体温
「三成殿」
襖越しに声をかければ、返事が帰ってくる。
「失礼します」
襖を開ければ、三成が机に向かっていたが、筆は置かれ、手を握ったり、ひらいたりしていた。
襖を閉め、どうしたのかと聞けば、手がかじかんで、うまく動かないのだと言う。
外はまだ雪は降っていないが、寒いと言える。吐く息は、もう白くなっているのだから。
左近に届けてくれと頼まれた、巻物を横に置き、三成に近づく。
「幸村?」
不思議そうに見つめる三成の手を、掴む。彼の手は氷のように冷たく、白い。
その手を自分の頬へと導き、押しあてる。
「なっ……」
目を見開く三成。口を開けたまま、動かない。
「冷たいですね」
肌を刺すような冷たさは、自分の体温で、とけていき、感じるのは、彼の肌の感触だけ。
これで、手も動くだろうと、手を離すと、逆の手も伸びてきて、頬に触れる。こちらは、まだ冷たい。
離したはずの手も頬に添えられ、近づいてくるのは、三成の顔。
思わず目を閉じれば、唇に触れる感触。
目を開ければ、顔を赤らめた顔が目の前に。
「……礼だ」
そう一言、言うと机に向かい、動くようになった手で筆を持つが、すぐに置いてしまった。
「幸村」
名を呼ばれ、返事をすれば、手が差し出された。
「迷惑ではなければ……こちらも」
こちらを見ないのは、恥ずかしいからなのだろう。
返事はせずに、冷たい手に触れた。