私の場所

広い白い空間。聞こえてくる音色。
そこにいる存在は、こちらに気づくと、ピアノをひくのをやめる。
彼の横に並び、並ぶ鍵盤を見つめる。一つ押すと、部屋に響く音。
先生が声をかけてくる。彼の言葉は分からない。彼が自分の言っていることを理解しているか、分からない。
「何?」
見上げると、上下を見て合わない目。
彼の長い指が鍵盤を叩く。その度にピアノが鳴いた。
何かひいてくれるのだろうか。
頷けば、彼は鍵盤に指を置く。
耳に届く音色は心地良い。聞いたこともない曲は、どこか懐かしい。
彼のそばで、ただその音に耳を傾けていた。
いきなり、音がやみ、閉じていた目を開け、彼を見れば、じっと彼が見下ろしていた。
また、彼が声を発する。なんとなく、言っている意味が分かり、微笑む。
「帰らないよ」
鍵盤の上にある手に、手を重ねる。冷たくもあたたかくもない大きな手。
「そんな必要ないから」
手を離し、彼に抱きつく。
彼の大きな手が頭を撫で、背に回る。
「ずっと一緒」
返事をするよう彼の声が聞こえた。

もう帰る場所なんてないから。





後書き
たぶん、この窓付きちゃんは飛び降りた後
あの後は、ずっと夢の中にいるのだろうと、私は思っています


2013/02/14


BacK