酔っ払いと紳士


いきなり部屋の扉が開き、そこにはディオが立っていた。
「お嬢様!」
使用人がディオを追いかけてきていたが、そんなことに気づいていないのか、おぼつかない足取りで、自分の前までやってくる。
「ディオ、酔ってるね?」
本を閉じ、テーブルに置く。
酒の匂いと、真っ赤な顔。フラフラしているのは、平行感覚をなくなっているせいだろう。
友達と町に行って、飲んできたのだろうか。
「酔ってない、わたしは酔ってない!」
そう言うのは、酔っている証拠だと呆れていると、いきなり掴みかかってきた。
「なぜ、わたしの部屋にいる?ジョジョ!」
ここは、自分の部屋だ。ディオの部屋は隣。
「お嬢様、あの……」
使用人は、彼女をなだめようとしていたが、聞く耳は持たず、ガクガクと自分を揺さぶるだけ。
「大丈夫。ぼくに任せて」
揺さぶるのを抑えつつ、オロオロしている使用人に言う。
「す、すみません、お坊っちゃま。よろしくお願いします……」
彼女は頭を下げ、部屋を出ていった。二人っきりになり、一応、言ってみる。
「ここは、ぼくの部屋だよ」
「何を言っている。貴様の部屋は、隣だろう」
嫌悪を顔にありありと出しながら、睨みつけられる。
その言葉をそのままそっくり返したいが、自分の部屋を判別できないほど、酔っ払っているようだ。
「もういい!」
服を離すと、彼女はベッドへと向かっていく。
「だから、君の……」
ベッドのそばまで行くと、髪飾りを取り、ドレスの紐を解いていく。
慌てて彼女に駆け寄り、手を掴んだ。
「なんだ?」
「君の部屋は隣だよ」
「わたしは眠い」
手は振り払われ、彼女は自分がいるにも構わずに脱いでいく。白い肌が露になっていくのを、見てられず、背を向けた。
服が擦れる音だけが聞こえ、布が床に落ちる音がすると、ベッドが軋む音とシーツがひるがえる音。
少し時間が経つと、寝息が聞こえてきた。
本当に寝たのだと、彼女の方を見れば、シーツで隠れるところは隠れていたが、すらりとした脚と肩が出ていた。
見ないよう目をそらしながら、シーツをかけなおし、体全体を覆い隠した。
シーツで包んで、彼女の部屋まで運ぼうと思ったが、起きて文句を言われるのは、ごめんだとそのままにすることにした。
今さっきの剣幕はどこへやらと言いたくなるほど、寝顔は穏やかだった。
黙っていれば、とても美しい人なのに。
自分にだけは、態度が違う。それは、初めて会ったときからだ。
父の前や使用人の前では、仲がよく見られているため、密やかに自分とディオが結婚するのではないかと、言われている。父もそれを少なからず、望んでいるようだ。
しかし、幼い時の彼女からの嫌がらせのこともあり、彼女を信用してはいないし、彼女は彼女で今でも、自分を気に食わないようだ。
別々に、違う人と結ばれた方が、幸せだと思う。
彼女は、様々な男性からアプローチされている。告白されているのを何度か見たことがある。その度に、断っているようだが、男性からはまだ慕われているようだ。
「はあ……」
彼女から視線を外し、自分はどこで寝ようかと、部屋に視線を向けた。

起きて、感じたのは気分が悪いということだった。
頭も重い。
昨日は、友人たちと酒を飲んで、迎えにきた馬車に乗って。
そこから、記憶が飛んでいる。
目を開け、起き上がろうとしたが、二日酔いのせいでそれもままならない。
できたのは、寝返りぐらいだった。
「……?」
閉じていた目を開くと、自分の部屋ではないことに気づく。
視界の端で、何かが動くのが分かり、そちらに目をやれば、ジョナサンが頭をかいていた。
こちらを見ると、立ち上がり、やってくる。
「おはよう、ディオ」
「なぜ、わたしが貴様の部屋で寝ている?」
「覚えてないのかい?酔っ払った君が、自分の部屋と勘違いしたんだよ」
記憶がないため、何も言えない。
しかし、ここは彼の寝床。いつまでもいるわけにはいかないと、起き上がろうとしたが、そばに置かれているドレスに、自分が何も着ていないことに気づいた。
「き、貴様が脱がしたのか?」
「それも、君だよ。もう君がぼくのベッドで寝るから、体が痛いよ……」
ジョナサンはあくびをしていた。
シーツで体を隠しながら、起き上がろうとしたが、うまくいかない。
「寝てなよ。水、持ってくるから」
ジョナサンはそう言うと、部屋を出ていった。
動いたせいか、気分が一層、悪くなった。
彼の言葉に従うのは癪だが、戻ってくるまで横になる。

「起き上がれるかい?」
自力で起き上がろうとしたが、うまくいかず、ジョナサンの手を借りるはめになった。
グラスに入った水を差し出され、受け取る。
「……礼は言おう」
「どういたしまして」
嫌々、言えば、それを彼は笑顔で、受け流す。
水をあおると、気分はマシになる。
空になったグラスをジョナサンが回収し、テーブルに置くと、また、こちらに来た。
「部屋に戻れるかい?」
「ああ」
「じゃあ、ぼくが部屋を出ている間に、服を着て戻ってね」
水差しとグラスをトレイに乗せそれを持って、ジョナサンは部屋を出ていく。
ドレスを掴み、ベッドから立ち上がり、身を包むシーツを外して、ドレスを着ていく。
まだ頭はクラクラし、ドレスを着終わると同時にしゃがみこむ。気持ちが悪く、口に手をあてる。なぜ、昨日はここまで飲んでしまったのか。
「ディオ!」
案外、早く戻ってきたジョナサンは、自分にかけ寄ると、膝をつける。
「大丈夫……じゃあなさそうだね」
「大丈夫、だ」
口から手を離し、立ち上がるが、体が揺れ、倒れまいと彼の腕を掴んでいた。
「無理しない方がいいよ」
そう言うと、一瞬で足が地から離れた。
「おろせ……!」
また、吐き気が襲ってきて黙ることになる。
「部屋に運ぶだけじゃあないか……」
呆れたように彼は言うと、歩き出した。

二日酔いのせいで部屋で休んでいたが、ジョースター卿からほどほどにという、苦言を呈されてしまった。
素直に反省する。
「気分はどうだい?」
「お前のせいで優れん」
ジョナサンが自分の様子を見にやってくる。
あしらうが、君が心配なんだよと言って、ことあるごとに訪れた。
いらない心配だし、彼には心配されたくもない。様子は使用人も見にきてくれる。
「ええい!来るなッ!」
二日酔いがなくなった夜にも来たので、枕を投げつると、それはやすやすと受けとめられ、そこまで元気なら大丈夫だねと笑うと、ようやく部屋には来なくなった。
その後は、枕にやつあたりをしたが、気分は晴れなかった。





後書き
酒ッ!飲まずにはいられないッ!ということでお酒ネタ
たぶん、ディオは愛称で名前はもうちょっと長いんだと思います
ジョナディオでもいいかもしれない……
二人が絡めば、幸せです


2013/04/14


BacK