そばにいてあげる
イヴが気がつけば、大きな絵の前にいた。
何をしていたのだろう。必死に記憶を手繰り寄せる。
思い出した。両親と共に美術館に来て、先に一人で作品を見回っていた。
父と母はどこにいるのだろうと、美術館を歩き回る。
一階に降りると、父と母ともう一人、自分と同じくらいの子がいた。
「ねー、お母さん。今日の晩ご飯、なに?」
「んもー、メアリーったら……もう、晩御飯の話?」
「だって、お腹空いたんだもん!」
男の子が自分の母と親しげに喋っていた。
「……あ!」
そのメアリーと呼ばれたその子と目があうと、自分に近づいてくる。
「おかえり」
金色の短髪に、白いシャツに青いスカーフ。緑のズボンに、サスペンダーをしている。
この男の子を知っている気がする。誰かに似ている気がした。ついさっきまで一緒にいた気もする。
「どうしたの?イヴ」
大きな蒼い目が自分を見つめる。この目は知っている気がする。何度もこの目に、自分は写っていた。
手を握られ、一緒に両親のもとへ行く。
「イヴ、見つけたよ!」
この感覚も知っている。手を握って歩いていた。自分が前でこの子が後ろだった気がするけども。
「あらま、イヴ。どこに行ってたの?お母さん、イヴと一緒にまわりたかったのに……」
「まぁ、いいじゃないか。イヴだって、一人で静かに観てまわりたかったのかもしれないよ」
「そうなの?イヴ」
隣の存在に疑問も持たずに、普通に喋る両親。この男の子は誰だったか。
「……さぁ、それじゃあ、そろそろ、帰ろうか?メアリーがお腹空いてるみたいだし」
「そうね。お母さんも喉が渇いちゃった。喫茶店にでも寄りましょうか」
「わーい!喫茶店!」
「イヴ、喫茶店だって!何があるのかな、楽しみだね!」
また、彼は顔を覗き込んできた。
そうだ、彼は自分の弟だ。似てはいないが、彼は自分と双子だ。
なぜ、忘れていたのだろう。あの大きな絵の前から、記憶がおかしい。
「じゃあ、行きましょう」
「うん!」
繋いだままの手をひっぱられ、歩き出す。
両親の背にただ、ついていく。
「イヴ」
名前を呼ばれ、彼を見ると笑っていた。
「ボクが守ってあげるからね」
その言葉は、誰か違う声で聞こえた気がした。
ギャリーの願いも叶えてあげることにした。
彼は、イヴを守ることを第一としていたから。
だから、自分が彼となり、彼女を守るのだ。
「嬉しい?ギャリー」
イヴから回収したライターへと呼びかける。
もう、ライターの持ち主は消えてしまったけども。
彼の分まで、自分が。
イヴのそばにいるだけだ。