破られない約束
それは、幼い頃の記憶。
「ジョジョー?」
エリナの所へと行くと、ジョージと遊ぶのが、エリザベスにとっていつものことだった。
父であるストレイツォはエリナと喋るだけで、自分の相手はしてくれない。
ジョージとは、かくれんぼしているのだが、広い屋敷では、隠れる場所は無数にあり、いちいち色々な所を探すのが面倒になり、名を呼ぶだけにしていた。
扉を開き、中を覗く。暗いその部屋の中にはいないと判断し、すぐに扉を閉めた。
いきなり、後ろの扉が開いた。
「そこね!」
自信満々に、そこに入ったが、探していた姿はなかった。
本棚が並び、そこには読者用の机と椅子があるのだが、そこに見知らぬ人が座っていた。
「……誰?」
「ん?」
こちらを見た顔は、どこか知っているような気がする。
「……見えるのかい?」
「見えるよ」
見上げる巨体。この大きさで見えない方がおかしい。
「ねえ、ジョジョ知らない?」
「……えーと、見てないと思う」
こっちには来ていないようだ。
どこに隠れているのだろう。
「お兄さん、誰?」
知っているような気がする。しかし、ここにはエリナとジョージしかいないはず。スピードワゴンが訪ねたり、自分たちが来ない限り。
「うーん……」
考え始めたが、困ったように笑う。
「エリナの知り合いだよ」
「エリナさんのこと、知ってるの?」
「うん」
自分はエリナのことは、一言も言っていない。
だとしたら、この人は本当にエリナの知り合いなのだ。
彼女の家にいるのだから、当たり前か。
「ぼくに会ったことは、秘密にしてね」
口の前で指を立てる。
「なんで?」
「なんでも」
おかしな人だ。でも、不思議と悪い人ではないことが分かる。
「君は、エリナの子供かな?」
「違う。エリナさんの子供はジョジョよ」
「あ、じゃあ、あの時の子かな」
無事でよかったと微笑む。
「わたしのこと、知ってるの?」
「少し、ね。女の子だったんだね」
この人は、誰だろう。
見たことがある気はするのだけれど。
「エリナは元気かい?」
「うん」
「そう、安心した」
「エリザベスー!」
ジョージの声が聞こえ、振り向けば、そこには探し人がいた。
「ジョジョ、見つけた!」
わざわざ、出てきてくれるとは。
「かくれんぼは終わりにしようぜ!母さんが昼飯、用意してくれたんだ」
そういえば、お腹も減っている。
「お兄さんも……」
前を見れば、あの人はいなかった。
「あれ?」
部屋を見渡せど、どこにもいない。
「どうしたんだよ、早く行こうぜ」
「う、うん」
ジョージに彼のことを言おうとしたが、秘密にしてくれという約束を思い出し、口を閉じた。
食事を終え、帰ることになった。
エリナとジョージを挨拶を見送られ、門をくぐる。
あの部屋を見れば、男性が窓辺立っていた。
手を振れば、笑顔で振り返してくれた。
「エリザベス?」
「はい」
名を呼ばれ、父を見上げる。
「誰に手を振っている?」
彼はいる。あの部屋に。
しかし、父には見えていないようだ。
「……見間違いみたい」
「そうか」
黙って手を引かれ、それについていく。
あの人は誰なのだろう。
また、来たときに聞けばいい。
その後、あの人を見たことはなかった。
しかし、成長したジョージを見て、その記憶が蘇った。
あの人がジョナサン・ジョースターだということも分かった。
「おーい?」
目の前には、自分を覗き込む、彼が。
「……!」
あれは幻ではなかったのだろうか。
「ご飯できたってよ……ん?おれの顔になんか付いてるかぁ?」
耳に届いた声と口調に、自分の息子なのだと理解し、彼が消える。
目の前にあるのは、よく似た顔。当たり前だ。血が繋がっているのだから。
「……いえ」
「早く行こうぜ」
「ええ」
立ち上がり、彼についていく。
昔の約束はまだ破っていない。
そして、これからも。
これは、彼と自分だけの思い出。