歌声に誘われて
歌声が聞こえ、誘われるように行けば、そこにはディオとその前には、子供たちが。
ディオが歌っていた。彼女の声はよく通る声で、皆が聞き惚れているのか、静かだった。それを少し離れたところで聞いていた。
歌が終わると、子供たちが拍手し、もてはやす。
彼女は笑顔で応えていたが、こちらに気づくと、もう終わりだと言ったが、子供たちは聞きたいらしく、駄々をこねていた。
「歌ってあげなよ」
彼女たちに近づき、そう言うと、子供たちがこちらを向いた。
一人の少女が近づいてくる。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんの歌、聞きたいの?」
「ああ」
頷くと、手を引っ張られ、彼女のもとへと連れていかれた。
「ねえ、お姉ちゃん、このお兄ちゃんも聞きたいって」
その言葉を皮切りに、周りにいた子供たちも声をあげる。
「ボクも聞きたい!」
「アタシも!」
「俺も!」
子供たちのアンコールに、彼女はため息をつく。
「……分かったわ。静かにするのよ」
「はあーい!」
元気な声とともに、手を高々と上げる。しかし、その言葉は子供たちではなく、自分に向けての言葉だろう。
自分は子供たちの後ろで座って聞くことになった。
一瞬、彼女が睨みつけてきたが、目を閉じると、歌い出す。
知っている曲ではなかったが、その歌声に聞き入った。
彼女と長年、一緒に過ごしているが、歌がうまいことは、初めて知った。関心してしまう。ディオができないことなどないように思う。
歌が終わると、今日はこれで最後だと、終わりを告げた。
まだまだとせがむ子供たちに、また今度と頭をなで、宥める。
「じゃあねー」
「また歌ってよー」
「ばいばーい」
去っていく子供たちは手を振る。手を振り返していたが、見えなくなると、怒りまじりの視線。
「邪魔……だったね」
視線をそらし、立ち上がる。
「ああ、こんなでかい子供がいてはな」
彼女を見れば、やはり怒っていた。
「いつも歌ってあげてたのかい?」
その怒りが少しはまぎれないかと、話題をふった。
「いや。初めてだ。知っている歌だったからな。教えてやろうと少し歌ってやったら、せがまれてな」
そこから、あれもこれもと注文がきて、歌っていたらしい。
「ディオは歌も、うまいんだね」
「世辞を言っても何も出んぞ」
本心なのだが、彼女は素直に受け取らない。
いつものことなので気にはしないが、少しは喜んでもいいと思う。
「歌を聞かせてくれたお礼に、ご飯、一緒に食べに行こうよ」
町に買い物のついでに、昼食を食べるつもりだった。
「なぜ、貴様と……」
嫌な顔をしたが、彼女から腹が鳴る音が。
罰が悪そうな顔。
「奢るから、行こうよ」
彼女が空腹のように、自分も空腹だった。
歩き出すば、彼女歩き出す。
「美味いところに連れていかなければ、許さんぞ」
「分かったよ」
彼女の口にあうかは分からないが、とっておきの店に連れていこう。