初めまして メアリー

「初めまして、メアリー」
その男性は、笑って言った。
こちらを見つめる彼は、自分の父親なのだと、本能で分かった。
「君は、黄色の薔薇を」
手に握られている黄薔薇。
でも、自分はもっと違う色がいい。そのパレットにある様々な色の方が。
「オトーサン」
そう呼びかけても、反応はない。
ただ、優しい笑顔を向けられていた。

父から与えられたのは、美術館の一室とスケッチブックとクレヨン。
寂しくないようにと。
父と会ったのは、それで最後。
最初は広い美術館を歩き回り、様々な作品を見たりして、楽しかった。
自分の好きな色を集めた人形を作ったり。
スケッチブックに描いた世界を創り出したりして。
しかし、額縁の向こう側の世界を見てから、向こうの世界に行きたくなった。
本を読んで、向こうの世界に行く方法を知った。
この美術館に迷い込んだ人を、閉じ込め、出口に行けば、出られるらしい。
作品たちは、お客様を招待できるらしい。自分は、そんなことできないけど。
ずっと待った。お客様が来ることなんて、なかったから。
暇つぶしに、向こうの世界を映す、絵を見る。
「あ……」
自分と同じくらいの女の子がいる。その子が持つのは、赤薔薇。
自分と然程、変わらない。
「友達になりたいなあ」
一緒に人形遊びしたり、絵を描いたり、お菓子を食べたりして。
赤い目に、人形を思い出す。綺麗な赤。胸に揺れるリボンが可愛い。
もう一つの絵画を見れば、そこに綺麗な青薔薇を持つ、男性。
「わあ、キレイ」
その薔薇に釘付けになる。一番、好きな色。
「欲しいな……」
花びらも多く、大きな薔薇。
近くで見たら、きっと、もっと綺麗なのだろう。

自分の部屋に戻り、今日見た人を、スケッチブックに描いた。赤薔薇の少女と青薔薇の男性。その横に描くのは、自分と人形。
満足して、笑う。
スケッチブックを置き、部屋を出ていくことにする。
近くに落ちていた黄薔薇を持って。
「誰か来ないかなあ」
お客様を探しに美術館へと向かった。






後書き
スケッチブックの世界でギャリーさんも描かれていることに、喜びました
仲間はずれじゃない!
しかし、邪魔者をメアリーがわざわざ描くのかなと
イヴに合流する前に描いたと思ったのです
好きな色の薔薇を持つ人として
作品たちには、人が持つ薔薇が見える能力でもあるんですよ


2012/09/05


BacK