死ネタなので、一応、下げてます
大丈夫という方のみ、下にスクロールを
輪廻の砂時計
ベッドにふせ、か細く息をしている。辛うじて生きている状態だ。
もう残りの時間も少ないと聞いた。代われるものなら代わりたい。
今はヒーローの仕事も有給をもらっている。周りのすすめだった。最期くらいは傍にいてやれと。
彼には母親がいるが、母親はそんな状態ではないらしい。彼もそれを望まなかった。
しかし、独りは寂しいだろう。
一緒にいると言うと、仕事に戻れと怒られた。彼はこんな時まで彼らしい。自分のことより他人の心配をする。
ユーリが目を開け、こちらを見る。口がゆっくりと動き、自分の名前を呼んだ。
「なんだい?」
あまり大きな声は、もう出せない。よく聞くためにも、顔を近づけた。
「わがままを……聞いてもらえませんか……?」
消え入りそうな声。
彼の頼みならなんでも聞きたい。仕事に戻ることや犯罪でなければだが。
「せめて、朝日の中で……夜にいくのは寂しい……」
その言葉に、彼が何かを感じとっているのは、よく分かった。
「連れていってください……」
伸ばされた手を掴む。
「行こう。そして、見よう」
時計を見る。もう少し経てば、朝日が出てくる時間だ。
毛布でユーリをくるみ、抱きかかえる。酷く軽い体。最近は食べ物を体が受け付けなくなっていた。元より白い肌が一層、白くなり、消えてしまいそうな程、儚げになっている。
力強く抱きしめれば折れてしまいそうな体は、それでも力強い鼓動をしていた。
外に出ると、空が明るくなっていた。
能力を使い、空へと飛び立つ。ある程度の高さまで上がると、止まった。
見渡せば、どこまでも続く地平線。
「綺麗……ですね……」
「寒くないかい?」
風が強い。ゆっくりとだが、首が横に振られた。
「あなたの、腕の中ですから……」
寒くないようにと、風の壁を作る。少しはマシになるはずだ。
ただ黙って、陽が登ってくる方向を見つめた。
「本当は……君を失いたくない」
溢れる本音。無理な願いとは理解している。
しかし、そう思わずにはいられない。
医者にはどうにかならないかと迫ったが、どうにもならないと。
ユーリも覚悟を決めていた。もう手が付けられない状態だということは、聞いていたらしい。
あの時、自分の無力さを嘆いたが、どうにもならず。ずっと仕事をかじりつくようにやっていた。しかし、失敗続きで。仲間の心配さえもはね除けて。
自暴自棄になっていたところ、皆に説き伏せられ、ここにいる。
「……今回ばかりは、諦めてください、ね」
どれだけ神に祈ろうが、ユーリの砂時計は返らない。
諦めきれないが、受け入れるしかない。彼が受け入れるように。
太陽が上がってきて、眩しさに目を細める。
彼の銀色の髪が輝く。
「キース、聞いてください」
頬に伸ばされる手。顔を引き寄せられ、唇を重ねられた。
唇を離すと、微笑む。
「あなたと、いたことは幸せ……でした」
言いたい言葉があったが、彼が言葉を紡ぐことを邪魔はしたくなかった。
「こんな私でも……人を愛せるということを、教えてくれた」
抱きしめれば、頭を撫でられる。
「ありがとう……本当にありがとう」
手が頭から滑り落ちた。
「愛して……」
言葉が途切れ、彼を見た。
「ユーリ?」
目を閉じ、微笑んでいる。
「ユーリ……?」
あたかも寝ているような表情で。
「ユーリ!」
まだ、こんなにもあたたかいではないか。
しかし、名を呼べど返事はなく、触れていたところから伝わっていた鼓動も聞こえない。
理解しようとしたが、頭がそれを拒否をした。
ユーリ・ペトロフが亡くなったと、ヒーロー達に伝えられ、二人がいる場所に皆が集まった。
「スカイハイ……」
「みんな、来てくれたのかい」
そう言って微笑む姿が痛々しい。
彼は、まだ、恋人の亡骸を腕に抱いたままだ。
「寝ているようでね……まだ生きているんじゃないかって」
「でも、スカイハイ、管理官だって、そろそろ横になりたいんじゃないかしら」
ネイサンに説かれ、キースはようやくユーリをベッドに横にした。
キースの頬に涙が伝う。
嗚咽を堪えきれず、崩れ落ちる。
向こうでは笑っていてほしい。
苦しむばかりの君を救えたかは分からないけれど。
せめて、安らかに。
君は生きていた。
そして愛した。
それだけは忘れない。