時には恋人らしく
報告書をエルヴィンに提出し、部屋に戻っていたところを途中で、ハンジに捕まえられた。
「ねえ、部屋にいっていい?」
なぜと聞き返せば、リヴァイは私の部屋に入りたくないでしょうと返ってきた。
彼女の部屋は、本と資料にまみれ、足の踏み場がないことだってある。たまに掃除をしにいってやることも。
「町に出た友人がさ、珍しいお土産くれたんだよ。一緒に食べよう?」
彼女は手に持っているものを見せてきた。小さな箱。
「一人で食え」
その量では、一人で食べきれる、いや、二人では少なすぎる量だ。
「おいしいものは、誰かと一緒に食べると、もっとおいしいんだよ!」
では、他の者を誘えばいい。エルヴィンにミケ、ナナバ、自分の部下やハンジの部下のモブリット。彼女からの誘いでも、おいしいものを食べられるなら断らないだろう。
「他のやつを」
「いいじゃないか!一緒に食べよう!……ということで、リヴァイの部屋へ」
自分の腕を掴むと部屋へと歩き出す。
腕を掴む力とその足取りから、彼女は自分に聞く前から決定事項だったのだろうと分かった。
聞いたのは、一応だ。嫌だと言っても今のように、無理矢理、連れていかれたのだろう。
ハンジの友人からの土産なら、大丈夫だろうと大人しくついていくことにした。
自分の部屋に入り、ハンジは我が物顔で椅子に座り、箱を目の前の机に置く。
早く早くと、横を叩き急かすので、彼女の隣に座る。
「じゃ、じゃーん」
箱を開けると、それは四角いチョコレートだった。小分けにされ、四つしか入っていない。
「高級品じゃねーか」
これは、いわゆる貴族のおやつだ。これの存在も味も知らずに死んでいくものも多いし、自分も見たことだけはあったが。
「前に巨人に食べられそうになったのを、助けたらね」
命の価値としたら、チョコレートは安い。ハンジはそんなものを期待して助けてはいないだろう。巨人を狩るのが、彼女を動かしている衝動だ。
チョコレートを一つ、つまむと自分の前に持ってくる。
「はい、あーん」
「餓鬼じゃねえぞ」
馬鹿にされているようで、睨みつけたが、彼女は溶けるとうるさい。
しかし、チョコレートがもったいなく、彼女の指からチョコレートを口で取る。
口の中が、とても甘く、美味だ。さすが、贅沢品。値段が高いのも頷ける。
「おいしい?」
感想を聞かれ、頷く。彼女は、指についたチョコレートを舐め、おいしいと笑う。
「ねえ、食べさせてよ」
「餓鬼じゃねえだろ」
似たような台詞を、いまさっき言ったと思う。
「恋人らしいことしようよ」
彼女の口から出た言葉に固まる。
そんなこと、夜になれば散々している。今さらだ。
彼女がチョコレートを自分にそう食べさせたのも、そんな理由だったのだろう。
「……分かった」
少しは付き合ってやることにする。目の前でああだこうだと、うるさいのを黙らせるためにも。
チョコレートをつまみ、彼女の口の前まで持っていくが、食べようとした瞬間、そのまま自分の口の中に。
非難の声があがる前に、彼女の後頭部に手を回し、口を重ね、チョコレートを口移しする。
「ほらよ」
食べさせてと言ったのは彼女で、方法は指定されていない。口から口など、恋人らしくていいではないか。
文句を言われる筋合いはないと、呆けてる彼女を見ていると、笑いだした。
「いやー、リヴァイがねぇ」
そう言うハンジはとても嬉しそうで。
「一緒に食べるとおいしいでしょう?」
自分のチョコレートをつまみ、口に入れる。
「うめえな」
口の中も、部屋に充満する香りも、漂う雰囲気も全て甘い。
こういうのも、たまには悪くないかもしれない。