さいわい

自動ドアの中に入ると、いくつかの視線がこちらに向いたのがわかる。
それに気付かないふりをして、手早く傘を畳んだ。

慌てたような心の無い歓迎の声を聞きながら“足”を進めた。棚を曲がるのに一苦労、なんてことは無い。この“足”には慣れていた。

アイスボックスから一つだけ残っていたコーラ味を取った。何故これが好きなのか教え子に聞くと、曰く「ソーダ味よりも甘いから」。
私には違いがわからないが…。

自分用にもう一つアイスを取ると、疼いていた“足”の痛みが消えたのに気付いた。ふと外を見ると、先ほどの雨が嘘のような青空が広がっている。
嘘でない証拠は未だ濡れている駐車場ぐらいだろう。



“足”をレジに向けると、腰のあたりに子供がぶつかってきた。急なことでバランスを保てず、そのまま倒れてしまう。

謝罪も元気だが周りも見ないと危ないぞ、少年。あと、私はまだおじさんと呼ばれる年じゃないから。

少年が去った後、床とは違う冷たさを感じた手を上げると、予想通り。
包装の中身が砕けたアイスがあった。倒れて手をついたところにあったのだろう。
そして逆の手に必需品が無い…と思ったら、遠くに転がっていた。手を伸ばすが残り数センチで届かない。

すると別の手が“足”を取ってくれた。感謝を口にして、受け取る。



今の私の“足”は、個人用の松葉杖。本来の“足”は切るしかなかった。
機能している“足”を持つ人には、両方必要ないだろう。

だけど、私自身が不要だとは思わない。今の私は機能していた“足”がある頃より幸せなのだから。

欠けているものがあろうとも、人は幸せになれる。



コーラ味が無いのは、あの子にどう言おうか。

砕けた甘いアイスを口に含みながら、コンビニの外で考えていた。

FIN





後書き
姉さま、有難う御座います
相互お礼の小説を貰いました
この独特の感じ大好きです
姉さま、頑張って下さいね


BacK