つきまとう亡霊

「シャオヘイ」
名前を呼ばれ、シャオヘイは振り向いた。その声に聞き覚えがあったからだ。
「フーシー?」
もういないはずのフーシーがそこにいた。自分に手を伸ばしている。初めて会ったときと同じように。
「フーシー!」
その手を取ろうと、走り出すが、転んでしまう。見れば、木の根があって、そこに足をひっかけてしまったらしい。
「俺と一緒は嫌か」
フーシーは伸ばしていた手を下ろしてしまう。
「違う! 一緒にいたいよ! フーシーと一緒にいたい!」
立ち上がろうとしても、足に根が絡みついて立ち上がることができない。
「じゃあ、なぜ」
彼の姿がボロボロになっていく。
「俺の手を取らなかったんだ」
フーシーの体が貫かれる。それは鉄の塊で、血が伝い滴り、血だまりを作っていく。
「ち、違う」
必死に手を伸ばす。どうしても、手は届かない。あのときみたいに。

シャオヘイは飛び起きる。首を振って、そばにいるはずの人物を探す。
「ししょー……」
「どうした、シャオヘイ」
手が伸びてきて、自分をのぞき込むムゲンがいた。
「……フーシーが夢に出てきて」
そう言うとムゲンの顔が険しくなる。
「なんで、フーシーの……手、を……」
その顔がぼやけていく。胸にモヤモヤしたものがたまっていき、それは目からこぼれ落ちていく。
「ぼ、ぼく、間違ってたのかな……もっと、フーシーと……」
あのとき、自分が拒否しなければ―最期に自分が服の一部でも掴んでいれば、フーシーにもこの世界が思っているよりも素晴らしいものだと伝えられたのだろうか。ムゲンが色々なものを自分に見せてくれて、考えが変わったように。
背中に手が回り、抱きしめられる。
「お前は間違ってないさ」
優しい声色にもっと涙が出てくる。
「俺のこと(にんげん)を助けてくれたじゃないか」
誰も傷つけたくなかった。それはフーシーのことも。そして、ムゲンのことも。

シャオヘイが泣き疲れたのか、ムゲンの腕の中で寝息をたて始めた。寝顔を見て、安心する。
こうして、シャオヘイが真夜中に起きるのは、ときどきあることだった。あの日のことは、まだこの小さな体を支配している。
「まだ、シャオヘイにつきまとっているのか」
死んでもなお、シャオヘイを苦しませる。
「フーシー」
暗闇に見える亡霊(フーシー)が笑う。鉄の板でその幻影をかき消した。
「私が先に会っていれば……」
最初に手を差しのばしたのが自分なら。こうして、苦しむこともなかっただろうに。
「おまえの居場所はここだ、シャオヘイ」
ゆっくりと傷が癒えるように祈ることしかできない。






後書き
去年のとあるイベントで頒布していたペーパーの小話
いい映画でした
シャオヘイのトラウマになっていたら……という感じです


2021/01/03


BacK