ひとりぼっちのメアリー

そこは、自分の部屋。
狭い檻だ。
しかし、そこは、大切な物を守るには、うってつけの場所。
自分以外、入ることがない場所に、イヴが立っていた。
パレットナイフを構え、逃げる彼女を追いかける。
自分の本体が、ここにはあるのだ。それを傷つけられれば、自分が傷つく。
排除しなければ。どんな存在でも。自分を守らなければ。どんな手段を使っても。
「きゃああああ!」
聞こえた叫び声で、我に返った。
胸に抱かれた薔薇を突き刺すパレットナイフ。目を見開くイヴ。
はらりと、薔薇が散る。
「あ……あ……」
パレットナイフを抜くと、花びらが落ちていく。
「……メア……リー」
ゆっくりと、イヴが倒れていく。
薔薇が落ち、最後の花びらが散る。
「……イ、ヴ」
倒れた彼女は、目を閉じていた。まるで、寝ているように。
自分は何をした。彼女とは、友達になって、向こうの世界に行こうと。だから、彼の薔薇を。
力が抜けていく。そこに座り込んだ。
「起きてよ、イヴ」
体を揺すり、呼びかける。
「ねえ、イヴ」
笑いながら、泣きながら、彼女の名を呼び、体を揺さぶる。
「イヴ……!」

目を開けて、名を呼んで。

「今日のおままごとはね」
前に広がるシーツの上には、皿やフォークにティーカップ。
それを三人分。自分の前に一つ、向こう側に二つ。
中心に花瓶を置いて、茎と葉だけの二つの薔薇と、黄色の薔薇。
壁に背を預け、座る二人。
イヴとギャリーは、どちらも、目を閉じて。
「イヴがお母さんでね、ギャリーがお父さんで……」
ギャリーは作品たちに運んでもらった。もしかしたら、イヴが目を覚ますかも、しれないと。
二人を並べても、何も変化はなかったけど。
「私が子供で……」
もう数えきれない程したおままごと。
設定は、様々だ。
イヴが子供だったり、ギャリーが兄だったり。
しかし、この設定が一番、好きだ。
「お母さん、お父さん、今日はね、今日はね」
笑顔で話しかけるが、言葉が出てこない。
「今日は、ね……今日こそ、ね……」
目を覚ましてくれると思った。
淡い期待を抱いて、その時を待っている。
全ては自分が招いたこと。
そんなのは、分かっている。
分かっているけど、認めたくはなかった。
「イヴ、ギャリー」
返事は返ってこない。いつまで続くのだろうか、この一人遊び。
向こうの世界に行くことも考えた。
出口へと続く、扉の鍵がどこかにいってしまい、扉は開けられず。
もう、行く気も失せている。
二人の間に座って、二人の手の上に手をのせる。冷たくもあたたかくもない。
膝を抱え、膝に顔を埋める。
あの時みたいに、三人で喋りたい。
なんだかんだで、一番、楽しかった。

ごめんなさい、ギャリー、イヴ。

もう、後悔しても遅いのだ。

真ん中にいるメアリーを二人は見つめる。
「今日もメアリー、起きないね」
「不思議ねえ」
イヴとギャリーが起きると、毎回、メアリーは寝ているのだ。呼びかけても、体を揺すっても起きない。
「起きてくれたら、あの茨も消えるのかしらね」
入り口を塞ぐ茨。あれをどうにかしなければ、ここからは出れない。燃やそうにも、ライターはオイルが切れ、つかない。
「でも、何もない部屋ね。メアリーは寂しくないのかしら」
この部屋には、何もなく、殺風景だ。
「寂しいから、私たちを閉じ込めてるんじゃないかな?」
あの茨が出口を塞ぐように。
「そうかもね」
イヴが名前を呼ぶ。
ギャリーも名を呼ぶ。

少女は起きない。






後書き
イヴさんを刺しこ……ゲフン、ゲフン、薔薇を散らした後は、メアリーはどうするんだろうと、妄想しました
ままごとしてるといいな、と思いまして
メアリーはメアリーの部屋にいますが、イヴとギャリーは少し違うメアリーの部屋にいます
メアリーが可愛い
メアリー単独エンディング作ってくれないかな


2012/09/19


BacK