甘いものはお好き?
「リヴァイー!」
部屋にやってきたハンジから、違和感しか覚えない匂いがしてきた。
「お前、香水つけてるのか?」
いきなり、色気づいてきたのか。彼女の部屋でそういう物を見たことはないし、今までつけてきたこともなかった。
「ん?」
ハンジはその匂いが分からないのか、腕を嗅ぐ。
「甘ったるい匂いがしやがる」
そう言うと、何かに気づいて、嗅ぐのをやめ、笑顔をこちらに向けてくる。
「ああ、コレ、これのせい」
彼女が差し出してきたのは、可愛らしく飾りつけされた小袋。
「あげるよ」
「なんだ?」
そう聞くが、笑顔のまま袋を差し出している。
何かあるなと疑いつつ、それを受け取る。
軽い。中には何か入っているようだが。
「あけて、あけて!」
目を輝かせながら、子供のようにねだってくる。
嫌な予感しかしないが、袋を閉じているリボンを外し、中を見る。
「……?」
袋の中に手を入れ、取り出せば、クッキーだった。
「皆で作ったんだ。今日は、大切な人に贈り物をする日なんだって」
そんな日があるのか。地下で暮らしていた自分には関係ないことだった。
「食べてよ。味は私が保証するよ!」
その言葉が一番、信用ならない。
眉間にシワを寄せ、彼女を見る。
「変なもん、入ってねーだろうな?」
「入ってないよ」
何かあれば、鉄拳制裁をすればいいと、クッキーを口の中に放り込む。
「どう?どう?」
甘い、普通においしいクッキー。飲み込んだ後に、何も変な味がしなかったことと、体に何も変化がないことに、安心する。
最近、あまり味気のないものばかりで、久しぶりに味がはっきりしたものを食べた。
「甘いな」
「そんな感想じゃなくて……おいしかった?」
「ああ」
素直に頷き、またクッキーを口に放り込んだ。
ハンジは飛び上がって喜んでいる。
「味見したから、味は大丈夫なんだけど、甘いもの苦手だったらどうしようかと思ったよ」
「お前が作ったやつなら、変なもんが入ってねえ限り、なんでも食べてやるよ」
彼女が自分のために作ってくれたならば、味が悪くても食べられるだろう。
不意打ちだった。
お菓子をあげただけで、彼らしくない言葉が出てくるとは。
ハンジは返答に困っていた。嬉しいと言えばいいのか、らしくないと茶化せばいいのか。
「お前にとっては、俺は大切なやつなんだろ」
大切だ、彼は付き合いも長く、仲間以上の関係だ。
男女の関係にはなっているが、彼はあまりそういうものに執着していないと思っていた。
そんな言葉を言ったことはないし、自分も言うことも聞くこともなかった。
「おい」
頭を掴まれ、我に返る。
「うんとかすんとか言いやがれ」
リヴァイの顔が近づいてくる。
頭を掴まれているため、動けない。
「す、すん……?」
何か言わなければと言葉を発したが、呆れた顔をされた。
「そこは、うんって言えよ、クソメガネ」
唇が重なり、すぐに離れた。
見ているハンジは戸惑っており、あまり見ない表情をリヴァイは楽しんでいた。
恋愛のことになると、彼女は慣れていないのか、たちまち大人しくなる。
巨人の時も、こんな風なら周りも苦労しないだろう。
「俺は、ハンジ、お前を大切なやつだと思っている」
どうなんだと問うように、目を見つめる。
顔を赤くした彼女は、目を泳がせていたが、こちらを見る目が覚悟を決めたように眼鏡越しに光る。
「……うん。私もあなたが大切さ、リヴァイ!」
腕を広げ、飛びかかってきた。
腕が体に周り、力強く抱きしめられる。
触れる体とあたたかさ。
「悪くない」
今日は盛大に甘やかしてやろうと思う。
貰った菓子の礼だ。