落ちた先に
いきなり何かが降ってきた。
衝撃と上がった砂煙に瞑った目を開けると、そこには横たわる、キングオブヒーロー。
マスクが外れ、顔が露になっている。
「スカイハイ!」
名を呼び、傍まで寄るが、目を覚まさない。体を叩いたが、何も反応はなく。
人が来る気配がした為、マスクを探したが、辺りには見当たらない。上着を脱ぎ、顔を隠した。
ヒーローの素顔は明かされていない。バーナビー・ブルックス・Jr.を例外として。此処でバレてしまうと、マスコミが放っておかないだろう。彼のプライベートが脅かされることになる。
「スカイハイ、スカイハイ!」
スーツまでは隠せず、ヒーローが倒れていると、人集りが出来る。そのことは気にせず、名を呼び続けた。
なかなか起きないことに焦りを感じる。もしかしたら、頭を打っているのかもしれない。
「大丈夫かよ!」
自分の目の前に降り立つ、白と緑を基調としたスーツのヒーロー。
「ワイルドタイガー!」
心配してやってきたのだろう。
話題になっている相棒の姿は見えないが。
「え、裁判官?何してんスか?」
「スカイハイのマスクを探してください!」
驚いている場合ではない。声を張り上げて急かした。
「え、あ、はい!」
顔に上着をかかっていることを見ると、慌ててマスクを探し始めた。
「……うっ」
体が動き、微かな声。
「スカイハイ、大丈夫ですか?」
「暗い……私は天国にでも?でも、ユーリの声が……」
「しっかりしてください」
本当にどこか頭を打ったかのような台詞に、ひとまず安心する。いつもの彼だ。
「む、これでは顔が」
上着を取ろうとするので、手を掴み阻止する。
「マスクが取れてるんです」
「そういえば、そうだ」
その手を離そうとすると、逆に掴まれた。
「姿が見えないよ。私は天使にでも、助けられたのかな」
笑みを含む声に、ため息。
「……死神ですよ」
呟くように吐いた。
「おおーい、あったぞー!」
マスクを高々と掲げ、走ってくるワイルドタイガー。それを見て、手を振り払った。
彼はマスクをこちらに渡すと、野次馬の前に立つ。マスクが外れているのに気づいた人達が、覗き込もうとしているのを、自分自身を壁にして防いでくれていた。
「見ないでやってくださいよ。こいつ、恥ずかしがり屋なんで」
スカイハイをゆっくり起き上がらせると、マスクを差し出す。
「早くかぶってください」
かぶったままの上着の隙間から目が合う。いきなり、もたれかかってきた為、必死に受け止める。
「だいじょ……」
腕が引っ張られ、顔が真っ正面にあった。
「私の天使」
頬に唇が押しつけられた。
「なっ……」
マスクをかぶると、立ち上がった。固まって、スカイハイを見上げることしかできなかった。
「ありがとう!そして、ありがとう!」
マスクの中は満面の笑みだろう。
颯爽と飛び去っていく。
「あの、スカイハイは敵の攻撃を?」
同じように見上げるワイルドタイガーに声をかける。
「ああ、不意を突かれて、おもいっきり。応答がないから、心配して……あ、ここも危ないと思うんで、避難してくださいよ!」
周りの野次馬に避難するように呼びかけると、彼もまた飛び去った。
近くにあったビルから、破壊音と共に煙が上がった。
ここも危険だということを再確認したのか、逃げていく人々。
立ち上がり、上着を着る。
スカイハイにされたことを思い出し、頬を拭った。
公私混同するなと、言っているのに。
ため息しか出なかった。
犯人はバーナビーが捕まえ、スカイハイは人命救助でポイントを手に入れる結果になった。
「スカイハイ、犯人捕まえられてないのに嬉しそうだね」
本当は一番、捕まえる機会があったのはスカイハイだが、犯人の仲間の死角からの攻撃を喰らってしまい、その機会をバーナビーに譲る形になってしまった。
攻撃されたのに、なぜか、嬉しそうなスカイハイをドラゴンキッドは不思議がった。
「聞くのが早いわね。ねー、スカイハイ」
横にいたブルーローズが、呼ぶと、爽やかな笑みを湛えてやってきた。
「どうしたんだい?」
「なんで、そんなに嬉しそうなの?」
「怪我したのに」
軽いものだったが、スカイハイは怪我をしていた。
「ああ、空から落ちたら天使がいて、救ってくれたんだ」
二人は返答に首を傾げる。
「て、天使って……死にかけたの?」
地に叩き落とされたのは、知っている。軽傷というのは嘘なのかもしれない。
「大丈夫だよ。天使が地上にね、いたんだよ」
「うーん?」
意味が分からないブルーローズとドラゴンキッドは、頭をかかえた。
「すまないが、そろそろ失礼するよ」
「ええ、お疲れさま」
「お疲れさまー」
スカイハイを見送った二人は顔を見合わせ、困ったように笑った。
「よー、お疲れ」
背後から声をかけたのは、ワイルドタイガーだ。
「……お疲れさま」
ブルーローズだけが、目を泳がせた。
「お疲れ様!ねえ、タイガーさん。スカイハイが落ちた時、助けてくれた人がいるらしいんだけど、何か知ってる?」
タイガーは、心配してスカイハイの元にかけつけていた。その他は、特別、活躍はしていなかったが。
「なんかさ、裁判官がいて」
「管理官?なんでよ」
「偶然だろ。マスク取れてたあいつを必死に隠してくれてたぜ」
「じゃあ、管理官が天使?」
キッドの発言にタイガーが吹き出す。
「なんだよ、それ」
「スカイハイがね、天使に助けられたって言ってたから」
「入口、塞がないでください」
邪魔だと言わんばかりに、やってきたバーナビーがワイルドタイガーを押し退ける。
「お、バニーちゃんお疲れ!」
「バーナビーです。話をするなら違う所でしてください」
注意され、三人は横へと移動する。
「しかし、裁判官が天使ねぇ」
「何の話をしてるんですか?」
バーナビーが会話に加わる。
「スカイハイが管理官を天使って言ってたから」
「管理官を?」
「あの人、俺にとってはどちらかというと、悪魔だぜ……」
「それは、あんたが悪いんでしょ!」
歳上に説教を始める、ブルーローズ。
まあまあと、宥めようとするドラゴンキッド。
バーナビーは、それを見ながら、また始まったとため息をついた。