
好き嫌いはないし、どちらかと言うとケーキを食べたいのは、彼女だろうし。
「じゃあ、大きいのする?」
指すのは、ホールケーキ。
「二人ですから、食べきれません。ディナーも用意してますよ。小さいのを買いましょう」
「そっかあ……どうしよう」
ショーケースに並ぶケーキを前に、彼女は悩み始める。
「これ……あ、これもいいなあ……うーん」
この年頃の女の子なら、可愛い洋服やアクセサリーに興味を持つと思うのだが、彼女は食べ物には強い興味を持つが、その他にあまり興味はなさそうだ。
最近は、髪どめを集めているようだが。
「バーナビーさん」
名を呼ばれ、彼女を見る。
「これとこれ……」
次々とケーキを指差す。
「どれがいいと思う?」
「じゃあ、全部で」
店員にそう告げれば、ケーキを取っていってくれる。
南瓜を使った鮮やかなオレンジのケーキには、白い小さなおばけのクッキーが乗っている。
大きな栗が乗っているモンブラン。
生クリームがふんだんに使われた、イチゴのショートケーキ。
丸い形をしたチョコレートケーキ。小さい白いリボンが乗っている。
彼女が選んだケーキだ。全てがおいしそうだ。
「いいの?」
「ええ、僕も食べますし」
「ありがとう!」
ケーキが入った箱を彼女に持たせるべく、誕生日プレゼントを引き取る。店員から、ケーキを受け取ると、ホァンは大事そうにそれを抱える。まるで、それは市長の息子を預かった時のように。
店員の声を聞きながら、店を出る。
「じゃあ、バーナビーさんの家に……」
「その前に、一度、ホァンさんのところに帰りましょう。荷物は置いてあるんですよね?」
「え?」
彼女は、首を傾げた。
荷物を持っていないから、もしやと思ったが。ちゃんと伝えていないこちらが悪いのだから、しょうがない。
「今日、一日ですから……僕の家に泊まってくれるんですよね?」
「え、そうなの!夜には帰ると思ってた」
その言葉に、悲しい表情を浮かべれば、ホァンは謝ってくる。
自分は最初から、そのつもりだったのだけれど。
「ナターシャに話して、荷物取りに行くから!」
まずは、彼女が所属する会社へと向かうことになった。
「ナターシャさん!」
扉を開ければ、デスクに座り、名を呼ばれたナターシャは見ていた書類から目を離し、こちらを見る。
「あら、ドラゴンキッド……とバーナビー?」
こちらを見て、驚いた表情を浮かべる。
頭を下げると、ナターシャは立ち上がり、頭を下げた。
「あのね、僕、バーナビーさんのところに一日、泊まりたいんだけど、いい?」
「え……!そんな」
「責任もって預かりますから。お願いします、ナターシャさん」
ナターシャはその言葉に、口を閉じ、何かを考え始めた。
「だめ……?」
怯えるような表情で、ホァンはナターシャを見上げる。
「……分かったわ。迷惑かけちゃダメよ」
「やったあ!ありがとう!」
余程、嬉しかったのだろうか、ホァンは飛び上がり、目の前の彼女に抱きついた。
「ありがとうございます」
「いえ、それはこちらの言葉です。ドラゴンキッド……いえ、ホァンをよろしくおねがいしますね」
そう言うと、少し困ったような顔で笑い、抱きつくホァンの頭を撫でた。
一旦、ケーキとプレゼントを自置き、車を取りに行くため、自分の家へと戻る。
その間、ホァンは用意するため、マンションへと向かっていった。
エントランスで自分宛てのプレゼントを受け取り、家に着いてから、ケーキをキッチンに置いて、プレゼント達は寝室へと置いた。
さっさと自分の家を出て、車に乗り込み、ホァンがいるマンションを目指す。そんなに時間はかからない。
目的地に着き、車からマンションの前を確認したが、彼女はまだいなかった。着いたことだけは、連絡しておこうと携帯を取り出そうとした時、リュックを背負った彼女が、マンションから出てきた。
クラクションを鳴らせば、彼女は走ってこちらにやってくる。
「時間かかっちゃった……待った?」
扉を開け、助手席へと乗り込む。背負っていたリュックを抱える。
「いいえ、丁度、着いたところでした」
そう言えば、よかったと笑顔になる。
「さあ、おいしいディナーが待ってますよ」
「うん!ケーキもね!」
車を発進させた。
家に着けば、晩御飯を食べてもいい時間だった。
ホァンに、もう食べるかと聞けば、食べると即答された。
もう準備はできている。後は、少し加えたり、あたためたりするだけだ。
自分の寝室に荷物を置くよう言い、キッチンへと向かった。
キッチンに置いていたケーキは冷蔵庫に入れ、鍋などに火をつけ、冷蔵庫から、今から食べるものを取り出していく。
「バーナビーさん、何か手伝うことない?」
荷物を置いたホァンがキッチンへとやってきた。
置いてある食事を見て、感嘆のような声をあげる。
「これ、バーナビーさんが作ったの?」
「はい」
「すっごーい!お店で食べるやつみたい!」
一人暮らしが長かったため、料理はできる。料理はできて困ることがない。レパートリーは豊富だが、相棒が作る炒飯は未だに上手く作れないが。
できた料理を彼女に運んでもらうことにした。
ディナーを食べ終わり、彼女は満足そうだった。口にあってよかったと思う。自分がおいしいと感じるように作っただけで、必ずしも彼女がおいしいと感じる保証など、どこにもなかったからだ。
しかし、デザートのケーキは忘れていなく、皿に盛ったケーキを机に置けば、彼女は目を輝かせる。こちらが大本命だろう。
ホァンの横の椅子へと腰かける。
「バーナビーさん、どれ食べる?」
「じゃあ、一口ずつ」
笑顔で、ホァンにフォークを渡す。
「食べさせてください」
「分かった!」
フォークを受け取り、ケーキを一口分を取ると、口の前まで持ってきてくれる。
「あーん」
純粋な行為に少し申し訳なく思いつつ、ケーキを食べる。
「おいしい?」
「おいしいですよ」
ほどよい甘味。
彼女は食べ終わるのを確認すると、次のケーキにフォークを突き刺す。
後、三回でこの行為が終わることに寂しさを覚えた。
一口ずつケーキ貰い、残りは全て彼女にあげることにした。
ホァンは、自分も食べた方がいいと主張してきたが、満腹で食べれないと言い、残すのはもったいないと、説き伏せた。
横でケーキを幸せそうに食べる彼女。それだけで、こちらは幸せで満腹だ。笑顔を見れているだけでいい。
あまり、本心から笑ったことがなかった。けれども、彼女といると、自分もつられて笑う。彼女がいれば、自分も幸せだということは、最近、自覚をしたのだ。
二つのケーキを平らげたホァンは三つ目に取りかかった。
「ホァンさん」
彼女はこちらを見る。口の回りにチョコレートが付いているのに、気づいていない。
顎に指を添え、もう一方の指でそれを拭う。
「付いてた?」
「はい」
指を舐めながら、返事をする。
しかし、次に食べようとしているのは、生クリームたっぷりのショートケーキ。また、やることになるのだろう。
ケーキも食べ終え、次はお風呂に。
「先にどうぞ」
食器を食器洗い機に入れつつ、そう言えば。
「え、一緒に入らないの?」
ホァンを見れば、曇りない目が、まっすぐ、こちらを見ていた。
いや、彼女と歳が離れているとはいえ、男と女な訳で。
しかし、彼女の申し出をわざわざ、断る理由もない。
「いいんですか?」
彼女に確認を取る。
「いいよ。だって、今日はずっと一緒なんでしょ?」
じゃあ、お風呂もでしょと、続いた。
気にしていないのか、それだけ信用されているのか、分からないが、彼女は一緒に入る気だ。
「一緒に入りましょう。ちょっと待ってくださいね」
片付けを早く終わらせなければ。
髪を洗いあったり、背中を流しあったりで、長風呂になってしまった。
風呂から上がり、服を着ていると、ホァンが声をあげた。
「む、向こうで着替えてくる!」
着替えを持って、バスタオル一枚で、脱衣所から出ていってしまった。
どちらも、隠すところは隠していたのだが、今ごろになって、恥ずかしくなったのだろうか。
寝る時は、下は下着だけだが、人がいるので、ズボンをはく。
髪を乾かしていないと、ドライヤーを手に脱衣場を出た。
リビングに行っても彼女がいなかったため、寝室に向かい、入ろうとすれば、中から彼女の声で入るなと言われた。
「どうしたんですか?」
「……見ても笑わないでね?」
何をと聞いても、彼女は答えてくれず。
「笑いませんよ」
「絶対?」
「はい」
静かになったので、寝室に入れば、項垂れつつ立っているホァン。
その服装は、フリルが付いた可愛らしいもので。
それを見て、彼女が気にしていたものが、分かった。
「お似合いですよ」
そう言うと、彼女は顔をあげる。
「ほんと?おかしくない?」
「ええ、素敵です」
可愛らしく、似合っている。可愛いは言わない。あまり、彼女はその表現を快くは思っていないからだ。
「そ、そうかな……」
照れたように笑う。
母親から送られたものらしく、誰にも見られないからと、寝る時には着ていたらしい。
彼女が持っているバスタオルを回収し、代わりにドライヤーを渡す。髪を拭くためのタオルを持ってきていないのを、今、気づいた。
温風が髪を揺らす。
「ブルーローズ達から、何もらったの?」
「まだ見てません」
置いてあるプレゼント。そういえば、開けていない。感触は柔らかく、軽いものだが。
「終わりましたよ」
ドライヤーをのスイッチを消し、乾いた髪を指ですく。
「ありがとう!じゃあ、バーナビーさんの番だよ!」
背中を向けていた彼女が、こちらを向く。ドライヤーがを手渡す。
「お願いします」
ホァンに背中を向ければ、頭に手が触れた。
髪を乾かし終わり、ヒーロー達からのプレゼントを開けることに。
ラッピングされた袋を開ければ、中から出てきたのは、白いロングマフラー。
「うさぎだあ!」
マフラーの先には、兎の耳と尻尾らしきものがある。
成人男性には、贈るにはふさわしくないように感じる。
また、ブルーローズとファイヤーエンブレムが選んだのだろうか。
しかし、素材は良いものらしく、手触りや質感は申し分ない。
尻尾や耳は、隠せばなんとかなりそうだ。使うかどうかは分からないが。また、マフラーを袋へと戻した。
「バーナビーさん、たくさんのプレゼントもらうんだね」
寝室には、様々な人から送られたプレゼントがある。会社に行けば、まだあるはずだ。
しかし、やはり彼女からのプレゼントが、自分にとって一番だ。
他の誰かと過ごす特別な日が。
「あ!」
何かに気がついたように、彼女が声をあげる。
「僕、まだ言ってないや」
ホァンが手を握ってくる。
「お誕生、おめでとう!バーナビーさん」
「ありがとう、ございます」
彼女から、言われていなかったことに気づく。
様々な人に言われ、もう言われたものだと思っていた。
「ふあ……」
ホァンが大きなあくび。
時間は子供がもう寝る時間で。
「そろそろ、寝ましょうか」
「うん」
頷くと、彼女は座っているベッドに寝転ぶ。大きなダブルベッドは二人でも充分、広い。
シーツを体にかぶりつつ、彼女の横へと、寝転んだ。
彼女ともっと密着できるよう、腕枕をしたいと言うと、頭を浮かせてくれた。腕に頭の重みと、胸に寄り添う体。
「誰かと一緒に寝るなんて、久しぶり」
「僕もです」
誰かの体温を感じながら、眠るなど久しく。一人に慣れてしまっていたから、それが当たり前で。
「あたたかいですね」
「バーナビーさんも、あたたかいよ」
胸に頬をくっつけながら、ホァンは笑う。そのしぐさが可愛らしく、微笑む。
「ねえ、バーナビーさん」
「なんですか?」
「バーナビーさんが喜ぶなら、誕生日じゃなくても、僕をあげるからね」
その言葉に固まる。
告白にも等しいものを、どう受け止めればいいのだろうか。
「いつでもいいから」
子供の純粋な言葉だ。
でも、期待してしまう自分がいる。
望めば、彼女の時間が手に入れてしまうということ。
これから先、ずっと一緒にいてくれと言えば、まっすぐな彼女のことだ。一言で了承してくれることだろう。
「ホァンさん、あの」
彼女を見れば、目を閉じ、寝息をたてていた。
言いそびれてしまった。
彼女が成長し、どれだけのことを言ったか自覚し、このことを覚えているなら、その時に言おう。覚えていなくても、こちらから告白するまでだ。
「離しませんからね」
その時までは、彼女が離れてしまわないよう、自分がつかまえて、繋ぎ止めるまで。
ほんのり赤く色づいている頬に、唇を落とし、もう片方の腕を彼女の腰に回し、目を閉じる。
「ちょっと、あんたたち、これ何!?」
バーナビーと共に、トレーニング室に行けば、ファイヤーエンブレムに目の前の突き出された記事。
「バーナビー、通り魔を捕まえる……」
見出しの記事を読み上げるが、違うと写真を指される。
「これ!」
その写真はバーナビーが自分を抱き抱えて、飛ぶ姿だった。バーナビーはしっかりと写っているが、自分は後ろ姿しか写っていない。
「撮られてたんですね」
ファイヤーエンブレムから記事を受け取り、本文を読んでいく。
「バーナビーと共にいる謎の美少女……?僕、美少女じゃないんだけど……」
少女ではあるが、美がつくほどどはない。
記事を読めば、様々な推測が飛び交っているようだ。
「なんで、あんたたち、そんなに呑気なのよ……」
ファイヤーエンブレムの隣に、呆れたように、ため息をつくブルーローズがいた。
こんなものは一時的だろう。また新たなネタを見つければ、流されていくはずだ。
「撮られても困らないですし」
公になれば、それはそれでいい。
その言葉に反応したのは、前の二人。
ホァンを後ろから抱きしめれば、不思議そうに見上げられる。
「いつだって、あなたをくれるんですよね?」
昨夜、言われた言葉を確認する。
「うん、いいよ」
どうやら、ちゃんと覚えているらしい。
「ドラゴンキッド、ハンサムに何言ったのよ?」
「いつでも、僕をあげるって言ったんだ」
その言葉に面食らう二人。
「あら、大胆発言」
嬉しそうなファイヤーエンブレムと対称的に、ブルーローズからは冷ややかな視線が。
「……ロリコン」
呟かれた言葉に、余裕の笑みを返す。
「あなたに言われたくないですね。オジサンが好きな人は誰でしたっけ?」
自分たちより、歳が離れているのに。
「それは……!」
「お、いた!バニー!」
聞こえてきた声に、彼女が顔を真っ赤にして、固まる。
振り向けば、話題にしていた人物。
こちらにまっすぐ向かってくるので、彼女を離す。
「まあ……一日遅れだが、バニー、誕生日おめでとさん!」
そう言われ、渡されたのは、シワが入り、丁寧にされていたであろうラッピングがめちゃくちゃになっている袋。
「……あ」
しまったという顔をしている。
「な、何よこれ!綺麗だったでしょ!あんた、何したの!?」
ブルーローズが噛みつくと、彼は慌てて説明を始めた。
「あ、あのさ……」
ここに来る途中で、車にひかれそうになっていた人を助けたらしいが、その時の衝撃でこうなったらしいと。急いで来たため、あまり確認もせずに持ってきたらしい。
中身を一応、確認するが、粉々になっているクッキーらしきものや、つぶれているマドレーヌらしきもの。
「やっぱ、いらねえよな」
持っているプレゼントを回収されそうになったので、それを避ける。
「いえ、貰います。ありがとうございます、虎徹さん」
「いいのか?」
「はい。わざわざ、ブルーローズさんと選んでくれたんでしょう?」
彼女を見れば、視線をそらされた。彼と一緒に選んでくれたのだろう。彼女は、このプレゼントの綺麗な形を知っているのだから。
二人の気持ちをありがたく受け取ることにする。
「!」
事件発生の音に皆が反応する。
「ボンジュール、ヒーロー」
いつもの台詞から、事件のことが伝えられた。
トレーニング室を出て、それぞれスーツに着替えるために散らばる。
スーツ装着のために機械に入ると、名を呼ばれた。
「なんですか?」
「やっぱ、ポイントやるわ。誕生日プレゼント」
別にいいのだが、くれるなら貰おう。
「僕より早く捕まえれば、ですけどね」
「言ったな、やってやるからな!」
事件はワイルドタイガーとバーナビーのアポロンメディアのコンビの活躍で終わったが、ポイントはバーナビーにしか入らなかった。