不器用
いきなり、息子だと言われ、受け止められる者は少ないだろう。
それが、腹を痛めて産んだ存在なら、喜ばしいかもしれないが、自分は孕ませただけだ。
母親も忘れてしまったし、その後にも興味がなかった。
そんな存在は、たくさんいたからだ。
しかし、証拠だと目の前の少年は、自分の写真を見せてきた。
「あなたが……ぼくの、父ですね?」
いつも入れているのだろうか、財布にそれをしまっていた。
その写真でしか知らない父親を、子供はどんな気持ちで見ていたのだろうか。いい感情ではないだろうが。
「そうらしいな」
実感なんて何もない。
しかし、ジョースターの血を感じさせる顔つきの中に、幼い時の自分も見える。まとう雰囲気と金髪のせいだろうか。
「なんだ?文句でも言いに来たか」
「いえ、ただ見たかったんです」
睨みつけるように彼はこちらを見ていた。
「文句の一つくらい言ってやろうかと思いましたが、やめます」
その物言いと立ち振舞いに、小さい頃から苦労しているのだと分かった。幼かった自分と同じだからだ。
孕ませていた女は、悪知恵が働くと言うか、どんな手を使ってでま生き残りそうな意地が悪そうな奴を選んでいた。
それこそ、生きるためなら、我が子を犠牲にしても構わないと考えそうな者たちを。
「で、わたしに何か用か」
「はあ……言ったじゃあないですか。二度も言わせないでください。無駄、無駄なんだ……」
苛ついたのが分かる。自分を睨みつける眼光が冷めていく。
「ふん……」
見たかっただけ。それなら、写真を見ていればいい。歳をとることはない自分は、ずっとその姿だ。
「お前の父は、わたしではない」
厳密に言えば、この体のジョナサン・ジョースターだ。
「おーい、ディオ!」
ちょうどいいところに、その人物が来た。
「あれ……この子……」
ジョルノを見て、少し驚いていた。
「こいつがお前の父親、ジョナサン・ジョースターだ。ほら、ジョジョ、わたしがつくってやったお前の子供だぞ、相手をしてやれ」
ジョルノに軽く紹介し、ジョナサンに任せたと肩を叩く。
自分はヴァニラたちのところにでも行こうと、その場を離れた。
「ディオ!ちょっと……」
部屋を出ていったディオはこちらを見ずに、手をひらひらと振って消えた。
二人きりになり、残されたディオ、もとい自分の体の子供を見る。
「君がジョルノ・ジョバァーナだね?」
名前だけは知っていた。ディオに教えてもらっていたから。
目の前にいる少年は、ディオにとてもよく似ているが、少し自分にも似ている気もする。
「はい、初めまして。ジョナサン・ジョースターさん」
ジョルノは、少し緊張した面持ちで手を差し出してくる。その手を握り返す。
とても礼儀正しい彼がディオの息子とは驚いてしまう。
「ジョナサンでいいよ、ジョルノ」
そう言うと、彼は困惑した表情を浮かべる。
「でも、あの、お、親を……呼び捨てにするのは」
彼はディオの息子だが、自分の子供だと、彼も思ってくれているなら。
「ふふ、それなら、お父さんって呼んでくれてもいいよ」
そう言うと、彼は困ったように少しうつむき、視線を泳がせていた。
「冗談だよ。ジョナサンでいいから」
笑って彼の頭を撫でれば、からかわれたのだと理解したようで、少しむくれる。年相応の反応が微笑ましい。
頭をなでるのをやめると、彼はまっすぐこちらを見て、口を開いた。
「ジョナサン……そう呼びたいときは、呼んでもいいですか……?」
少し頬を赤らめながら、言われた言葉に頷く。
「うん、もちろんだけど……」
彼が消えていった方を見る。
「ディオも呼んであげて。たぶん、接し方が分からないだけだと思うから」
父親として、息子にどう接していいのか分からずにいるのだろう。
実父とは関係が悪かったようだし、自分の父ともあまり関係は良好とは言えなかった。
「不器用だからね」
子供に父と呼ばれれば、嫌でも自覚していくだろう。
普通なら会えなかったのだから、自分のところではなく、ジョルノに会いに行けばいいのに。
ジョルノは黙って頷く。
「分かりました……と、父さん」
いきなりそう呼ばれ、とても嬉しくなり彼を力いっぱい抱きしめた。
ジョルノは正反対の二人の父親に困惑していた。
もう一人は、自分を冷たく突き放し、もう一人はこんなにも、あたたかく自分を抱きしめてくれている。
彼も、父と呼べば、こうしてくれるのだろうか。
少し考えたが、期待しても無駄だろう。やってくれそうにない。
養父も母親すら、こんなことはしてくれなかった。
あり得ない出会いに感謝をしつつ、温もりに目を細めた。