わたしたちの幸福論


大きな天涯付きのベッドに忍び寄る影があった。必要最低限と言える数個の蝋燭の明かりが男を照らしていた。
J・ガイルはこのベッドで寝ているであろう主の姿を思い出し、舌なめずりをした。
吸血鬼だという彼女は傾国の美しさ持ち、妖しげな色気をまとい、豊満な体をしている。
シーツに隠れていない、白い脚が見えている。
頭の中では何度も犯してきたが、やはり本物はもっといいだろうと、息を殺し、近づいていく。
「彼女に何か用かい?」
突然、聞こえた声に体を止める。
「J・ガイル」
突然、後ろから殺気を感じ、全身から汗を吹き出す。動けば、首が落ちそうな鋭く冷たい殺気だった。
「い、いや、ちょっと……報告を……」
その場を取り繕うだけの嘘を吐く。
ゆっくりと体を動かし、振り向けば、自分を見下ろす冷たい目をした巨体の男。
「ディオは寝てるから……後にしてくれないかい」
彼は扉を指す。
「あ、ああ」
そこを目指し、歩いていくが、体がうまく動かない。まるで、蛇に睨まれた蛙のように。
「さっさとしてくれ」
その言葉が背にぶつかった瞬間、転げるように部屋から出た。
廊下に出て閉まった扉を見て、舌打ちをし、そこから遠ざかった。

「……ふう」
扉を閉めたジョナサン・ジョースターは息を吐く。
「誰が来た?」
聞こえた声にベッドに近づいていく。
「J・ガイル。起こして、ごめん」
ディオ・ブランドーは目を開け、こちらを見ていた。
「あの人……信用ならないんだけど」
彼は信用していない。部下に引き入れたポルナレフが探している妹殺しの犯人でもあった。
それと、彼女を見るあの目。
「エンヤ婆の息子だ……スタンド使いだしな。そう邪険にするな」
起き上がらせろと腕を伸ばしてきたので、屈み抱くような形で、彼女を起き上がらせる。
何もまとっていない彼女は、そのまま、自分に身を預ける。
「スタンド使いなら他にも……」
彼以外にも沢山いるのだ。もっと探せば、彼より有能なスタンド使いはいるだろう。
「大丈夫さ。わたしにも能力はある……きさまもいるのだ」
琥珀色の目がこちらを見る。
彼女の能力があれば、退けることは容易いだろうが、万が一がある。その万が一のために自分がいるのだが。
「うん」
彼女のそばにいる限り、自分は彼女を守るのだ。危害を加えるのが、誰であったとしても。
「……呼んでくる?」
「ああ」
彼女は自分から離れ、ベッドをおり、クローゼットに向かっていく。
自分は部屋を出た。

一室に入ると、ヴァニラと自分たちの子供が遊んでいた。
「ジョナサン様」
「パパ!」
こちらを向いたジョルノは椅子から降りると、こちらに駆け寄ってくる。
膝をつき、腕を伸ばし、彼を抱きとめる。
抱き上げた彼はとても嬉しそうに笑う。
「ジョルノ、ママが起きたよ」
そう言えば、彼は自分と同じ色の目を輝かせる。
「おはよう、言う!」
「うん。相手してくれてありがとう、ヴァニラ」
「いいえ」
ヴァニラは、頭を下げる。
この館にいる人物の大半が、ジョルノの遊び相手だ。
自分たちが構ってやれない時間が多いため、人間である部下たちが世話をしてくれている。
自分も起きている時間は一緒にいるようにしている。
先ほどは嫌な臭いがしたため、ジョルノをヴァニラに預け、妻のところに行っただけだ。
部屋を出て、また妻であるディオの部屋に戻った。

部屋に戻れば、服を着たディオが待っていた。
「ママ、おはよう!」
「おはよう、ジョルノ」
彼女は笑顔で挨拶を返すと、こちらにと腕を差し出してきた。
抱いていたジョルノを彼女に渡す。母に抱かれたジョルノは、胸に顔を埋める。
「今日は誰に遊んでもらったんだ?」
彼女は優しく頭をなでながら、短い黒髪を指で鋤く。
「パパとチェスをしてね、ヴァニラとトランプした!」
「楽しかったか?」
「チェスは難しいけどトランプは楽しかったよ。今日もヴァニラに勝ったんだ!」
「そうか、そうか」
にこやかに報告を聞く彼女。
端から見ては普通の親子だろう。
ちゃんと自分たちは血は繋がっている。ディオと自分の間にできた子供だ。
しかし、吸血鬼の間に産まれた彼はただの人間だった。
血を欲することもなく、太陽の下でも普通に生活ができる。
自分たちの同族にすることも考えたが、我が子を手にかけるほど残酷ではなかった。
彼が自分たちが人間ではないことに気づいた時には、真実を話すつもりではあるが。
太陽の下にいけないのは、病気だと部下たちは言っているらしい。だから、昼間は寝ているのだと。
まだ小さい彼は狭い世界で生きている。違和感など感じていないだろう。
自分たちの生きている世界が狭いのだから、しかたないのかもしれない。
「ママ、昨日の続き読んで」
「それは、ジョルノが寝るときにしよう。そろそろ、飯の時間だろう」
「……はーい」
食堂に行くために、両手がふさがっている彼女の代わりに扉を開くと、ちょうどこの館の執事に鉢合わせた。
彼はジョルノの食事の準備が、できたことを知らせにきたと言うので、彼とともに食堂へと向かった。

DIOの横でジョルノが夢の中へと飛びだったことを確認し、本を閉じた。
「でかけてくる」
息子が起きないように、ベッドから出て、ジョルノに寄り添うジョナサンに声をかける。
「ディオ」
呼ばれて、彼に近づけば、後頭部に手が回り、唇が重ねられた。
「……いってらっしゃい。ジョルノが寂しがるから、早く帰ってきて」
「わかっているさ」
寝ているジョルノの頭を撫でて、部屋を出ていく。
この平穏を守るため必要なことなのだ。





後書き
女体化のDIOと無駄親子は初めてですね
このDIOはジョナサンが復活させてます
棺にジョナサン丸々と、首だけのディオが入った設定です
J・ガイルはDIOが女性なら、見境無さそうだなと思って最初を書きました


2017/02/01


BacK