百見は一会にしかず
「ジョナサン」
彼がいる部屋をジョルノが訪ねれば、その人はベッドに座り、もう一人の父親に膝枕をしていた。
ジョナサンはこちらに気づくと、口の前で人差し指を立てる。
なぜ、静かにしなければならないのだろうと、彼らに近づいて見れば、DIOは目を閉じていた。眠っているように。彼を見ていたが、目を開く様子はない。
「吸血鬼も眠るんですか?」
小声で問う。
「うん。この時間くらいに、いつも寝ているよ」
小声で返される。
吸血鬼も眠るとは。必要ないと思っていたが。
ジョナサンによると、このことは珍しくもないらしい。いきなり部屋を訪れ、ベッドに座らせれ、膝枕を強要されることは。
DIOは、安らかな寝顔をしていた。ジョナサンが波紋を流してしまえば、永遠に続く命がなくなるというのに。彼がそんなことをするはずがないと、信じているのだろう。
ジョナサンもジョナサンで、波紋を流すことなく、その手は、彼の頭を優しく撫でているだけだった。
「ディオに何か用?起こそうか?」
「いえ、ジョナサンに用が……ツェペリさんが探していたのですけど」
師匠の名前を出せば、彼はDIOの頭を叩く。
「ディオ!起きてよッ!」
「……な、んだ」
DIOは、うっすらと目を開けたが、すぐに目を閉じていく。
「用事ができたんだよ。君の昼寝に付き合っていられなくなったんだ」
ジョナサンは、膝から頭を退かそうとしていたが、DIOは意地でも、そこから動きたくないと、腰に腕を回し、密着する。
「もう……!あ、ジョルノがいるから、ジョルノにしてもらいなよ!」
「は?」
突然、出された自分の名前に、間抜けな声しか出てこなかった。
「ほら、ぼくを離してよ。離してくれないなら、この腕に波紋を……」
腕を掴めば、腰から腕を離し、渋々というように、ゆっくりとした動作で、彼の膝から頭をおろす。
膝枕から解放されたジョナサンは、立ち上がり、自分の名を呼び、座っていたところに座らせてきた。
「あの、ぼくはまだやるとは……」
「じゃあ、後は頼んだよ」
彼はそう言って、自分の肩を叩いて、背を向ける。
引き止めようと手を伸ばしたが、手は届かない。扉が閉まり、彼の姿が消えた。手は宙に浮いたままだ。
「!」
いきなり、膝に重さを感じ、視線を下げれば、DIOの頭がのっていた。
「ぼくの膝枕なんて、嬉しくないでしょう」
彼は、ジョナサンだから膝枕をさせていたのだ。男が男にこれをやられても嬉しくないだろう。
「というか、退いてください。男に膝枕する趣味は……」
頭を退けようとしたが、次の瞬間、手が口を塞いでいた。その手をとっさに引きはがそうとしたが、触れられない。彼のスタンドだ。
「うるさい。眠らせろ」
彼は、目を開けることもない。反抗しようにも、力では彼に劣る。
スタンドが消え、寝息をたて始めた父を見る。
太陽にあたることもない肌は、透きとおるくらいに白い。自分と同じ、金の髪。
写真とまったく変わらない彼がここにいる。
「……少しだけですからね」
金髪に触れる。その感触は本物だ。彼の肌が触れるところから、体温が奪われていく。
知り得ないことだった。
この人が、ジョナサンに執着しているのも、眠ることも、こんなにも肌が冷たいことも、写真では分からなかったこと。
時を刻む時計を見ながら、早くもう一人の父親が帰ってくるのを待った。