僕とご主人たちの日常
「おはよう、ジョン」
扉を開いて、入って来たのは、ご主人、キース・グッドマン。
ご主人はいつも朝が早い。たまに、寝坊して起こしに行くこともあるけども。
返事に一つ吠えると撫でられる。カーテンを開けると、朝日が入ってくる。天気がいいらしい。絶好の散歩日和だ。
ご主人が起きてきたということは、あの人も起きているかもしれない。
寝室に向かうと、ベッドにはもう一つの膨らみ。
「コラ、ジョン。彼は昨日、遅くまで……」
早く起きてくれないかと、ベッドに飛び乗る。この人も、ご主人と同じくらい大好きなのだ。
鼻を顔に近づけると、微かに動き、目をうっすらと開ける。
「おはよう……ジョン」
白い手が伸び、頭を撫でる。
この人の撫で方は大好きだ。ご主人は力強く、少々乱暴なのだ。ご主人には悪いが、優しく繊細な撫で方は、とても気に入っている。
「すまない、ユーリ。もっと寝ててもいいんだ」
後ろから抱きかかえられ、ベッドから下ろされる。まだまだ、撫でられたい。
「おはようございます……」
ゆっくりと起き上がる、新しいご主人、ユーリ・ペトロフ。最近できたご主人の大切な人だ。
ご主人が買い物の最中に、リードが取れ、自由に歩き回っていた時に彼を見つけた。
何故か元気がなかったので、励まそうと近付いた。
邪険にもされなかったので、甘えると、撫でてくれた。
それが気持ちよかった。あまりご主人以外の人と触れることはなく、久しぶりにご主人以外に撫でてもらえた。
そこから、ユーリは家に来るようになった。
彼と遊べる時間は少しだった。ご主人には飛びかかっても大丈夫だが、彼の場合、押し倒してしまう。何回かやっていたら、ご主人に怒られてしまった。
だから、ユーリには、寄り添ったり、膝枕をしてもらう。少々、ご主人は固いのだ。
起き上がるユーリを止め、ご主人は横にさせた。
「今日は休みだろう?ゆっくりするといい」
「……お言葉に甘えます」
ベッドから起き上がらない。今日の散歩はご主人と二人っきりみたいだ。
寝室から出ると、リードが首に繋がれた。
「ユーリがいなくて寂しいが、行こう!ジョン」
頭を撫でられる。ご主人の撫で方も決して嫌いではない。
散歩から帰って来ると、ユーリは起きていた。
「ただいま、ユーリ!」
「お帰りなさい、キース、ジョン」
近づくと撫でてくれる。嬉しくて、飛び付こうとすると、怒る声と共にリードが引かれた。
「駄目だと言っているだろう」
怒られてしまった。つい嬉しいとやってしまう。
「まあまあ、朝御飯、できてますよ」
「ありがとう、ユーリ!」
自分の餌入れにも、餌が入っていた。
散歩に行ってお腹も減っている。
感謝の意に鳴くと、笑顔を向けられる。
やっぱり、大好きだ。
朝御飯を食べ終え、一息つこうとした時、耳障りな音が。
「事件かい?」
手首に巻いている物と会話している。そうしたら、ご主人は出掛けてしまうのだ。
立ち上がったご主人は、ユーリを見つめる。
「さっさと行って、早く犯人を捕まえればいいと思いますよ」
立ち上がったユーリは、いつもご主人が来ているジャケットを取り、手渡す。
「いってらっしゃいのキスが欲しい」
顔を近付けるご主人と離れるユーリ。
「……犯人を捕まえて帰ってくれば、してあげます」
その言葉に笑顔になる。
「ユーリ、ジョン、いってくるよ!そして、いってきます!」
「いってらっしゃい」
ご主人を見送った後は、ユーリと一緒だ。
ご主人がいつも座る隣は、帰るまで占領させてもらおう。
ブラッシングの最中にユーリがテレビを付ける。
「ご主人が活躍してますよ」
そう言われ、見るが、ご主人はいない。マスクをかぶった人が空を飛び、人を捕まえたところだった。
「スカイハイが犯人確保ー!空から来られては犯人も手が出せなかったようです!」
画面が切り替わり、その人が写し出される。近くで見ても、やはりご主人ではない。
「最初に駆けつけ、疾風のような逮捕劇、見事でした!」
「今日は、犯人を確保したら、ご褒美が貰えるんだ!楽しみだ!そして、楽しみだ!」
ご主人の声だ。テレビに近付き、見つめる。本当にご主人だろうか。
「え、それはどういう……」
「すまないが、そういうことで帰らせてもらうよ。ありがとう、そして、ありがとう!」
「あ、ちょっと、スカイハイ!」
飛び立ってしまった。
声はご主人なのに、姿が違う。
後ろから呼ばれ、振り返る。
「ジョン、ブラッシングの続きを」
ソファーに飛び乗ると、ブラッシングが始まる。
気持ちいい。
「レジェンドの記録を……」
突然、ブラッシングの手が止まる。
不思議に思い、ユーリを見ると、苦しそうな顔をしていた。
リモコンを手に取ると、テレビを消す。
時々、ユーリはこういう表情をする。
悲しそうな苦しそうな。
無表情が多いユーリだけれども、ご主人がいる時は、笑顔や呆れたような表情が多い。
しかし、こういう時は、顔を舐めると、驚いて笑顔になってくれる。
「……ありがとう」
そして、抱きしめられる。
早くご主人が帰って来ないものか。
一番、笑顔にさせるのはご主人なのだ。
玄関から音がし、ユーリが顔を上げた。
離され、ユーリは玄関に向かう。その後に続く。
「ただいま、そして、ただいま!」
テレビから聞こえた同じ声と共に、ご主人が帰ってきた。
「おかえりな……」
一目散にユーリに駆け寄り、抱きしめる。
「捕まえたんだ」
「知ってます。見ましたから」
「じゃあ……」
顔を近づけるご主人の口を塞ぐユーリ。
「部屋に」
頷いたご主人はユーリの手を掴むと、部屋に向かっていく。
クスクスと笑うユーリ。
彼の笑顔を見れたことに満足し、ソファーを独占する。
どうせ、部屋にこもってしまうのだ。相手もしてもらえない。
扉が閉まった音を聞きながら、目を閉じた。