Trick or Me?
「トリックオアトリート!」
家に入るとその第一声で迎えられた。
その言葉に今日は、ハロウィンだということを思い出す。
「おかえり、ユーリ!」
「ただいま、キース」
家に上がろうにも、キースが前から退いてくれない。
「今日はハロウィンだよ?」
そう言う彼は、悲しそうだ。
「はい」
それがどうしたと言うのだ。しかも、そのイベントは子供が仮装し、大人に決まり文句を言い、お菓子を貰うのだ。自分も彼も、お菓子をあげる側だ。
何も言わなかったが、なぜか目の前にいる彼は、いつもの格好ではない。
「それ、なんですか?」
その言葉を待っていましたと言わんばかりに、目が輝く。
「吸血鬼だよ!かっこいいだろう?」
今日のハロウィンイベントで着ていたものを、そのまま借りてきたらしい。
マントを広げれば、そのマントはボロボロで、血糊が付いている。中のスーツも同様だ。
「退いてください。中に入れません」
彼を押し退け、中に入ろうとすれば、マントを広げて、立ち塞がる。
「トリックオアトリート」
「……はあ」
お菓子をあげなければ、退いてくれないらしい。このまま、帰ろうかと、背を向け、ドアノブに手をかけると、必死に彼が帰らないでくれと、謝って引き留めてきた。
「退いてください」
ようやく、リビングへの道が開かれる。
リビングに行くと、ジョンが出迎えてくれた。
ジョンと共にソファーへ座ると、肩を落とし、入ってくるキース。
「少しは付き合ってくれても……」
「いい大人が何をしているんですか」
わざわざ仮装までして。ハロウィンならイベントで満喫しているはずだ。
「お菓子をくれないなら、いたずらするよ!」
自分の横に座りながら、そう言うと、上着を脱ぎ、ネクタイを外している自分の服の内側に手を入れてきたので、顔色を変えずに頬をぶった。
「痛い、痛いよ!ユーリ!」
頬をさする彼。手加減はした。
「お菓子をあげても、いたずらはするでしょう?」
どうせ、彼のことだ。お菓子をあげても、おとなしく引き下がるはずがなく、最後には、ベッドに連れていかれるだろう。
「し、しない!そして、しない、よ……」
焦っている彼を見つめる。
「……たぶん」
視線をそらされ、彼は呟く。
素直でよろしいと、頭を撫でれば、腕が体に巻きつき、抱きしめられる。
嘘をつかなかったご褒美だと、したいようにさせていると、彼の顔が動き、首に近づくと、首に噛みつかれた。
「キース……!」
吸血鬼の真似事だろう。あまり痛くはないが、噛まれている。
やめさせようと、彼の体を押すが、何も変化はない。抱きしめられているため、彼から離れることもできない。
待っていると、ようやくやめたが、頬を舐められた。
「血なんて、お菓子なんて、いらないから、ユーリをくれないかい?」
返答する前に、口が塞がれた。彼の唇で。
言葉で表せないなら、行動しかない。
舌と舌が触れれば、キースが驚いたのが分かった。
唇が離れていく。
「トリックオアミー?」
からかって言えば、何度も頷かれ、寝室へと引っ張られていく。
二人でベッドに寝転べば、笑うしかなかった。
なんだかんだで自分も期待しているのだ。
ハロウィンの夜。お菓子より甘いものに溺れていく。