ブルームーン

「今日の月はブルームーンと言うんだ。今月に入って二回目の満月で、珍しいらしいよ」
そう説明するキース。他のヒーローたちに、教えてもらったらしい。
しかし、なぜか、彼はジャケットを着る。
「そうですか」
食後の紅茶を飲みつつ、ユーリは相槌をうった。呼び出しは受けていないが、どこかに行くのだろうか。
窓からは月が見えず、視線を元に戻せば、目の前には、手を差し出しているキース。
「さあ、ユーリ、行くよ!」
「どこに?」
買い物に行く必要はなく、この後は、どこかにでかける予定などなかったはずだ。
「空に!見に行こう!」
一人でどうぞと、言う前に腕を掴まれ、立たされた。持っていた紅茶も受け皿に戻され、そのまま、ベランダへ。
「ユーリ、上着を着て」
いつの間にか、持っていた上着を渡される。
ため息をつき、上着を着ると、彼に横抱きにされ、ベランダへと出た。
「少し留守番を頼む!そして、頼むよ!ジョン」
元気よく返事をするジョンに見送られ、空へと飛び立った。

ある程度、高いところに来れば、月はよく見えた。雲が所々にあるが、月の周りにはない。
「綺麗だ、そして、綺麗だ!」
「ええ」
いつもより、大きく明るい満月。夜空に浮かぶそれは、見ていると眩しいくらいだ。
それは、どれだけ近づこうが、近づけない存在。
手の届かないものに、手を伸ばした。掴めるような気がしたのだ。
「ユーリ、月は」
「分かっています」
すぐに手は下ろした。意味がないことだ。この手には、掴めないものが多過ぎる。
手が掴まれ、彼の頬へと添えられた。
「私の月は、そばにいるけどね」
キースの顔を見れば、笑顔。
月は自分のことだろう。もう一つの顔の方の名前には、月が入っている。
「……満月の日は、犯罪が多くなるそうですよ」
「そ、それは嫌だ。ユーリといられない」
出動要請が来れば、彼は行かなければならない。市民を守るために、いつだって否応なく。
いきなり、響いた音に驚く。それは、呼び出し音ではなく、キースの携帯。取れない彼の代わりに、携帯を取り、画面に映る名前を見れば。
「ワイルドタイガー?」
「ワイルド君?何の用だろう」
通話のボタンを押し、キースの耳へと携帯を持っていく。
「もしもし、ワイルド君?」
「お前ら、イチャイチャしてんなー」
聞こえてきた言葉に、辺りを見渡す。見られている。しかし、ここには、高いビルはない。地上からは、分からないはずだが。
「小さいけど、見えてるわよ」
次に聞こえてきた声に驚く。ブルーローズだ。彼と一緒にいるのか。
「おや、ブルーローズ君といるのかい?」
「ああ、なんか月を一緒に見たいって……」
「二人の邪魔しちゃ悪いでしょっ!じゃあね!」
言い争う声と共に電話が切れた。切る直前、聞こえた彼女の焦る声。どうやら、彼女から彼を誘ったらしい。
ブルーローズの気持ちに、ワイルドタイガーは、いつ、気がつくのだろうか。最近は、二人で会っていると聞くが、仲は進展していないらしい。
先はまだまだ長そうだ。
「帰りましょう。寒くなってきました」
風に体温を奪われて、肌寒い。
しかも、彼が飛ぶ姿はあまり見られていいものではない。
ぬくもりを求め、彼に一層、密着する。
「すまない!早く帰ろう!」
大急ぎで、彼は自分の家へと戻る。

部屋に戻れば、飲みかけの紅茶は冷えきっていた。新しくいれ直そうとしたが、冷えた自分をあたためると、キースが抱きしめてきたので、動けなくなる。
離してくれと言っても、離す様子はない。
紅茶は諦めることにし、そのまま、ベッドに行くことになった。





後書き
8月31日はブルームーンだったので
月なら、ユーリ!これは、書くしかないと
満月ですが、赤くないのでルナティックはお休みです
途中で虎薔薇が入ったのは、ブルームーンのブルーで、ブルーローズを連想したから
これ、月を見て書いてました
見ていると、眩しいくらいですね!
最初は、雲に覆われて見えなかったのですが、今はくっきりと見えています
綺麗ですね


2012/10/24


BacK